01 プロローグ
6:30 アラーム、チェック
今まで見た全てが夢であったらどれほどよかっただろうか。
アラームを止めた流れで日付を確認すれば、夢ではないと告げられる。
急いで飛び起き、制服に着替える。
引き出し奥に隠した箱をカバンに詰め込み、勢いよく部屋を駆け出した。
バス停まで全力で走ればギリギリ間に合う。それは幾度となく経験済みだ。
6:43 発駅前行きバス、チェック
息を切らせ、発車しようとするバスへと駆け込む。
休む間もなく、運転席後ろへと場所を移す。
到着が数分遅れるが、この位置なら走ればカバーできるのを知っている。
7:05 駅に到着、チェック
着いた瞬間に改札へと走り出す。通るのは右から2番目の自動改札機。
隣の改札機はサラリーマンがエラーを出す、これも何度も見たシーンだ。
停まっている電車に駆け込み、そしてまた先頭車両に移動する。
定位置の座席に座れば、やっと少しだけ落ち着いた。
朝一番の大仕事にひと段落付け、俺はスマホで司にメッセージを送る。
内容は簡潔で、おそらく他の人が見ても意味は分からないだろう。
けれどアイツは察しが良い優秀ニャンコだ。ついでに言えば腹黒ニャンコだ。
だからきっと分かってくれる。
そしてカバンから紙とペンを取り出し、今日やることを書き出す。
箇条書きが伸びてゆくが、全てをミスなく完遂させなければならないのだ。
記入漏れがないか確認していると、紙にぽたりと汗が落ちる。
乗り換えのたびに走っていたから、涼しい車内でもなかなか汗が引かなかった。
カッターシャツの胸元をバタバタとひっぱって扇げば、ひんやりした空気が胸元を撫でる。
周りには会社員や学生が乗っているけれど、まだ少し余裕がある。
彼らにとっては、普通の朝だろう。俺も昨日までは普通の高校生だった。けれど今はもう……。
不意にやってきた不安を振り払うように、俺の視線は車内をぐるぐると巡る。
ふと外を見れば、青く晴れ渡った空が窓枠の外に広がる。
遠くに見える巨人も、まるで日光浴をしているようだ。
六月だというのに、俺はしばらく雨を見ていない。
天気予報では、明日から雨らしい。
俺は長く続く晴れ渡る今日を、ふわりと思い返していた。