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06 異変3

 俺の予知なのかデジャヴなのかよくわからないものの話を、司は馬鹿にするわけでもなく聞いてくれる。

もしかすると昼休みの暇つぶしにちょうどいいと思っているだけなのかもしれないけど。


「なんかやっぱ違う気がしてきた。たまたまだったのかも」

「その“たまたま”はいくつあった?」

「んー? そうだな……。HR後の女子の話と、日替わりメニュー、あとは自販機?」

「たまたまにしては多すぎるね」

「でもほら、何かが起きた後『そんな気がしてた~』とか言う奴いるじゃん?

 そういう妄想的なやつかもって思えてきて……」

「まぁ落ち着きなって。はじめてギフトが発現した人はみんな戸惑うものだってさ。

 じゃあさ、ここで午後からの予知を言ってみなよ。それが当たれば妄想じゃないでしょ?」

「あっ、そっか。えっと……、何があったっけな……」


 ぐるぐると頭の中をかき回し記憶を辿る。ヘタすると昨日の晩飯も思い出せない時があるのに、そんな嘘か本当かも分からない事を思い出せるわけが……。

そう諦めかけた時、司の横顔を見てふっと記憶がよみがえる。


「あ、午後の授業で司が寝てて、寝ぼけた返事して笑いものになってた」

「うん、それは全力で回避させてもらうね。たぶん外れる方の予知だね」

「えー、マジかよ……」

「ま、その余地は潰すけど、午後の授業のうちに他のを思い出しておいてよ」

「あぁ……」


 そうして司は教室へ戻り、残った昼休みで先に昼寝をするという方法で予知を回避してみせた。

うーん、正しい選択だとはおもうけどさ、俺のギフトの解明を手伝う気はさらさらないようだ。





「で、放課後になったわけですが」

「何か思い出した?」

「うーん……。あっ、コンビニでアイス買おう!」

「最近暑くなってきたしね。それもいいかも」

「ゴリゴリ君な」


 そうだ、これがあった。アイスであたりを引く、そして司は当たった事が一度もない。

その二つの事実があれば、確定すると言えるんじゃないだろうか?


「司はこっちな」

「え?」

「俺はどれでもいいや」

「何かあるって事?」

「お前に初めてをやるって言ってんだよ」

「言い方」


 じっとりとした目で司は睨んでくるが、そんな事は些細な問題だ。

これで俺が余計な事を言わず司があたりを引けば、証明になる。


「まぁいいや、いただきまーす」

「はよ食え、はよ食え」

「見られてるとすっげぇ食べづらいんだけど」


 そう言いながらも司はゴリゴリと水色の氷にかじりつく。

そして見えてきた棒を見ると、目を丸くして俺を見つめた。


「……当たった。はじめて当たった!」

「だろ? だからはじめてをやるって言ったんだ」

「あっ、もしかしてこれって……」

「あぁ。本当なら俺が当てるはずのアイスだ」

「えっ? 貰ってよかったの?」

「いや、予知では司が当たり引いた事ないって言ってたからさ。

 それでその事も言い当てれば証明になるかなって」

「よっしーにしては良い作戦だね」

()()()()ってなんだよ!?」


 嬉しそうにピンと耳を立てていたが、俺が仕組んだ事だと知ったとたんにそれはへたりこんだ。

まぁ、はじめての当たりくじが誰かのお膳立てだったら、嬉しさも半減するのは仕方ないけどさ。


「ともかく、これで予知能力があるって事でいいよな?」

「そうだね。少なくとも俺の秘密を言い当てたわけだし」

「え? アイスであたりを引いた事がないのって秘密なのか?」

「隠してはないけど、教えてもなかったからね。それで、条件は何?」

「条件?」

「ギフト発動の条件。どういう時に予知を見るかって事」

「あぁ……。あれは……、夢なのかな?」

「ふむふむ、予知夢っと」


 駅へと向かいながら、そしてアイスをかじりながらメモを取る司。

器用に平行作業しながらも、まるで医者の問診のように質問を続けた。


「どういう感じの夢を見る? 断片的にって感じ?」

「いや、一日を通してって感じ」

「つまり起きてから寝るまでを、ぶっ通しで予知すんの?」

「んー? 風呂入ってるトコで切れたかな?」

「にしたって長いね。予知というよりリハーサルみたいなもんだよ」

「たしかに」


 話す内容は結構真剣なんだけど、二人ともアイスをかじってるせいで緊張感はない。

俺は残った棒の甘い汁を吸いながら、問診に答え続けた。


「というかさ、寝てる時に予知夢をみるんだったら、HRの前も見たの?」

「ん? HRの前?」

「ほら、教室ついてすぐ寝てたでしょ」

「あー、あの時は……、覚えてないな。見てないのかも」

「ふむふむ、おそらくそれ相応に長い時間寝ないとダメなのかな?」

「なぁ司、これメモとってどうするんだ?」

「あっ、それ言っとかないとね。知り合いにギフトを研究してる人が居て……、ってこれ言ったっけ?」

「予知夢で言ってた。だから昼休みに知り合いに研究者がいるか聞いたんだよ」

「そういう事だったんだ。うっかりしてたなぁ」


 司はボールペンの背で頭をぽりぽり掻き、少し悔しそうにする。

俺もうっかりしてたけど、悔しがるようなことだろうか。


「まぁいいや。それでその研究してる人に聞けば詳しい事分かるかもってね」

「へー。なら直接会って話した方がいいのか?」

「相手の都合次第だけどね。とりあえず情報をまとめてこの後送ってみるよ」

「……今さらだけどさ、その人信用していいのか?」

「あっ、その事は言ってないんだ? 言ってないというか、予知してないんだ?」

「うん。知り合いに居るってだけ聞いた」

「その人はギフトの管理団体の人だよ。政府公認のちゃんとしたトコの人」

「まじで? なんでそんな人と知り合いなんだ?」

「マジのマジ。知り合いなのは……。ほら、俺こんなだからさ」


 ピンピンと人差し指でネコ耳を弾く。つまり司は、獣人だから知り合えたのだろう。

逆に言えば、そういう人たちと関わる必要があるほどに、今まで苦労してきたという事だ。


「そっか、言いたくない事聞いちまったな」

「いや、そんなでもないけどね。ま、そういう事だから今日はこの辺で」

「あぁ、また連絡してどうだったか明日教えてくれ」

「うん、わかった。それじゃまた明日」

「おう、またな」


 そう言いながら俺たちは改札をくぐり、陸橋の階段前で別れたのだった。

この時の俺は、明日は普通にやって来るのだと疑いもしなかったのだ。

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