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12 腹黒猫獣人の恐ろしさを俺はまだ知らない

 なんだかんだの押し問答の末、司は俺の言っている事が本当だとようやく信じたようだ。

いやしかし、昨日……じゃない。前回はすぐ信じたのに、今回はなぜこんなにも疑り深かったのか……。

いや思い返してみれば、朝教室に入るや否や「助けてくれ!」って叫んだら、疑う気にもなれないか。

もしくは俺が腑抜けって言ったのを根に持ってるだけかもしれないけど。


 結局所長こと大吉さんに電話することなく、今回の司に事のあらましを説明する事になった。

あぁ、この説明って今後何度繰り返す事になるんだろうな……。


「それで、その前回……でいいのかな? 所長はなんて言ってた?」

「一番可能性が高そうなのは『巻き込まれ型』じゃないかだって」

「なるほどね。所長の方が状況を俯瞰できてたようだね。

 それまでの僕は、ギフトなら本人の能力で巻き戻ってると思い込んでたようだし」

「すげぇ他人事だけど、俺からしたらそれも司なんだよなぁ……」

「よっしーも混乱してるだろうけど、僕も混乱するからその話はやめよう。

 今までの僕は、双子か三つ子かそれ以上の別人だとでも思っておいて」

「あぁ、その方がよさそうだ」


 わんこそばの司も、アイスであたりを引いた司も、全部同じ司だと思うと確かに混乱する。

全員別人だと思わないと、本当に何度も繰り返す今日に頭がおかしくなりそうだ。

それをさっと「双子か三つ子みたいなもの」と言いかえる事で鎮めてくれる司の存在は本当にありがたい。


「それで、巻き込まれ型だとしてどう対処するつもり?」

「えっと、前のループと違う事を見つければいいって聞いて、ニュースとか見てた」

「なんでそうなる!?」

「いやほら、繰り返す理由になりそうな事がニュースになってるかなって」

「あー。その理由を探るために、僕なら何するかって聞いたわけだね」

「そういうこと。でもさ、万馬券が出たとか、宝くじの事とか、そういうの見当たらなかったんだよな」

「つまり相手はお金目的じゃないと?」

「さあ? まぁ巻き込まれ型と決まったわけでもないしなぁ……」

「所長が言うなら、一番可能性が高いよ。あの人は特別だから」


 すっと司のオーラが変わった気がした。

元々マジメで落ち着いた雰囲気だけど、何かうすら寒いような、そんな空気だった。


「特別?」

「ま、その話はいいよ。でもね、今のやり方じゃ無理だよ」

「だよな。なんにもつかめる気がしねぇ」

「そりゃね。砂場で一粒の砂金を探すようなもんだよ」

「まさにそんな感じだな」

「方法を変えないとね」

「いやでも方法つったって……」


 司はすっと視線をそらし、一瞬物思いにふける。

まるでドラマの探偵が何か証拠の品を見つけた時のような雰囲気だ。

そして俺に向き直り、ニヤりと悪い顔をした。


「一つ一つ探すより、砂金の方から来てもらおうか」

「ん? 磁石で引き寄せるとかか?」

「金は磁石にくっつかないよ? って今はそういう話じゃないね。でも考え方としては近いね」

「具体的には?」

「そうだな……」


 司は胸ポケットから生徒手帳とペンを取り出し、メモ部分に何かを書く。

なんどかガリガリと線で消したり付け加えたりしたものを、俺の目の前に差し出した。


「よっしーのSNSアカウントに、これを書いて投稿してみて」

「ん? なんだこれ?」


 そこには『【#拡散希望】今日を繰り返している誰かへ、連絡ください。困っているなら力になります』という一文が書かれていた。


「これって?」

「相手がこれを見たら、おそらく連絡してくるはずだよ。

 そうじゃなくても後ろめたい事をしているのなら、ループを止めるだろうね」

「なんで?」

「そりゃ、自分以外に気付いている人が居ないから好き勝手やってるんだ。

 気づかれたと知ったなら、特定される前にやめておくでしょ?」

「なるほど」


 つまり文面こそ『困っているなら手伝う』と書いているが、その実『お前のやっている事に気付いているぞ』という脅しなのだ。

いやはや、この理系にゃんこは敵に回すと恐ろしい。よし、腹黒にゃんこに進化だ。


「ま、やるだけやってみなよ。もしかするとうまくいくかもね?」

「うーん……。そうだな、何もしないよりはずっといいか」


 俺は言われるがままその文章を打ち込み、そしてインターネットの海へと放流してしまったのだ。

それがどのような結果をもたらすかなど、少しでも考えればわかる事なのに……。




「おい筒井! お前ループ能力に目覚めたんだって!? 明日の天気当ててみろよ!」

「いやそんなムダな事に使うような能力じゃない! テストの問題をだな……」

「それよりも宝くじの当たり番号だ! 筒井のオゴりで飯行こうぜ!!」


 俺は休み時間のたび、人だかりに埋もれる事となった。

そりゃそうだよな。少なくとも当事者以外にとって、時間操作能力なんて当たりギフトにしか思えないだろう。司ですら予知夢と推測した段階で当たりと言ったくらいなんだから。


 だが待って欲しい。あの書き込みには、俺がその能力者だとは一言も書いていないのだ。

ちゃんと文章は読もう、な? でないと詐欺に遭うぞ??

なんて事を言うつもりはないし、これが実際に時間操作している人を見つけるために必要な事なら我慢するしかない……。


 だが、昼休みも人だかりのせいで動けず、メシを食いそびれるのはさすがに勘弁してほしかった。

そんな時に頼るのはもちろん……。


「司! ヘルプ!!」

「んー、仕方ないなぁ。ほら、学食行くよ」


 ぐいぐいと腕を引っ張られ、俺は食堂へと避難した。

あのまま押しつぶされるかとひやひやしたぜ……。


 そして三度目のハンバーグ定食……、はさすがにやめておいた。

前回の山盛りトンテキを思い出して、肉を食べる気にならなかったのだ。

まぁ、三度目ともなるとさすがに飽きが来たというのもあるけれど。


 前に司がやけどした天そばを流し込み、俺たちは自販機で当たりのジュースを買うと、ベンチへと腰を下ろす。


「まさかこんなことになるなんてな……」

「まー、僕は予想してたけどね」

「分かってたのかよ!?」

「そりゃまぁね」

「くそっ! この腹黒にゃんこめ! 後で覚えてろよ!?」


 俺の抗議の声などどこ吹く風で、司はブラックコーヒーを飲みながら笑う。

きっとコーヒーの黒さが腹に溜まってるんだ! そうに違いない!!

今からでも牛乳で中和してやろうかと思っていると、司は問いかけてきた。


「で、反応はどう?」

「反応?」

「それっぽい人いた?」

「いや、なんかスゲー拡散されてて、返答の確認すらできてない」

「そうだね。午前中だけで60万回も拡散されてるね」

「いやいやおかしいだろ!? 俺そんなに知り合いいないのにさ!」

「まぁ、それはこっちのツテを使ったからね」

「はい!?」

「知り合い……、というか研究所の関係者にね、大きな人脈を持つ人がいるんだよ。

 あとはネット工作員ってやつ? そういう機関も持ってるからね」

「なにそれこわい」

「考えてもみなよ。ギフテッドの起こす問題がさ、こんなに少ないわけないんだよ。

 それはある程度研究所が制御、もしくは隠蔽してるからなんだ。

 よっしーもギフトが発現したからには、そのあたりも知る事になるさ」

「えぇ……」


 司はクスクスと笑うが、いやいや笑い事じゃない。

司が腹黒なんかじゃなかった。あの機関自体がやっぱヤバい組織だったんだ……。

あー、妙な団体に目を付けられてしまったな。もし性懲りもなくループしたなら、今度は黙っていた方がよさそうだ。


「ま、とりあえず()()()様子見だね。

 欲しいのは砂金。磁石に引き寄せられた有象無象の砂鉄には用はないしね」

「え? 明日?」

「そう。明日になればわかるさ」

「もうループはしないって事か?」

「さて、どうだろうね。とりあえず今日の所は、もう一手打っておこうか」

「もう一手?」


 司は朝と同じく、生徒手帳にさらさらと何かを書き、見せてきた。

そこには『コメントが追いきれないため、改めて連絡ください』とあった。


「いやいや改めてってどういう事だよ!?」

「今ついてるコメントから探せるの?」

「いやどれだけ時間あったって無理だし、今回もループするとしたら実際に時間もないぞ!?」

「ならなおさらこれでいいのさ」


 意味ありげな顔をする腹黒にゃんこを、もはや俺には止めようがなかった。

しかしどのみち乗りかかった船だ、言われるがままやってみようじゃないか。

パパっと書かれたままの文を打ち込み、そして俺は再びネットの海へと放流したのだった。


「あとは待っておくだけでいいのか?」

「そうだな、一応前の時と違う事を探しておこうか。ニュースは全部覚える気で読んでね」

「いやいや、さすがに全部はムリムリ!」

「いいからやんの」


 ギロりと司に睨まれ、俺は午後からの空き時間全てをニュースサイト巡りに費やすのだった。

そしてまさか自分の書き込みが取り上げられるなど思ってもいなかった俺が、ニュースの記事になっていて驚いたのは言うまでもない。


「これが()()の力か……」


どんなギフトよりも、司と繋がっているチカラの方が恐ろしいのだと、まざまざと思い知らされたのだった。

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