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10 風吹けば

 今まで可能性が高いと思っていた予知夢の能力、それを大吉さんは否定した。

そして俺と司では考えもしなかった可能性を、すでに考えついていたようだ。

まぁ、もしかすると司は考えついていて言わなかっただけの可能性もあるけれど……。


「それじゃ二つ目、いわゆる死に戻りタイプ」

「えっ?」

「死亡したら時間が巻き戻るっていう条件発動型だね」

「そういうのマンガとかでありますね」

「最初のループは風呂場だって言ってたでしょ? だから溺れたって可能性もあるかなとね。

 それならアクティブじゃなくても条件発動型パッシブならありうるでしょ?」

「でもそれだと……」

「そう、次の電車の中というのがおかしな話になる。電車の事故という可能性はなくはないけど……。

 そうなると最初の時に家まで帰れているのがおかしいって事になるよね」

「俺の行動で未来が変わったとか……?」

「バタフライエフェクトだね。小さな変化が、周り回って大きな変化へと繋がる。

 風が吹けば桶屋が儲かる。そんな因果のドミノ倒し……」


 自分で言っておいてなんだが、それで電車が事故を起したらたまったもんじゃない。

それはつまり、何がどう影響したか分からないけれど、司がそばでやけどするはずだったのを回避したり、自販機のあたりを譲ったり、初めてアイスで当たりを引かせたり……。

……。思い出したらなんか司に尽くしてる感がしてきた。どれも小さい事だけど。


 ともかく、そんな小さな事で重大事故を起こされたらたまったもんじゃない。

どうやっても電車の事故につながるような道筋が見えないしな。


「なんかピンとこないですね」

「想像もできない所で繋がってるものだからね。それも当然だよ。

 けど可能性はなくはないけど、低いんじゃないかなと思ってる」

「え? そうなんですか?」

「因果がめぐるには時間的な制約が大きいからね。風が吹けばって話、途中は知ってるかな?

 端折るけど、猫が減ってネズミが増える。そしてネズミが桶をかじるんだ。だから桶屋が儲かる。

 さすがに一日でネズミは増えないよね。遠い結果に至るには時間がかかるもんなんだよ。

 だから三つ目が一番怪しいと思ってる」

「三つ目?」

「うん。ただコレが一番厄介なタイプなんだ……」


 顎に手をやり、少し悩む仕草をする彼を見ると、不安が大きくなる。

一番厄介とはどういう事なんだろう。


「あの、三つ目って?」

「うん。簡単に言えば巻き込まれ型」

「巻き込まれ型?」

「誰かが時間を巻き戻しているのに巻き込まれているパターンだよ」

「え? それってどういう事ですか?」

「つまり時間を巻き戻す能力を持つ誰かが今日を繰り返している。

 そして君はその能力を無効化、または弱体化させる能力って事だね」

「……?」

「少なくとも完全無効化ではなさそうだね。記憶だけを引き継いでいるのだから。

 だから時間の巻き戻しは君の能力じゃなく、他の誰かの能力ってこと」

「じゃあ、今日を終わらせるには……」

「その誰かを見つけてやめさせるか、もしくは満足するまでその誰かに付き合うかだね」

「それっていつ終わるんでしょうか?」

「そうだねぇ……。今回で終わるかもしれないし、1万回以上ループするかもしれないね」

「1万回!?」

「もちろん冗談だよ?」


 大吉さんは笑いながら言うが、俺にとっては笑い事じゃない。

3回目ですでに気がおかしくなりそうなのに、そんなにループされたら正気で居られるわけがないのだから。


「たとえ条件発動型だったとして、相手だってループに気付いているはずだからね。

 君と同じようにどうにかしようと思っているはずだし、パッシブ型なら何か理由があってやってるはずさ」

「理由ですか。なんのために巻き戻しているんでしょう?」

「うーん、色々あると思うけどね。君がその能力者だとして、なにをする?」

「俺ですか?」


 大吉さんはコクリと頷く。俺ならどうするか……。

もしギフトに目覚めたらなんてのは、割とよくある妄想ネタだ。ただ俺はもっと分かりやすい、水を出したり、慶治さんのように火を出したりの系統を考える事が多かった。だからパッと思いつかないのだ。


「そうですね、学校をサボって遊びに行く……とか?」

「今まさにそれに近い事をやってるけどね?」

「あっ……」


 言われてみればそうだ。遊んではいないが、サボって出かけているのに変わりはない。

そして今は「もしギフトに目覚めたら」ではなく、実際に目覚めてしまっているのだ。それも思っていた以上に複雑というか、面倒なギフトに。


「慶治なら何する?」


 大吉さんは、聞き役に徹していた慶治さんにも同じ質問をする。


「俺!? うーん、そうですねぇ……。競馬でひと山当てるとかですかね?」

「カネか!? 意外と強欲だねぇ」

「いや、一般論というかですね、他の人が考えそうな事を言っただけですよ!?

 もちろん今の生活に不満があるとかそういうのじゃないですからね!?」

「そんな早口で反論されると本当にそれっぽいよな~」

「所長!?」


 あわあわと慌てふためく慶治さんに、大吉さんは意地悪な笑みを浮かべる。

なんだかこの二人は、所長と職員という上司と部下のはずなのに、そういう感じがしないな。


「まぁでも金目的にしても、こんな平日にループさせるのは変かもね。

 やるなら年末の大きなレースがある日の方がいいと思わない?」

「あぁ、確かにそうですね。それじゃあ所長ならどうします?」

「え? 俺? そりゃもちろん人助けに使うに決まってるじゃないか」

「自分だけかっこいい事言ってません!?」

「何を言うか。これは最後に答える人の特権なのだよ」

「クッソ! ずるいですよ!?」

「ズルくなーい、ズルくなーい」

「ぶふっ……あははは! ごっ、ごめんなさい、なんかおかしくって」


 二人の言い合いを見ていると、なんだかおかしくなって噴き出してしまった。

そんな俺を見て、大吉さんは優しく微笑み、頭をぽんぽんとなでる。


「よかった。元気出たみたいだね」

「えっ?」

「ここに入ってくる時さ、思いつめたように見えたから」

「……はい」


 ここに来た時の事を思い出すと、途端に不安になった。


「そんな顔しなくて大丈夫、心配ない。なんとかなるさ! なんならウチには奥の手もあるからね!」

「奥の手?」

「所長!? まさかアレに頼る気ですか!?」

「うん。なんなら今使っちゃう? どうせ暇してると思うし」

「今度は何させられるかわかったもんじゃないですよ!?」

「まーでも、困った人はほっとけないでしょ?」

「そうですが……」


「あの、俺なら大丈夫です。なんとかしてみます」

「そう? でも本当にダメだってなったら連絡して。名刺に電話番号あるから」

「はい、ありがとうございます」

「あっ、でも名刺渡してもループしちゃうと意味ないか……」

「大丈夫です! 頑張って覚えます!」

「うん。それじゃあ、何回目かの私への合言葉を教えておこうかな」

「合言葉?」


 大吉さんは耳元で、誰にも聞かれないよう合言葉を呟く。


「なんですかそれ?」

「合言葉だよ? 何回目の私であっても、これを聞けば君の言っている事を信じるさ」

「は、はぁ……」


 意味は分からない事だったけれど、たぶん大吉さんと俺だけが知る事であるなら、合言葉はなんだっていいのだろう。

その程度の事なのに、慶治さんは大吉さんにどんな合言葉なのかと問い詰めている。

どうも仲間外れにされたのが不満のようだけれど、なんだかやっぱり二人はただの友達のように見えてきた。


「それじゃ、いい時間だしお昼食べに行こうか。第二ビルにウマいトンテキの店あるんだよ」

「あっ、でも俺手持ちが……」

「いいのいいの。オジさんがオゴっちゃうよ?」

「でも悪いですよ」

「所長がこう言ってんだ、ご馳走になっとけ」

「そうですか? ありがとうございます」

「ついでに俺の分もお願いしますね!」

「いいけど、慶治ははじめっから狙ってたな!?」

「もちろん!」


 そんな仲良しの二人に連れられ地下街を歩きながら、俺は三日連続肉メニューだなぁと考えていた。といっても、ループしてなければ一日なんだけど。

そしてついた店で、皿の上に築かれたトンテキの山を頬張る慶治さんを見て、それだけで胸焼けを起しそうになったのだった。

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