20 宿を探していると、そこにいたのは……
私とボルザ、エミルの三人は仮面をつけて話している。
「俺達はいっしょに行動しないほうがいいだろう。さすがに仮面の三人組は目立ちすぎる」
ボルザの言葉にエミルが応じる。
「私は単独で魔物の討伐が可能な依頼を受けようと思います。まだポーションの効力が残っているうちに動いておきたいので」
「ああ、俺もだ。でもエミル、無理はするなよ」
ボルザに「はい」と応えて仮面のエミルが頷いた。
「フィルはどうする?」
ボルザに問いかけられ、私は少し考える。
「少し街を散策して宿を探そうと思う。ライラさんも私が二日後に帰ると思っているから、別の宿を探さないといけないから」
ライラさんなら口外するようなことはないだろうが、念の為に単身で行動したほうがいいと判断した。
「わかった。じゃあ、ここで別れようか。二日後に冒険者組合で落ち合おう」
こうして私たちはそれぞれ別々の行動を取ることになった。
***
街を歩いても仮面を付けている人物など見当たらない。
人目を避けるように、いつしか繁華街から離れて街の隅へと足を向けていた。
ほとんど人通りがなくなった頃に、宿屋らしき建物が目に入った。
年季の入った建物は二階建てで横幅はかなりある。二階部分が宿になっているのだろう。およそ十部屋ほどありそうだ。
一階は何かの店舗だろうか。小さな窓から覗く店内は薄暗く、雰囲気はあまり良くなさそうだった。それでも数人の客の姿が見えた。
看板は砂埃で汚れており、書かれている文字が読みにくい。
なんとか目を凝らすと看板には「酒」の文字があった。これはあれだ。本で読んだことがある。子供が飲んではいけない飲み物だ。はたして私は子供だろうか。七級冒険者になったのだから大人の仲間入りをしたと言えるだろうか。
酒にはそれほど興味は湧かなかったのだが、少し開いた扉の中から客の声が漏れ聞こえてきた。
それが気になり、扉に近づいて聞き耳を立てた。
「そんなにあなたはすごい方なの?」
艶かしく色気のある女性の声だった。
「おおよ、王国でも一目置かれているからな」
対する男性は野太い声だ。
「たしか、この街が出身とか仰っていましたわよね」
「ああ、ここリドルタで特級まで上り詰めたからな」
「え、もしかして、あの有名な……」
ふふん、と男が鼻を鳴らす音が聞こえた。
盗み聞きはよくないと思い、その場を立ち去ろうとする。しかし、予想もしない名前が男の口から飛び出だした。
「そうさ、俺がそのルディアス・バルディクスさ」
一瞬、聞き間違いかと思ったが、間違いなく兄の名だった。慌てて扉に耳をつける。
女が嬌声を上げるのが聞こえた。
「王国騎士団長の! あなたがルディアス様なのね!」
声のトーンは上がり、気持ちが高ぶる様子までが伝わってくる。
「あなたのことは、すごい噂になっていたのよ。この街から英雄が生まれたって。ぜひ一目会いたいと思っていましたわ。こんなところであなた様にお会いできるなんて、……」
驚いた。
兄がここにいるのか。
ひさしぶりに兄に会えると思い、扉の隙間から店内を覗きこむ。
薄暗くて、人影がやっと見える程度だ。
店の奥に店員がひとり立っている。手前にカウンターがあり、男、女、男の順で三人が並んで座っていた。
一番右の男が隣の女の肩に手を回すところだった。
「王国騎士団も忙しくてさ。やっと暇ができて、こうして故郷に凱旋したってもんだ。でも明日にはここを立たんといかん」
「お忙しくていらっしゃいますのね……」
男は女の肩を引き寄せる。女は男に寄りかかった。
「ああ、王国騎士団長ともなるとなかなか時間も取れなくてな。残念だよ。お前のような魅力的な女に出会えたというのに」
「そんな……。私の方こそ残念です。せっかくルディアス様にお会いできましたのに」
「こうしてゆっくり酒を飲んでいられるのも今だけだ。ところで今晩は空いているかい? よかったら……」
男と女が見つめ合った。男の横顔が見えたが、薄暗くて顔のシルエットしかわからない。
私はいつのまにか扉を開けてしまっていた。
外の明かりが店内に差し込む。まだ夕方で日は落ちる前だった。
店内に足を踏み入れて、兄に声をかけようとする。
「お兄ちゃ……」
言葉の途中で私は固まった。
男の姿がはっきりと見えていた。
……
店内にいた全員の目が私に注がれる。
私はあの男の顔から目が離せなかった。
……
誰だ……こいつ……。
……
私は立ち尽くす。
男が私を見て呟いた。
「誰だ? この仮面の女は?」




