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3 初めてのゴブリン退治へ

 初めてのゴブリン退治に向かう。

 一人では危険が伴うため、ライラさんが同伴してくれることになった。


「あなたのことはフィルって呼ばせてもらうわね。ルディアス様の妹とはいえ、私は先輩冒険者。きっちりしごかせてもらうわよ」


 一級冒険者らしい鋭い目つきで、依頼内容の説明を始める。


「じゃあ、フィル。この依頼だけど、ゴブリン三匹の討伐よ。三匹というのは目撃情報であって、実際にはもっといるかもしれないわ。最低でも三匹だと思って頂戴。ゴブリンを倒すということは決して簡単な依頼じゃない。本当なら駆け出しの冒険者に任せるような仕事じゃないの。大怪我をすることもあるし、場合によっては死ぬことすらある」


 私が不安そうな顔をしてしまったからだろうか、ライラさんは口調を和らげる。


「でも私がしっかりサポートするし、一匹ずつ相手すれば、その剣でも大丈夫。思いっきり叩きつければ気絶くらいさせられるわよ。いざとなれば私が援護するから」


 私はライラさんに頷いて答える。


「わかりました。よろしくお願いします」


 私の言葉に、ライラさんは口角を上げて応えてくれた。

 でも眼は笑っておらず、真剣な顔を崩さない。


「最初にゴブリンを倒せるかどうかが、今後の自信にも繋がってくる。躊躇なく剣を叩きつけること。いい? 怖いかもしれないけど、その恐怖心に打ち勝つことが最初の課題よ」


 私の短剣を鈍器か何かと思っていることに納得はいかなかったけれど、ライラさんは指導をしてくれているのだ。


「わかりました」

 私は素直に頷く。


   ***


 場所はトム・フィラフの大森林。


 まだ未開拓の場所が多く残る森林だが、珍しい薬草や希少鉱物の採集に訪れるものは多い。


 王国が足を踏み入れて調査を行った区画には一定の距離ごとに石碑が置かれている。その石碑を目印に、ゴブリンが目撃されたところまでライラさんと進んでいく。


 森の奥へ進むほど蔦や下生えが生い茂っており、頭上は木々で覆われて薄暗くなっていく。


 太陽が届かない場所でも草が生い茂っているのは、この草が地面からの僅かな魔素を栄養源としているからだ。


 魔素を吸い込んで貯める性質を持つ草は薬草として重宝される。

 薬草を求めるのは人間ばかりではない。

 ゴブリンのような魔物もその匂いに引き寄せられてくることがある。


「報告だとこのあたりね」


 ゴブリンは洞窟などをねぐらにしている。

 集団で行動するゴブリンがこうした場所で目撃されるのは群れからはぐれてしまったことが多く、その場合は少ない数で行動している。


 今回の依頼は三体のゴブリンを討伐すること。


 もちろん、はぐれゴブリンをすべて討伐するべきなのだが、森に紛れたゴブリンを残らず見つけることは難しいそうだ。


 一、二体残したとしても、そのあとに遭遇した冒険者が倒してくれることを期待するしかない。


 依頼としては最低でも一体のゴブリンを倒せば達成したことになる。もちろん報酬を満額得るためには三体以上を倒す必要がある。


 兄から魔物についての話は聞かされていた。ゴブリン以外にもたくさんの魔物がおり、それぞれの特徴や戦い方の知識も教わっていた。


 それでも兄との稽古以外は戦闘の経験はなく、ゴブリンを実際にこの目で見たことはまだない。


 少し緊張しながら周囲を伺う。


「いい? やつらがいきなり襲ってくることもあるから、音と気配には常に注意しておくこと」


 ライラさんが森に入る前にしてくれた説明をここでも繰り返す。


「はい」


 私はこくんと頷く。


 そしてその言葉で、複数の方向から聞こえてくる音にライラさんも気づいているのだと確信した。だからこそ、このタイミングで私に注意を促したのだ。


「大丈夫です。兄から指導を受けてきました。ちゃんと魔物の位置はわかっていますから」


 ライラさんは目をぱちくりさせ、小首をかしげた。

 予想外のライラさんの反応。

 あれ?

 ライラさんもわかっているんだよね?


 この場所にとどまった場合、複数方向からの攻撃を一手に受けてしまうことになる。


 それはこちらとしては不利だし、ゴブリンは一体ずつ相手にするべきだと思ったからそれをライラさんに伝える。


「ライラさん、まずは左前方のゴブリンを叩くべきですよね? もっとも小さい個体ですし。右足に怪我をしてるみたいですから」


「……へっ……?」


 ライラさんが素っ頓狂な声を出した。


 左前方から聞こえてくる音は左右の足音が不均衡だ。右足だけ下生えから離れる音がわずかに早い。足をかばっている証拠だ。


 一方でライラさんは私が何のことを言っているのかわからない様子だ。


「探知魔法を発動しているけど、まったく魔物の反応なんてないわよ」


 ライラさんは生物の反応を感知する魔法を使うことができる。

 だけど魔物の反応がないと言う。

 どういうことだろうか。


 うーん。

 そうか。

 なるほど。

 私を試しているのか。


 初心者冒険者だから、何もできないものと思っているのかもしれない。


 私は王国騎士団の団長である兄から、魔物の探知方法や戦い方を教え込まれているのだ。


 少しはできるのだということ、そして自分の感覚で感知できていることをライラさんに説明する。


「三方向にゴブリンがいて、それはそれぞれ違う方向に動いています。まだ私たちに気がついていないみたいです。気がつかれて複数方向から同時攻撃を受けるとやっかいです。相手がこちらに気づく前に、まずはもっとも弱い個体を叩くべきです」


 少し調子に乗ってライラさんに言った。

 こんなことはライラさんにとってはあたり前のことなのかもしれないが、ちゃんと私でもやれるのだということを知ってほしかった。


「ちょっと待って、フィル。あなたは探知魔法はおろか、初級魔法も使えないのよね」


「はい、魔法は使えません」


「それでどうやって敵の位置がわかるというの?」


 なるほど。

 ライラさんは私の能力を確認しておきたいのだ。


「それは音と気配でわかります。この森には一定の距離で国が石碑を置いていますよね。次の石碑くらいの位置に三体の何者かがいて、たぶんそれがゴブリンだと思います」


 私は少し自信ありげに語った。耳にも自信があったがゴブリンから漏れ出す僅かな魔素を気配から感知できていた。


「探知魔法を使ってもその距離での把握は無理よ。本当にそこにゴブリンがいるの?」


 ライラさんは私の言葉が信じられないように不思議そうな顔をした。

 本当に演技が上手い人なんだと思った。


 一級冒険者であるライラさんがわからないはずがない。

 無能を装って、私がどれだけのことができるのかを試しているのだ。


「間違いないと思います。ライラさん、足音を消して近づくには下生えの少ないルートを通っていったほうがいいですよね」


 私はこの森の木々や草花が発する微弱な魔素も検知することができる。

 頭の中では森のほぼ全域の地図化マッピングが行われていた。


 ここまではライラさんが先頭になって進んできた。

 ここからは私でも少しは役に立つのだということを見せてライラさんに認めてもらいたい。


「私を先に行かせてください」


 そう言って、ここからは私がルートを選択して、先頭で進ませてもらうことになった。


 選んだのは下生えがなく、地面が露出しているルートだ。

 不思議そうな顔を崩さないまま、ライラさんはついてくる。

 足音を立てることなく進むと、やがてライラさんが小声で囁いた。


「ここから注意して」


 ライラさんによると探知魔法でゴブリンが確認できたと言う。

 だが、これも演技だろう。


 こんなに近づくまで探知できない魔法なんて役に立ちそうもない。

 それに私たちが相手をするのは三体のゴブリンだけではない。


 ここにきてやっとそれがわかった。

 もっと多くの敵が私たちを囲んでいる。


 ライラさんも私と同じタイミングで気がついたのだろうか。


 いや、私なんかよりももっと早くに気がついていたはずだ。

 私たちは大勢の敵に囲まれているのだということに。


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