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25 計画倒れ

 いつもの朝、いつもの今日。変わり映えのない毎日にやる事がルーチンワークと化す事はあるが、俺の場合は本当に同じだ。バスに乗り、電車を乗り継ぎ、新幹線へ。

けれど今日は昨日とは違う。やっている事は同じでも、行動は素早かった。


「いってきまーす!!」

「えっ! 今日は早いじゃないの!?」


 そんな声を背後に置いて、俺は走った。なぜって、俺の乗るつもりのバスは6時43分発なのだ。

起きて準備してバス停まで走って、その猶予は13分しかない。そして俺の足ではバス停まで全力で8分。

5分間で準備しろなんて、無茶苦茶だと思いながらも俺はやってのけた。


 息を切らせながら出発間近のバスに飛び乗り、制服がもっと簡単に着れるものだったらと思いながら、手に持った緑のネクタイを揺られながら締める。

もうサボりだと思われても構わないし、制服じゃなくてもいいかなとは思いつつ、それでもすぐに手に取れる場所にあるのがそれなのだから、急ぐなら制服一択になる。うん、その理由だけなら別にネクタイはいらなかったな。




 俺がこんなに急ぐ理由、それはもちろん現場に早く着きたいからというものなのだが、今回間に合わせる時間は由香里さんとの待ち合わせでもなければ、事故の発生時刻でもない。

歩さんの言っていた、つけられていると気付いた時間、11時半だ。


 誰かにつけられている、それは何かあるという事で間違いはない。今回の一連の事故との関係は具体的にはまだ分からないけれど、由香里さんでもなく俺でもない人物。それが何も関わりがないという方が不自然だろう。

それこそ由香里さんの説明ででっちあげた、呪いかなにかを送っている張本人かもしれないし、もしくはギフトを使って何かしてるとか、まー詳しくないんでわからんがそういう事だって考えられる。

ともかく、その人を見つけてなんとかしようって思ったわけだ。


 そして問題は、俺の家から斉東区にある百貨店までは5時間ほどかかるってトコだ。つまりループの都合上6時半にしか起きられない俺にとって、それはリミットギリギリだ。

しかしそれは最短時間の話、普通なら乗り換えなどの時間でもうちょっとかかる。実際に由香里さんとの待ち合わせは連絡を取り合って時間を調整していたくらいだしな。

けれど朝というのは、通勤客向けに電車の本数が多い。それは新幹線も同じで、乗り換えさえミスらなければ本当に最短時間で到着できるようになっていたのだ。




 そういう事を昨日、俺はマンガ喫茶で調べていた。なんでも調べられるネットってすごいね。

というかパソコンっていいね。スマホと二台体制で調べものするのってホント便利。各鉄道会社の時刻表を二つの画面で並べられるんだから。


 そんな事を思い出しながら、乗るべき電車の時刻も脳裏に浮かべていた。

俺は結構暗記は得意でね、テスト前の一夜漬けはどの教科よりも得意なんだ。すぐ忘れるけど。

おかげで今回は助かっている。このバスにさえ乗れれば時間には間に合うのだから。

なーんて油断してたのが悪かったのかなぁ……。


「お客さん、定期切れてますよ」

「えっ……。ちょっと待って、お金お金……。あっ、両替しなきゃ……」


 そんな声が降り口の方から聞こえてきたのだった。こういうのを「フラグ回収」って言うんだろうか。

バスはしばらくそこで停まり、明らかに出発が遅れている。いやバスが時刻表通りにはなかなか動かないのは知ってたけどさ……。

というか、普段の遅刻になるかならないかのバスってのも、渋滞で遅れるかどうかで運命が決まるバスだから、よーく知ってたはずなんだけどな……。

どうやら俺は、繰り返す今日に知らず知らず毒されていたらしい。全てが計画通りに行くなど、普通ならありえないのだ。


 そうボヤいていても仕方がない。時刻表通りだと電車への乗り換えまで5分ある。その間についてくれさえすれば、何とか走ってリカバリーしよう。

そのためには降り口付近に陣取って……、なんてことはすでにできなくなっていた。

バスには人が多く乗っているので、今さら降りもしないのに移動するのは難しい。乗った時に出口側に移っていれば、その後悔は虚しかった。




 しかしてバスは遅ればせながら駅に着き、俺はぞろぞろと降りる人に紛れながら改札へと走った。

乗り換えさえうまくいけば、新幹線の時間には余裕がある。厳しいのはここだけだ、乗り越えろ!

そう自分に言い聞かせ、突っ込んだ改札は一番右側。ルート的に最短距離だ。だが俺は、急がば回れという言葉を思い出す事になる。


『ピンポーン 残高が足りません』

「あっ……、すみません」


 入ろうとした数人先でICカードを改札にかざしたサラリーマンが流れを断ち切った。

それを見た瞬間俺は隣へと移ろうとしたものの、その後ろの列がそのままスライドし、行く手を塞ぐ。

いやこれ何の嫌がらせだよ!? そう叫びたい気になるが、それは他の人も同じだ。スライドしてくる列は皆一様に不機嫌な顔で、中には舌打ちしている人までいるほどだ。


 ヤキモキしながらも改札に定期を叩きつけ、階段を駆け上がり陸橋を渡る。

けれどわずかに10センチ、伸ばす腕虚しく扉は閉まる。ガラス越しの乗客の哀れみの視線を受けながら、俺はがっくりと肩を落とすのだった。

はぁ……、行ってしまった電車を恨めしく見てたって仕方ない。今のうちに司に今日は休むって伝えておこう……。




 予定より遅れてしまってはいるが、すぐにホームに滑り込んできた次の電車に乗って俺は新幹線駅まで来ていた。ただし乗り換えがかみ合わず、すでに時間には間に合いそうにない。

そして今も、微妙に開いてしまった時間を使い、売店でお菓子と飲み物を買って、ホームで待っている状況だ。


 もちろんお菓子はチョコレート。二日連続で会ったのだ、あの朱色の髪の新幹線男は来るはず。繰り返す今日の中でイレギュラーな存在の彼の正体も、暴いてやろうと思うのだ。彼が何か関わっている可能性も捨てきれないのだから。


「隣、いいですか?」

「はいどうぞ」


 その声がかけられた瞬間、俺は「来たっ!」と心の中でつぶやいた。

知っている事全部話してもらうぞと意気込んで振り返ると、そこにはでっぷりと太った男が立っていた。

男はのっそのっそというような重い足取りで、隣の席へドシッと腰掛ける。ひじ掛けで仕切られているのに圧と熱と、あと汗臭さがこちらに流れ込んできた。


 お前じゃない!!


 そう言いたいのをぐっとこらえ、俺は暑苦しい列車の旅を満喫させられる事になるのだった。

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