12 待ち合わせ場所へ
待ち合わせの広場へとやってきた。
男ばかりかと思っていたが、そこにいたのは男性冒険者が三人、女性冒険者が二人。
私とボルザを含めると、男四に女三の構成だった。
予想に反して、私以外の女性が二人もいたことに、ほっとする。
リーダーの男はネメシスと名乗り、ニシルという男性冒険者、ベジルという女性冒険者とともに流れの冒険者をしているそうだ。
流れの冒険者とは、特定の冒険者組合に帰属せず、街から街へ渡り歩いている存在だ。
三人ともに四級だった。
この三人はもともとの顔見知りで、ほかにはカイトという男性冒険者、エミルという女性冒険者が初顔合わせだった。
カイトは四級冒険者で、エミルは五級とはいえ実力的には四級に近いものらしい。
今回の依頼は大規模地下ダンジョンの十二階層まで降りていき、天然の魔法石を採掘、指定された量以上を持ち帰ることだ。
行程は片道五日、往復に十日を費やす。
魔法石を採掘できる十二階層は魔物も多く、かなりの危険が伴う。高ランクの冒険者であっても、長居することはできない。後衛でおとなしくしていればいいと言われても、さすがにそこだけは私にも危険が及ぶ可能性があるかもしれない。
必要な野営道具や食料はすでに準備され、広場に置かれていた。
回復ポーションなどは各自で用意しており、それぞれ自分で持つことになる。
いちおう私も家から持ってきたポーションが二本ある。二本しかないが、後衛がポーションを使うことはまずないそうだ。
まあ、家にあったものを適当に持ってきたので、どれほどの効果があるポーションなのかはわからないのだけれど。
瓶には「回復のポーション 練度7」と書いてある。詳しい効果はあとでライラさんに聞いておこうと思う。
リーダーの男が私とボルザを目にした途端、乱暴な口調で声をかけてきた。
「ボルザ、誰だ、そいつは」
男は私を睨めつける。
「俺は荷物持ちを探せって言ったんだぞ。ガキを連れてこいなんて一言も言ってない」
ボルザは不満そうに返す。
「そうだけどさ。銅貨二十枚で十日の荷物持ちだぞ。探すのも楽じゃないって。こいつ、喜んでやってくれるってさ。駆け出しの七級だし」
今回の依頼は総額で金貨百二十枚。一人頭、金貨二十枚の計算だ。
あとから聞いたのだが、このくらいの依頼なら荷物持ちに日当で銀貨一枚くらいは払うものだそうだ。つまり、私は初心者だと足元を見られて、かなり安く依頼を受けたことになる。
「せいぜい銅貨十二枚半ってとこだ。それ以上はだせん」
「そんな」
ボルザは不満を漏らす。またほかに荷物持ちを探すとなれば面倒だからだろう。
銅貨十二枚半というのは相場の十分の一以下の奴隷並みの賃金だが、そんなことは知らない私は軽く応えてしまう。
「私、それでいいですよ」
私は銅貨というものを見たことがなかった。どのくらいの大きさなのか。どんな色をしているのか。光に当てると色はどのように変化するのだろうか。それに半銅貨というものもあるらしい。
まだ見ぬものを手に入れられると聞いて、わくわくが止まらなかった。
そんな私に向けて、ボルザが説明する。
「フェアじゃないから一応言っておくけど、今回は一人あたり金貨二十枚の大仕事なんだ。荷物持ちとはいえ、銅貨十二枚半は少なすぎる。俺は四級の人たちと同じ報酬を貰う代わりに、安く働いてくれる奴を探すことになったってことだ」
「ボルザ、余計なことは言うな。この金額でかまわないというんだから、それでいい」
リーダーの男、ネメシスが見下すように私を見下ろす。
「荷物持ち。とりあえず持てる限りの荷物を持て。絶対に落としたりするなよ」
武器やポーションなどの各自の荷物はそれぞれが持つので、野営道具と食料を私が持つことになる。
私は彼らの指示に従って、荷物をまとめた。
十日分の行程だ。荷物はかなりの量だった。
背負子と呼ばれる荷物を持つための道具がある。これを使って持つのだとボルザが説明してくれた。
「お前じゃ全部は持ちきれないとわかっていて誘ったんだ。とりあえず、俺はこの中で一番下っ端だし、少しは俺も持つから」
そう言って、食料の三分の一を担当してくれた。
麻の紐を使って、背負子に荷物をくくりつける。両手を伸ばすよりもさらに大きな荷物を背負う。腰をかがめてから力を込めてゆっくりと立ち上がる。
関節に装備している拘束具の設定は訓練用の「最大負荷」。
重量だけでなく、可動性も最悪に設定しているから、さすがに荷物は重く感じた。
荷物を持ち上げる私を見て、ボルザが感心する。
「お前、意外にやるな」
「へへ」
笑ってみせる。
「私も五級だから、荷物、少し持つよ」
そう言って近づいてきたのは女性の一人、エミルだった。彼女もボルザと同じ十五歳だ。
十五ですでに五級冒険者なのはかなり早熟なほうで、ボルザと同様、彼女も才能があるということだ。
彼女の装備は紺色の布のローブで、武器の代わりにスタッフを使うようだ。スタッフはほかの荷物と一緒に背中にくくりつけていた。
エミルは、私が手に持って運ぶ予定だった食料を持ってくれた。
「フィル、女性同士よろしくね」
やさしく微笑みかけてくれる。年齢も近いので気楽に話すこともできそうだ。仲良くなれそうだった。
「お前ら。ほんとはそういうの、よくないんだぞ」
私たちにそう言ってきたのは、四級冒険者のカイトだ。
銀色の全身鎧に身を包み、端正な顔立ちをしている。
ボルザの話だと、四級でも三級に近い実力派の冒険者だそうだ。
年齢は二十九とかなり年上だった。
「本当は荷物持ちにしっかり働かせて、俺達は体力を温存しなければいけないんだ。でも、今回はこんなかわいらしいお嬢ちゃんだもんな。まあ、仕方ないか」
それでも、四級の自分は余分な荷物は持てないと、手伝ってくれることはなかった。
カイトはこの中でもトップクラスの実力を持つ。そんな彼が、非常事態に対応ができなくなってしまうことは許されないのだから、当然のことだった。
「それにしても、こんな小さい体でよくそんなに持ち上げられるな。大丈夫なのか、十日もあるんだぞ。後半になるほどきつくなるんだ」
私の背負う荷物はひとやま程にもなる。横方向は両腕を伸ばしたより長く、高さは身長の二倍ほどにもなっていた。
「なんとか大丈夫です。一応、筋力を補強する装備を持っていますので」
魔法具の中には安価なものも存在するらしい。だから、荷物持ちをすることの多い七級冒険者がなんらかの対策をしていても不思議はないのだろう。
一方でもうひとりの女性冒険者、ベジルという女性は私に話しかけてくることはなかった。
ベジルだけではない。リーダーのネメシスとニシルも私たちとは距離をおいており、それ以上の交流を深めるつもりはないようだった。
彼ら三人は、仕事に馴れ合いは必要ない、とでも言いたげだった。




