前編
むかしむかし、あるところにネズミが歩きながらたびをつづけています。ネズミは、歩くのをとちゅうで止めるとあたりをキョロキョロと見回しています。
そんな時、草むらからシマネコがいきなりネズミにとびかかってきました。
「うまそうなネズミを見つけたぞ。大きな口に入れて食べちゃおうかなあ」
「う、うわっ!」
ネズミは、いそぎ足でひっしににげようと走りつづけています。シマネコのほうも、ネズミをつかまえようと後ろからおいかけています。
そこへ通りかかったのは、どこかのんびりとしたふんいきの大きな牛です。ネズミは、すぐさまその牛の毛の中にもぐりこみました。
「あのネズミ、どこへかくれやがった」
とつぜんすがたをけしたネズミをさがそうと、シマネコは大きな牛に話しかけました。
「おい! ここらへんを走っていたネズミはどこにいるんだ!」
「う~ん、そんなのは知らないなあ」
のんびりとした大きな牛の口ぶりに、シマネコはいかりをにじませながらもほかのところへ行きました。シマネコがいなくなったことをたしかめると、ネズミは大きな牛の毛の中から顔を出しました。
「おやおや、どうしてわしの毛の中にネズミがいるんだい」
「牛さん、ごめんごめん。シマネコがぼくを食べようといきなりおそいかかってきたんだ」
ネズミがこれまでのいきさつを話すと、大きな牛はのんびりとそれを聞きながらすぐにうなずきました。
「ところで、ネズミはどうしてこの道を歩いていたんだい」
「ぼくはねえ、ウサギさんのおもちが食べたくてさがしているけど……。どこに行けばいいのか分からなくて」
大きな牛は、ネズミのねがいを聞いてすぐにあの場所のことを思い出しました。
「それなら、わしがそのおもちを食べるところまでつれていってあげようか」
「わあ~っ! 牛さん、ありがとう!」
ネズミは、大きな牛にのってウサギのおもちが食べられるところへ行くことになりました。けれども、草むらからそのようすをのぞいていたシマネコは自分のえものを見のがしません。
「へっへっへ、あんなのろまな牛といっしょなら、すぐに大きな口でネズミをのみこむことができるぜ」