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04 異変1

 なんでもない一日が過ぎて、そして朝が来た……。

ってちょっと待て、俺寝た記憶がないんだが!?


時計を見れば朝の六時半。一度目の目覚ましが鳴る時間だ。

というか、その目覚ましの音で目が覚めた。


 うーん……? 寝ぼけてるせいかな? 記憶が飛び飛びだ。

昨日は家に帰って、飯食って。んで風呂に入って「ふぃ~」なんておっさんっぽい声出しながら、ぽかぽかお風呂を堪能していたら、いつの間にかあったか布団で眠っていた。




 まぁいいか。目が覚めちゃったし、今日は二度寝無しで起きるとしよう。

俺はゆっくりと制服に着替え、せっかくなんでちゃんと朝飯食ってから学校に行くかと思い、リビングの扉を開けた。

そこには俺を見つめぽかんとする両親の姿が目に入った。


「おはよ。朝ごはんある?」

「おはよう。まさか起きてくると思ってなかったから用意してないわよ」

「マジか……。んー、牛乳だけ飲んで行くわ」

「トーストくらいなら焼けるからちょっと待ってなさいね」

「ありがと」


 俺がすんなり起きてくる事がそれほど珍しかったようだ。

まぁ当然か、15分おきのアラームがあと3回ほど残っているし、いつもは最後の爆音でも起きないんだからな。




 顔を洗った後生あくびをしながらテレビを見れば、例の「今日のギフテッドさん」が放送されていた。

そこには嫌味なほどに爽やかな笑顔の男がインタビューに答えている。そういや昨日もえらくイケメンが紹介されてたって言うし、このコーナーもギフテッドの地位向上が目的なんて言いながら、視聴率すうじを取りにきているようだ。まぁテレビなんてそんなもんだよな。


「はー、イケメンのギフテッドとか引く手あまただろうな」

「何言ってんだ、コイツはその能力活かしてレスキュー隊で活躍してんだぞ?

 ギフトがあったって普通できるもんじゃないだろ」

「まぁ、俺はやろうと思わないね。わざわざそんな危ない仕事」

「ギフトがあったってお前には無理だろうな。訓練についていけそうにないし」

「それは俺自身がよーくわかってますよ。ってか時間大丈夫? 会社遅れるよ?」

「あっ! うっかりしてた! それじゃ、行ってきます」

「いってらっしゃーい」


 思いもよらぬ俺の登場に感覚を狂わされたのか、父さんはバタバタと慌てて玄関を出る。

そんな姿を見ていると、レスキュー隊も無理だけど普通の会社員も大変だなぁと思ってしまった。

あー、このままだらだらと学生でいたいなぁ、なんて叶わぬ夢を見てしまうほどだ。

ぐでーっとしながらそんな事を思えば、夢から現実へと引き戻す声が聞こえる。


「由伸、パン焼けたわよ。さっさと食べてアンタも学校行きなさい。

 せっかく早く起きたんだから、ちゃんと遅刻しないバスに乗るのよ?」

「はーい」


 言われるがままトーストを頬張り牛乳で流し込めば、時計の長針は間もなく11を指すところだった。

バス停までは歩いて10分ほど。そしていつものギリギリバスの一本前は……。7時1分発じゃん!!


「やっべ、5分ちょいしかないじゃん!」

「ほら走れ! 正確には8分あるわ!」

「うー、めんど……。なんでもないですっ!」


 めんどくさいと言いかけた所で、鬼の形相を見た俺は逃げるように走り出した。朝一から猛ダッシュはかなりキツいが、せっかくの爽やかな朝に小言をねちねちと言われるよりはマシだ。




 走り続ければ、ちょうど国道を走ってくるバスが見える。これならギリギリ間に合いそうだ。

ぞろぞろと乗り込む人たちの最後尾に並び、汗をぬぐいながらバスへと入ればやっと一息つけそうだ。

ふぅ、という声と共に窓の外を見れば、昨日と同じく綺麗に晴れ渡った青空が広がる。

遠くには例の巨人がうっすらと見えた。少し早くに目が覚めただけの、普通の日だ。


「おはよ」

「おはよって、今日は早いんだな」


 教室に入ってすぐ声を掛けたのは、前の席に座る司だ。

俺がギリギリではなく余裕を持った時間に入ってきたことに、両親と同じように驚いているようだった。


「あぁ、たまたま早く目が覚めてな」

「ふーん。明日は雪でも降るのかね」

「そんなに珍しいか!?」

「自覚なかったのか?」


 散々な言われようである。まぁしかし実際そうだしな、返す言葉もない。

ドサッと荷物を机の上に置き、椅子に座れば眠気が襲ってきた。

走ったのと座れなかったせいで、バスでも電車でも眠くなかったのだが、一息つくと二度寝タイムが無かった弊害が出てきたようだ。

んー、昨日は記憶が無いくらいに早く寝た、まさに寝落ち状態だったと思うんだがな。


「ちょっと寝るわ。HR始まったら起こしてくれ」

「は? 早く来たのに寝るのかよ? まぁ遅刻よりは教室で二度寝の方がいいだろうけど」

「んじゃ、よろしく~」


 司にそう言い残し、俺はカバンを抱き枕に眠りへと落ちた。




「筒井 由伸~。ん? 筒井はまた遅刻……」

「ひゃいっ! 居ます! 居ますよ!」

「なんだ、居るなら返事しろ。また遅刻かと思ったぞ。

 まぁしかし今日は寝てられるくらい余裕をもって来たんだな、えらいぞ」


 次に気づいた時にはすでにHRは始まっており、俺はヨダレを垂らしながらバカみたいな返事を晒す事となった。

しかし不思議な事に名前を呼ばれると寝てても目が覚めるもんなんだね。電車でも降りる駅の案内流れたら目が覚めたりするし、意外と人間って便利にできてるもんだ。


 そして俺専属の目覚まし時計は一体何をしていたんだ? そう思いHRが終わって司に問いただす。


「いや俺は起こしたよ? 起きなかったけど」

「それは起こしたって言わねぇ!!」

「まぁいいじゃん、遅刻にはならなかったんだし」

「そうだけどさー」


 うまくはぐらかされたが、結果だけで言えば別に問題ない。ちょっとばかしアホ面を晒してしまっただけだ。

二日連続でギリギリだと、さすがに昨日みたいにおおめに見てくれないだろうしな。

そろそろ成績に響きそうだし、それよりはマシだろう。




 そんなポジティブシンキングを脳内で展開していれば、周囲の声が耳に入ってくる。

まー、いつもの事だ。ちょっとした隙間時間も無駄にしない意識の高さと捉えておこう。

しかし今回は、その会話の内容に違和感があった。


「今日のギフテッドさん見た?」

「あ! 見た見た! 超イケメンだったよね~」

「そうそう! その上レスキュー隊員だって! はー私も救助されたーい」


 うん、アホっぽい会話内容だ。というか救助される方でいいんだ? 付き合いたいとかの方が先に来ないのは、自分では釣り合わないという自虐か?

あと救助されるとすれば事故に巻き込まれたりしないといけないわけで、最悪命に関わるんだが……。

というツッコミを入れていた。昨日の今頃にな……。




 おかしい。あいつら昨日も全く同じ事を喋っていた気がする。って事は、昨日と同じものが二日連続で放送されていたって事か? 話の内容的に俺が朝から見たテレビの事なのは分かる。あれが再放送だったのか?

いやいやそうだとして、なんで昨日と一字一句違わぬ話をしているんだ?

いや一字一句同じかは俺もちゃんと覚えてないから確証はないけどさ。


「司はさ、朝からテレビ見る派?」

「え? 見ないけど?」

「そっか。ならいいや」

「なんだよ、気になるじゃんか」

「んー、見てないなら聞けないなって」


 司が毎日チェックしているなら再放送かどうかも確認できたんだが、そうではないらしい。

急に意味の分からない事を言ってきた俺に対して、頭の上に“?”を浮かべている。

しかし喋ってる女子たちに聞きに行くのもなぁ……。なんか嫌じゃん? 盛り上がってるトコに水差すみたいで。


 そんな妙な引っかかりを覚えた朝の時間を越えれば、退屈な午前の授業だ。

そして俺は幸運な事に、今日も一度として当てられる事はなかった。というか、昨日から妙に運がいい。


 だがここでも違和感がある。今日の授業、昨日と同じ内容やってないか?

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