表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/40

40 エピローグ 筒井由伸の日常へ変わる非日常

 6月11日木曜日、アラーム無しで目が覚めた。ちょっと得した気分。

時間は6時20分を少し過ぎた所。制服に着替え顔を洗ってリビングに行けば、両親は驚いた顔を……。

いや、今日はしていなかった。どちらかといえば心配顔だ。


「早いのね、眠れなかった? 昨日は遅かったんだから、今日は無理せず学校休んだら?」

「いや、大丈夫。ちゃんと寝れたし、体調は良いくらいだよ」

「そう? パン焼くけど食べるわよね?」

「うん、ありがとう」


 席に着けば、親父は見ていたテレビを消した。もうすぐ「今日のギフテットさん」が始まる時間だからだ。


「別に気を使わなくていいよ。大した能力じゃないし」

「いや、そういう訳じゃないんだが……」

「もし大した能力だったとしても、特別な事じゃない。たまたまそうだっただけだよ」

「……。降参だ、お前の方が大人びてるな」

「ある人の受け売りだけどね」

「そうか」


 気まずい雰囲気をわざわざ作ってしまったと思ったのか、苦笑い気味に親父は笑う。

俺と違って、二人にとっては昨日突然聞かされた話なのだから、当然の反応だろう。


「それじゃあ、今日の晩御飯は豪勢にいきましょう! 特別じゃなくたってお祝いよ! 何がいい?」

「え? マジで? それじゃぁ……、すき焼きがいいな」

「任せなさい! おいしいお肉買っておくからね!」

「ありがと」


 こういう時はお袋の方が一枚上手だ。多分本当に喜んでるのもあるし、逆に冴えない能力で残念がってるかもしれない。けれどそれを見せずに、楽し気な雰囲気に持っていくのがうまいのだ。


 そんな風に喋りながら朝食を食べ終え、俺は家を出た。

外は長く見ていなかった雨模様だ。傘をさし、歩いてバス停へと向かう。

十分に間に合うよう家を出た俺は、雨に濡れた街を見回した。

そこにはずっと囚われ続けた昨日とは違う、優しい静けさがあった。


 バスに乗れば、雨にもかかわらずそこまで人が多くない。俺は席に座り、窓の外を眺める。


「隣いいかな?」

「うわでた」


 そこには例の新幹線男の姿があった。

いや、今では別の名も知っているのだが……。


「ひどい言われようだね」

「えぇ、色々と聞きましたから」

「そっか。で、どうだった?」

「何がです?」

「昨日の事」

「どうもないですよ。ちょっとトラブルに巻き込まれただけです」

「そっか。意外と図太いね」

「そりゃどうも」


 クスクスと笑う姿は、何の裏もないように見える。

彼が大吉さんたちに恐れられる、あの「上司」と呼ばれる存在だとは到底思えなかった。


「で、大吉さん達には見返りに何を求めるんです?」

「んー? 今度旅行に行こうって誘っただけだよ?」

「旅行……、ですか?」

「うん。ワッフルとチョコが有名な国を観光しようってね」

「チョコ好き極まってますね……」

「お土産期待してていいよ」

「ありがとうございます。で、俺にも何か注文があるんですか?」

「いんや、どうしてるかなって」

「……。うまくやっていきますよ」

「そっか。ならいいんだけど」


 少しの沈黙。けれど嫌な感じではなかった。


「ボタン押してくれる?」

「えっ?」

「次で降りるよ」

「いつもは突然消えるのに?」

「そういう日もある」

「そうですか」


 次の停留所で彼はバスを降りた。そして窓の外で、俺に手を振りバスを見送る。

なんだろう、いつもと逆なだけなのに、少し寂しさを感じる。

彼は、本当に頼まれたからやっただけなのだろうか。そんな事を考えても、何も分からないままだった。




 学校に着けば、前の席からいつもならゆらゆらともふもふの尻尾が揺れるのだが、今日はだらりと垂れ下がっている。ひょいと持ち上げ、もふもふを堪能していれば気だるげな声がした。


「おはよ……」

「おはよう司。元気ないな?」

「雨の日はね……、気持ちが落ちる」

「あぁ、湿気か。猫は湿気嫌いだもんな」

「そう……。よっしーは元気そうだね……」

「あぁ、そうかもな」


 窓の外には、曇天を支える巨大なゴーレムがうっすら見える。

天気なんて晴れ渡ったり、雨が降ったり。時に荒れるのさえ普通の事だ。


「たまに厄介な事件に巻き込まれたり、それだって普通の事だ」

「ん……? 何か言った?」

「いんや、なんにも」


 俺のこれからは、普通じゃないことが普通になるんだ。きっとね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ