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9 冒険者組合へ報告に行く

 町外れにライラさんの定宿がある。

 部屋をそれぞれで借りるとライラさんは、


「今日は疲れた。とりあえず寝させて。明日、詳しく話を聞くから」


 そう言って部屋に入っていってしまった。

 私たちはそれぞれの部屋で一夜を過ごした。


 翌日、朝早くにライラさんが部屋を訪ねてきた。

 部屋に備え付けの椅子にライラさんが座り、私は寝台に腰掛ける。


「なんだか悪い夢にうなされてたわ。さて、昨日の話の続きだけどさ。あなたが森の木々を切り裂いて、魔物を叩き潰したってことで間違いないんだよね」


 ライラさんはまだどこか疑っているようだ。


「は、はい」


 私は昨日の状況を思い出してライラさんに説明をした。

 ライラさんはまたもや頭を抱えていた。


「ごめん、やっぱり信じられない。でも、昨日のあの光景は今でも目に焼き付いてるし、事実なんだろうね。それでも頭が追いついていかない」


 とりあえず私たちはゴブリン退治の依頼を達成したことを、冒険者組合に報告にいくことにした。


 ライラさんは、昨日あそこで起こった出来事を組合に報告しなければならないそうだ。しかし、どう説明したらいいのか頭を悩ませている様子だった。



   ***



「珍しいですね。報告がこんなに遅いのも」


 受付のメルダさんが不思議そうな顔をしていた。


「いろいろあってね」


 ライラさんは依頼の報酬である銀貨三枚を受け取り、二枚を私に渡してくれた。


「これ、昨日の報酬ね。えっとまあ、本当は銀貨二枚じゃ足りないんだろうけどさ、一応ノーマルなゴブリンを倒した数ってことで。最初の一匹は私が殺して、二匹はあなただから」


「えっと、私はいろいろ失敗してしまったし、ライラさんがいたおかげもありますし。私が多くもらうのは申し訳ないです。あの、せめてライラさんが二枚で、私は一枚に」


「いやいや、これでも足りないくらいだから」


 強引に私の手に銀貨を握らせてくる。

 歯切れが悪いやり取りをしていたライラさんと私に、メルダさんは首をかしげる。


「なんだか変な会話ですね」


 一方で、私は初めて受け取った報酬の喜びに酔いしれた。


「すごいですね。本当に銀貨がもらえるんですね。これ、一生の宝ものにします」


「あんたね……」


 ライラさんは呆れた顔をする。


 私は手のひらにある二枚の銀貨を見つめる。それはどんな金貨よりも重く価値がある気がした。


「メルダ、悪いんだけど。組合長いる? 報告しなきゃいけないことがあって」


「はい、上におります」


「リッチがさ……、森に出て……」


「森に? リッチですか? まさか、そんなことがあり得るのですか。信じられません」


「いや、ほんとに。私だって信じられないよ。問題はそれだけじゃなくてさ。もっといろいろと、あるんだよ」


「まあ、詳しくは上で。気になるので私も話を聞かせてもらってもいいですか?」


「もちろん、じゃあ、おじゃまするね。フィルもおいで」


 とつぜん声がかかって驚いた。

 銀貨を眺めるのに夢中になっていたからだ。


「え、私ですか?」


 ところがメルダさんがそれを遮る。


「だめです。七級冒険者の方が二階へあがることはできません。三級以上でないと立ち入りが許されていません」


「ああ、そうだった。忘れてた。でもフィルは昨日の関係者なんだよ。それでもだめ?」


「組合長の許可が必要ですね」


「じゃあ、組合長の許可をもらおう。フィル、あとで来てね」


「わかりました」


 私は答える。


「フィルさんは別にいなくてもよろしいのでは? ライラさんだけで十分でしょう」


 メルダさんの問いかけをライラさんは否定する。


「いや、まさにフィルが当事者でさ。本人がいないと話にならないんだよ」


「そうなのですか」


 腑に落ちない様子のメルダさんだったが、ライラさんと二階へ上がっていった。


 二人を見送ったあと、私はまた銀貨に目を移した。鈍い色だが、光を当てると金貨よりもきれいに見えた。


 初めての報酬。


 自分の力で得たのだと思うと、少し胸が熱くなった。


「たかが銀貨二枚でうれしいのかよ」


 いじわるそうな声が聞こえた。


 細身の男性冒険者が横にいた。首のチョーカーには二つの宝石。髪はぼさぼさで、切れ長の細い目をしていた。緑の服を着ていたが、よくみると部分的に金属で補強されている。


「よお、俺は五級冒険者のボルザっていうんだ。めずらしいな女の冒険者なんて」


「あ、えっと。よろしくお願いします。昨日、冒険者になったばかりのフィルといいます」


 私はお辞儀をする。


「すげえな。昨日ってことはまだ七級だろ。それでもう報酬か。なら銀貨二枚で大喜びか。そんで、どんな依頼だったんだ」


「えっと、ゴブリン退治です」


「え、ほんとか。馬鹿にしたみたいなこと言って悪かったな。いや、女でしかも、七級でゴブリンを単独討伐か。意外と度胸あんだな」


「いえ、私一人じゃなく、ライラさんという一級冒険者の方といっしょでした」


「ああ、なるほどな。そういうことか。七級で女じゃゴブリンは無理だな」


 心底馬鹿にしたような口ぶりに少しむっとした。


「ゴブリンなんて弱いですよ。私でも二匹倒せましたし」


「それは一級冒険者に頼ってだろ。この傷は何だよ。この、できたばかりの傷はよ」


 ボルザと名乗った男は私の額に指をさす。


「あ」


 私は額に手をやった。昨日の傷がかさぶたになっていた。


「ライラさんってさ、俺らのあこがれ的な存在なんだよ。女冒険者でしかも一級でさ。それがお前みたいなひょろった七級の指導ってさ。もったいないよな」


「やっぱりそうですよね。強いんですよね、ライラさん」


「強いなんてもんじゃないぞ。オーガを単独討伐したって聞いたぜ。それが一級昇格の決め手になったらしい。すげえよな。人間離れしてるよ」


「オーガってそんなに強いのですか?」


「オーガはな見上げるほどの巨体に、かなりの重量で攻撃が振り下ろされるんだ。一回だけ遭遇したことがあるんだけどよ。もう逃げるしかできなかったよ。やつの一撃が岩にぶち当たったおかげで、なんとか直撃を避けることができた。生きてたのが幸運だったよ」


「ライラさんはそれを単独討伐したなんて。本当にすごいんですね」


「そうだろ? そんなすごい人なんだから、お前みたいなのが手をわずらわせるなよ」


「はい、わかりました」


 私はこくりと頷く。


「そうだ、七級なら俺達のパーティの荷物持ちでもやらねえか。軽量化ライトウェイトの魔法くらいは使えないのか?」


「いえ、使えません……」


「あ、そうか。ごめん。七級だもんな。まだ魔法習ってないか」


「はい……」


 私が魔法を使えないことはだまっていたほうがいいのだろうか。


「じゃあ、どうしようか。こんな細い腕じゃ荷物持ちもきついもんな」


「あの、それって、お金をもらえるんですか」


「報酬か? まあ銅貨二十枚ってとこかな」


「ならやらせてください!」


「でもけっこうきついぞ。まあ後衛に配置されるから命の危険はないけどよ」


「それでもやりたいです。あの、一応ライラさんに聞いてみてもいいですか? もしかしたら今日も指導してくれるつもりでいるかも知れませんし」


 ボルザと話をしている時、二階から階段を降りてくる複数の足音が聞こえた。ライラさんたちだった。彼女から私に声がかかる。


「フィル、話があるから。二階に来れる?」


 ライラさんが手招きする。その後ろには高齢の男性がいた。白髪頭だが、体格は筋骨隆々といった感じでたくましい。彼が組合長だろうか。


「すいません、ボルザさん。またあとで」


「ああ。それじゃあ、ここらにいるからまたあとで声をかけてくれ」


「わかりました」


 私はライラさんのあとに続き、二階へと上がった。



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