13 特定
……。もう何度目だろう。唐突に朝が訪れるのは。
起きろと急かすスマホのアラームを止め、俺は二度寝せんとスマホと共にベッドへとダイブした。
あー、何もかもがめんどくさい。必死になって行動したって、結局は巻き戻されるのだ。
今日はこのままベッドの中でグダグダしてやろう。そう思い、うつろな目でスマホを眺めている時だった。
SNSアプリの右上に、①のマークがついている事に気付く。
それは通知。何かしらのおしらせがあるという目印。昨日は999+になっていたな。
それが消えたのは、ある意味でありがたい。多すぎる通知は確認だけでもめんどくさいからな。
とりあえず何かあったかと思い、アプリを立ち上げる。
そして通知内容を確認すれば、それは思わぬメッセージの着信を知らせるものだった。
『今日を繰り返しているのは私です』
表題を見ただけで、俺は寝ぼけた頭が一気に覚醒するのを感じた。
だが俺がとるべき行動を考えても、何も出てこないポンコツ頭である事も同時に感じたのだった。
いやまさかホントに連絡来るとは思ってなかったし、なにより言われるまま書いただけだし!?
そこまでぐるりと頭が回れば、やる事を思いつく。そうだ、黒幕に聞こう!
6時半ならすでに司は起きているはずというか、もうすでに学校に行く途中のはずだ。
獣人は目立ってしまうからと、司はものすごく早い時間に登校していると言ってたからな。
だから問題なく電話に出るはず、そう考えて即座に司の電話番号を電話帳から呼び出した。
呼び出す事3コール。さすがの司は電話に出るのも早かった。
「司! 助けてくれ!」
『唐突』
「それ何回目か分かんないけど、それはいいから!」
『ちょっと待って、今電車なんだけど』
「あぁ……、いやでも急ぎなんだ。スマン!」
『……わかった。駅着くからいったん降りるね』
その言葉の後しばらく司の声は聞こえなくなる。けれどその後ろでは、電車の走り出す音が聞こえた。
人が少ない時間に登校できるようにしているのに、俺のせいで手間取らせている事に、今さらながら申し訳なくなる。
『それで、何の用?』
「司、いつもゴメンな」
『え? 何? 気持ち悪い』
「気持ち悪いはないだろ!? でもま、全部片付いたらなんかオゴるよ」
『え? なにそれホント怖いんだけど』
「まぁ、その時司は覚えてないかもだけど」
『イミガワカラナイヨ……』
さっきまでテンパっていたのに、俺自身があまりの身勝手な俺の様子を客観視したのもあって、妙に落ち着いてしまった。
まぁ、説明するにも一度一呼吸置くのは良かったのかもしれない。
『何を奢ってもらうかは考えておくとして、用件は?』
「あぁ、それがな、どうやら俺にギフトが発現したらしい」
『へぇ……、おめでとう。いったいどんなの?』
「予知夢でも、時間を巻き戻す能力でもなかった」
『でもなかったって何』
「どうやら、他の人の時間遡行に巻き込まれる能力みたいなんだ」
『うわ、びっくりするほどハズレだね』
「だよな!? いや問題はそこじゃねぇ!!」
前の予知夢だと言ってた時はあたりだと言ってた気がするが、見事な手のひら返しをされた。
といっても、今回の司にとってはこれが初めての話だし、なにより実際ハズレだと俺も思う。
『で、それで僕にどうしろって? 聞いて欲しかっただけ?』
「いやそうじゃなくて、前の司が色々やったから分かったんだよ。
んで、この後どうすればいいのかわかんなくてな……」
『へ? すでに巻き戻されてるって事?』
「うん。確か……、5回目くらい?」
『へー、にわかには信じられないな』
「前回の司は信じてくれなくて手間取った」
『ちなみに今回の僕も半信半疑だよ?』
「でしょうね!」
と言いながらも、今回のと言っているあたり信じていないわけではなさそう……。
いや、ただ単純に話に乗ってみただけという可能性もあるか。
「ともかく、前回の司がSNSで犯人を釣り上げる書き込みしろって言ってな。
んで、実際にその返信が今見たら来てたんだよ」
『ほーん』
「信じてないな!?」
『話半分。どんな内容?』
「えっと、今日を繰り返してる人に何か困っているなら助けるって感じの内容を送った」
『あー、こっちは気付いているぞっていうアピールね』
「さすが本人、裏の意図にすぐ気づいてやがる」
『これくらい普通でしょ。で、返信は?』
「まだ読んでない。タイトルは私が繰り返しています的な」
『中身読んでから電話してよ……。まぁいいや、こっちに転送してくれる?』
「わかった」
一度電話を切り、俺はメッセージを確認した。中身はなんて事ないものだ。
『ごめんなさい、今日を繰り返しているのは私です、一度お話できませんか?』
うん、出会い系の迷惑メールかな? これを司に? なんかバカにされそう……。
いやしかし、だからと放置しても仕方がない。
何を言われるか分かったものじゃないが、本文をコピーして俺は司に送るのだった。
するとすぐに折り返しの電話がかかってくる。
『なにあれふざけてる?』
「あの、残念ながら本気です」
『はぁ……。半信半疑の半信をさらに半分にされたんだけど』
「いやホントに困ってるんです……。助けてください……」
『まったく……。とりあえず連絡とってみたら?』
「考えるのめんどくさくなってない?」
『否定はしないけど、相手が本物かどうか調べるのなんてそれ以外ないじゃん』
「確かにそうだけど……」
『もし本当に僕がこんな雑な方法を考えたんだとしたら、説教しないとね』
「自分で自分を?」
『……。もういいや、それじゃまた学校で』
「あっ……。うん」
なんか怒ってた? まぁ気にしても仕方ない。とりあえず言われた通り連絡してみよう。
こうして俺は、メッセージの返信を考えていたのだった。
とりあえず今日を繰り返している理由は聞かないと……。いやその前に相手が本物かどうか確かめる?
あ、それは必要ないか。ループ後にメッセージが来たって事は、少なくとも相手はループしても記憶がリセットされない相手なんだしな。つまり、俺と同じような状況でもない限り、本物だと考えてもよさそうだ。
あぁ、明日になればわかると言った前の司は、もしかするとこれすらも見越していたのかもしれないな。
だから俺は、相手が本物であるかどうかを考える必要はない。
問題はこのループを終わらせる事。その交渉をするだけでいい。
そうとなればそんなに難しく考える事もなかった。
『メッセージありがとうございます。どうして今日を繰り返しているか教えてもらえませんか?』
そう入力して送れば、返信はすぐに返ってきた。
たぶんこの早さは、相手もずっと待っていたのだろう。
『理由は……。一度電話で話せませんか?』
『えぇ、いいですよ。では電話番号送ります』
長くなると判断したのか、相手は電話でのやりとりをしたがる。
まぁ俺もいちいち入力するより喋った方が早いと、特に考えもなく電話番号を添付した。
そして電話がかかって来た時、ふと思う。相手の名前も年齢も、男か女かすらもわからねぇ!!
それに相手もループしてるんだから、司と違って今回の事は今後も覚えているわけだ。
そうなると電話番号も色々悪用されたり、いやそれ以前にSNSアカウントも特定されてるし……。
今なら知らぬふりしてやり過ごす事もできなくはない。
けれどそうなると今度こそこのループが終わらなくなるわけで……。
いやいや、でもでもとぐるぐる部屋を回り、やっと5回目のコールで俺は電話を取った。
「はい……」
『あの……私、米野 由香里と申します……。
今日を繰り返しているギフトの持ち主です……』
相手は予想に反して、弱々しい声の若そうな女性だった。




