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34 亜空間


「俺と初めて会った場所……?」


 司はコクリとうなづくが、俺にそんな記憶はない。なぜって、ここは繰り返す今日がはじまってすぐ、大吉さんに会いに来たのが初めてで、その時は司の紹介があったのだ。

それ以前はこんな場所しらなかったし、なんならその時だって気づいたら着いてたくらいだ。

暗い顔をして黙る司と、俺の頭上に「?」が浮かんでいるのを察したのか、堀口さんは助け船を出してくれる。


「まぁ、君は覚えてないだろうね。そういう事にしてしまったから」

「そういう事にした? どういう事です?」

「ここは、10数年前の事件の避難所だったんだよ。月落ちる世界から数多の生物を助けるための箱舟。

 そのために作られたのが、この地下都市なんだ」

「いや、意味がわからないです。それに、ここって電車を乗りついで来ないといけないような場所じゃ……。

 俺たち歩いて来ましたし、10分もかかってないと思うんですけど」

「この場所も亜空間なんだ。表層の世界とは違う場所、だから表層からの影響が少ない場所。

 万一月が世界を崩壊させてしまっても、ここならば助かる見込みがあったんだ。だから避難所にした。

 そして亜空間は、その深度に合わせて三次元空間の縮尺が表層と違って……」


 なにやらよくわからない事を堀口さんは言うが、俺にはさっぱりだ。

頭の上の「?」がどんどん増えていくが、そこに司の解説が入る。


「マイクラのネザーみたいなものだよ。堀口さんはネザーゲートを作れるギフテッドなんだ」

「あぁ、そういう事か!」

「ちょっと待って!? その説明で事足りるの!?」

「前提知識を共有してればこんなもんですよ」

「まぁ、うん。そうかもしれないけど……」


 つまりこの世界は、普通の世界よりも縮尺が小さいって事らしい。こっちで数メートル進むのが、通常世界の数十メートル、数百メートルに相当する……。ってことは……。


「もしかして、亜空間を使えば歩いてでも斉東区に行けるって事?」

「そう。だからまだ手遅れじゃない。むしろ余裕があるくらいなんだよ」

「んー。それでも歩くのは疲れるし、車使うかな」

「えっ……。車使えるんですか」

「そりゃね、地下都市だもん。交通インフラも整備してあるよ。

 でもその前に、所長に話を通さないとね。もう来てるはずだけど……」


 堀口さんの先導で、俺は初めて大吉さんとあった場所までやって来る。

この公園の区画もかなり広く、地下都市としては異常な空間だと分かる。

なぜって、柱も無ければ壁も無いように見えるのだから。


 見回しながら歩く先に、ぼんやり見覚えのある二人が立っている。

それは司の後ろにある組織のトップである大吉さんと、そのボディーガードの慶治さんだ。

ブンブンと手を振り、堀口さんは二人へと駆け寄った。


「先輩! お連れしましたよー!」

「ご苦労様。あと客人の前くらい所長と呼びなさい」

「いやー、先輩は先輩じゃないっすか!」

「まぁいいか……」


 若干あきれ顔の大吉さんは、小さくため息をついた。

そして俺を見て、どう声を掛けようか悩んでいる様子だった。


「はじめまして……、でいいのかな? 私にとっては初めてなのだけど……」

「えっと、どうなんでしょう? 俺にとってはお久しぶりです、といった感じなのですが……」

「ははは、これは何とも気まずいというか、微妙な感じだねぇ」

「そうですね。あの、こう言うのもなんか違う気もするんですが、その節はお世話になりました。

 俺、西大寺さんのおかげで何のギフトか分かったんです」

「んー、君にとっての過去の私が役に立てたようで良かったよ。うん、言葉の違和感がすごいね」

「そうですね。慶治さんも、お久しぶりです」

「おっ……、おう……」


 二人とも苦笑いしつつ応えてくれる。そんな様子に俺も苦笑いだ。

そりゃそうだよな、初めてあった人にこんな反応されたら、俺だってそうなると思うし。


「えーっと、それで話はある程度聞いているけど、今日を繰り返しているって事だったね。

 あとはギフテッドが関わる事件を追っていたと……」

「はい。俺じゃどうしようもなくて……」

「ふむ、ならこちらで対処しようか」

「ちょっと待って下さい所長! そんなあっさりと信じるんですか!?」


 俺と大吉さんの話を止めたのは、ボディーガードの慶治さんだった。

そういえば彼は、初めて会った時も俺に対してというか、ギフテッドに対して警戒してたように思う。

少なくとも、こんな突然の話をはいそうですかと聞き入れる人ではないようだ。


「うん、まぁ信じる信じないは正直な所微妙だよ。でも狂言だったとして、本当に事件が起こってしまうよりも、空振りの方がマシだろう?」

「そうじゃなくて、コイツが本当に悪意がないか調べもしないその態度が危ないって言ってるんです!

 司が居るから信じるってのは分かりますけど、自分の特異体質分かってますか!?」

「いやぁ……、それ言われちゃうとなぁ……」


 大吉さんはポリポリと頭をかきながら、痛い所を突かれたといった表情だ。

特異体質? いったい何を心配しているというのかは分からないが、どうやら信用していいか悩んでいるようだ。少なくとも慶治さんは確実にそうだ。

もしかして、こうなる事を見越してあの時の大吉さんは俺に……。


「あの、前に会った時に西大寺さん……、大吉さんから合言葉を聞いてまして……」

「合言葉?」

「はい。えっとここで言っていいんですかね……? 前は慶治さんにも秘密にしてましたけど」

「あ、それじゃあこっそり教えてくれるかな?」


 俺は大吉さんの耳元で合言葉を呟く。どちらかと言えば、合言葉と言うよりは伝言なのだけど。

それを聞いた瞬間、大吉さんは「あー、マジか」と言葉を漏らした。


「所長、合言葉ってなんですか?」

「あぁ……。“上司によろしく”って……」

「上司……? えっ、まさか……」

「あぁ、その後に続く合言葉からもそのまさかだろうね……」

「なに考えてるんですかホント!! それは最終手段だって言ったでしょう!?

 アイツが動いてるとかロクな目に遭いませんよ!?」

「うん。考えたくないね。しかし、こうなったら動くしかないよね?」

「うっ……。わかりました。手配します」


 そう言い残し、慶治さんは駆け出す。そして同じく大吉さんも、俺を引き連れて移動を始めた。

その間も俺に事件の内容を聞く事を止めず、メモにペンを走らせるその姿は、やはりデキる大人という雰囲気を漂わせていた。

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