17 繰り返す今日 繰り返す結末
由香里さんが今日を繰り返した理由、それは付き合っている彼が今日死んでしまうから……。
その運命を変えるため、彼女は幾度となくこの一日を過ごしていたのだという。
「詳しく聞かせてもらえますか?」
「はい……。今日の夜、仕事が終わってから彼と会う事になっていたんです……。
けれど待ち合わせの場所で待っていても彼は来なくて……。それで彼に電話をしたら……。
知らない人が出て……。彼が交通事故に遭ったと……」
「それが最初の今日だったんですね?」
「はい……」
由香里さんはぽつりぽつりと、言葉を探すように小さな声で話す。
その時の事は、思い出すだけで辛いのだろう。すでに目には涙が溢れ、今にも零れ落ちそうになっている。
続けて話してもらうのは難しそうなのもあり、俺は事故の話ではなくギフトについてを聞く事にした。
「その、確認なんですが、能力を使うのは今回が初めてだったんですか?」
「はい……。私もこんな力があるなんて知らなくて……。
その時願ってしまったんです……。時間を戻して彼を助けたいって……」
「それで能力が発動したと?」
「はい……。突然の事だったので信じられなかったんですが、でもなんというか……。
私がやったんだっていうのは、誰かに言われるでもなく分かりました」
「そうなんですか」
どうやら由香里さんは自らの意思で能力を発現させられるタイプで、俺と違って能力自体を自覚できていたようだ。
これが司や大吉さんの言っていた、能動型と受動型の差なのだろう。
それなら彼女は、二回目の今日が始まったその時から行動をしていたはずだ。
「それで、助けられたんですか?」
「いいえ……。私は彼に事故の事を言ったんですが……、信じてもらえなくて……」
「え? 信じなかったんですか?」
「それは私が能力を誤魔化したから……。夢で見た事にしたんです……。嫌な予感がするって……。
彼にギフテットだと知られるのが恐くて……」
ギフトのイメージ、それは得体のしれない強力な力。そんな力を欲しがるのは、デメリットを考えられない人くらいだろう。前までの俺のように。
良い方にも悪い方にも影響が大きすぎて、距離を置こうとするのを責められるわけがない。
その上時間操作系の能力なんて、大当たりがゆえに悪用された時の危険が大きすぎる。
触らぬ神に祟りなしと、周囲の人が離れていくだろうと由香里さんは考えたようだ。
「そうですよね。危ないものだと思っている人も居ますし、それは仕方ありませんよね」
「だから……。彼を助けられなくて……」
「それで、もう一度やり直したんですね」
コクりと頷く。その時ポタりと、テーブルに涙が落ちる。
俺は備え付けられていた紙ナプキンを差し出し、彼女が落ち着くのを待った。
「ゆっくりでいいです。話せるようになったら、続きをお願いします」
「ごめんなさい……。それで……、あの……。直接はダメだって……。だから……、私考えて……」
「無理しなくていいですから。俺、待ってますから」
「いえ……。ちゃんと……、言わないと……」
ふるふると首を振り、しゃがれかかった声を振り絞る。
まるで立ち止まるともう二度と動けなくなるんじゃないかと思っているような、痛々しいほどに自身を追い詰めている様子が、こちらにありありと伝わってきた。
「時間を覚えて、事故直前に電話をしたんです……」
「それはどうしてですか?」
「電話をしていれば、立ち止まると思って……」
「なるほど。それでどうなりましたか?」
「事故は……、起きませんでした……」
「え? 事故に遭わなかったじゃなく、事故が起きなかったんですか?」
「はい……」
ってことは、今の話からすると事故の原因はその彼にあるのだろうか?
あ、もしかして車の運転をしていた時の事故って事かな? だから電話中は車を停めて……。
いやそうなると、さっきの「立ち止まる」ってのに違和感が……。
詳しく聞きたい所だけど、それ以上に気になる事がある。そちらが先か。
「なら、どうしてまたやり直したんですか?」
「……。彼はその後、電車の事故で……」
「へ? 交通事故って電車だったんですか?」
「そうじゃないんです……。駅で線路に転落したって……」
「え? さっきの事故の話とは別って事ですか?」
「はい……」
ん? 混乱してきたぞ? 交通事故とは別で、電車の事故が起きた? そんな事あるのだろうか?
いや、考えてみれば交通事故で死んでしまった場合、その後電車の事故には遭いようがないのだから、普通に生活してたらありえない話だ。
ネットでそんな話書き込んだら、「成仏してクレメンス」という、謎のお坊さんの画像と共にコメントが付けられる話だしな。おっと思考が脱線してしまった、今はそれはいい。
電車の事故か……。この場合聞きにくい事ではあるけれど、どうしても確認しないといけない事がある。
「言いにくいとは思うんですが確認させて下さい。彼は自ら飛び込んだとかではないですよね……?」
「はい……。警察の人から聞いた話ですけど……、目撃した人は急に倒れ込んだように見えたと言っているそうです……。事件性もないと……」
「突然倒れたって、何か病気があったんですか?」
「いえ、そんな話聞いた事ありません……」
「そうですか……。それでまた巻き戻したんですね」
「はい……。でも私思ったんです……。これは運命なんじゃないかって……」
「運命?」
「何度やり直しても逆らえないものなんじゃないかって……。
だから次ダメだったら、あきらめようと思っていたんです……」
そう考えても仕方ない事だ。最初の事故を回避したのに、次の事故が起きる。そんな事があったら俺だって変えられないんじゃないかって思うだろう。
あれ? これ3回目の話だよな。俺は確か……、そうだ、大吉さんと会った時だな。
という事は、次は4回目。俺が司にそそのかされて書き込んだ、前回の話だ。
「もしかして、また電車の事故が起きたんですか?」
「はい……。事故のニュースを確認している時に、筒井さんの書き込みのニュースを見ました」
「そういう事ですか……。それで、前回はなぜ事故を防げなかったんですか?」
「私、彼と朝から会おうとしたんです……」
「あぁ、ずっと付いていれば確実ですもんね。え? 付いてたんですか?」
「いえ、彼には仕事中に私と居るのはおかしいって言われて……」
え? 仕事? 今までのは仕事中に事故にあったって事か?
なんか色々情報が足りなくて、意味が分からなくなってきたな……。
「えぇと、確認したいんですが、彼は仕事中に事故にあったんですか?」
「はい……。彼は営業職なので、外回りをしていたんだと思います……」
「あぁ、なるほど。それで結局事故は起きたんですね」
「はい……。前と同じように電話をして、最初の事故は防ぎました。
それで二回目の事故も同じように電話をして……」
「もしかして、防げなかったんですか?」
「はい……。途中で彼の声が聞こえなくなって……。その後電話は切れました……」
由香里さんはポロポロと涙を流しながらも、必死になって説明を最後までやり遂げた。
その後はきっと大丈夫だと、ただ電話が切れてしまっただけだと信じて、ニュースを探したんだろう。
そして俺にたどり着いたと……。
ん? いや待てよ? って事は今回はどうなっているんだ?
「あの、今までの事は分かりました。それで今回は……?」
「何もしていません……」
「えっ!?」
「もう変えられないって分かったから……。ごめんなさい、ずっと迷惑かけて……」
「えっ!? でも!!」
「きっと私のギフトは……、未来を変えられるものではなかったんです……。
最後にもう一度だけ、彼の声を聴かせてくれるギフトだったんです……」
「……」
そう言われると何も言い出せない。なぜって、俺はギフトを渡した本人でもなければ、専門家でもない。
だからギフトの現れた理由なんて分からないし、本人がそう言っているのならそうなのかもしれない。
けど、それなら俺はどうなんだ? 俺のギフトは、目の前で泣いている人を見るために現れたって言うのか?
だったらギフトを送ったカミサマだかなんだかは、相当いい趣味をしていらっしゃる!
んなクソみたいな理由のために押し付けられたんだってんなら、俺は抗ってやろうじゃねぇか!!
「俺は諦めません! だって俺は、まだ何もしてないから!!」




