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WILL──夢見姫は自由に憧れ居場所を探す  作者: 浜月まお
第1章 幽囚の運命に人は抱かれ
3/11

1:アリア出奔_02


   *



 閉め切られた一室。五つの人影が顔を突き合わせていた。


「逃げただと!? ……“夢見姫”が、か?」


 一瞬高まりかけた声が、何かに気づいたように再び潜められる。

 香草茶を給仕する者はいない。五人だけの密談であった。


「それは確かなのかね」

「残念ながら。侍女が朝餉を届けに行った時には、すでに寝室はもぬけの殻。“夢路御殿(ゆめじごてん)”内をくまなく探しても姿はなく、部屋は荒らされた形跡もない。ただ、外套や細かな身の回りの物が数点なくなっている、との報告だった」


 答える声はひときわ低く、中年に達していても豊かな張りがあった。

 沈黙が落ちる。

 嘆息する者、頭を抱えたそうな表情の者、まったく感情の窺い知れない者、反応は様々だ。


 彼ら五人──“長老会”は組織の心臓部であり、最も大きな決定権を有する頭脳でもある。全員がそれぞれ忙しく飛び回っているのが常なのだが、緊急事態の発生により、朝も早くから半ば強制的に集合せざるを得なかった。


「それで、捜索は? 騒ぎになってはまずいが、夢見姫が衆目に晒されるのはもっとまずい」

「無論。取り急ぎ、情報収集に長けた一課の者を出動させました。だが事情を承知しているのはシャリトン課長だけで、人海戦術は姫の素性を悟られる危険性があり、とても踏み切れるものではない。

 よって、三課を動かすことにしました」


 声の主は四人に対して独断専行を詫びたものの、咎める者など一人もいなかった。むしろ迅速な対処に感嘆の色がにじむ。なにしろ前代未聞の非常事態なのである。


「三課の技能員か。極秘任務に適した者がいるのかね」

「いえそれが、レヴィス課長に確認したところ、主だった技能員はあいにく出払ってしまっていましてね……。

 唯一すぐに出動できるのがあの混血者だというので、やむなく彼を向かわせるよう指示しておきました」

「あんな目立つ奴を、ですか? 警邏隊にでも怪しまれたら厄介なのでは」

「確かに人目を引いてしまうだろうが、現状他に手がない以上は致し方あるまい」

「あくまでも暫定処置です。休暇中の者や出張している者に連絡を取り、急ぎ加勢するようレヴィス課長が取り計らうことになっています」


 納得の気配が広がる。


「とにかく一刻も早く連れ戻さなければ。誰にも素性を勘ぐられないうちに」

「彼女の先見の能力は、陛下の治世にとって――ひいてはこの国にとっても非常に重要なものですからね」

「そう。それゆえ夢見姫は我ら《クリスタロス》の旗頭に据えられた。失うわけには参りません」

「そもそも、あの姫に行く宛てなどないでしょうに。いっとき飛び出したとしても詮なきこと」


 不意に、一人がはっとしたように顔を上げた。


「まさかとは思いますが、“日輪公宮(にちりんこうぐう)”へ向かったという可能性は」

「ない、と思いたいところだな」


 不穏な顔を見交わせば、瞬く間に懸念が膨れ上がっていく。


「……一課の者たちには、行政区方面を重点的に探させましょうか。万が一ということも考えられますし、もしも公宮を目指しているとすると、市井をうろつくよりもなお面倒なことになりかねませんよ」


 最悪の事態をも視野に入れた提案である。

 結局、逡巡はほんの数秒だった。

 一同の意見は安全策を採ることでまとまり、すぐさま指令が各部署へと伝達されていく。


「民はもちろんのこと、一般所員にも事情を悟られてはならないというのは……なかなか骨が折れますな。打てる手が限られてきますし」

「まったくだ。しかし姫の姿を間近に見れば、勘の鋭い者なら何か気づいてもおかしくない」

「だからこそ御殿にこもっていただく必要があるのです。少しでも早く保護してさしあげねば」


 口々に言い交しながら席を立つ。

 次の集合刻限を確認すると、長老会一同は時を浪費することなく解散した。



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