終結
「おい、起きろ」
「ぐむ、む、あと5分……」
「チッ!」
「あいたーッ!!ハッ!?こ、ここは?」
「ここは?じゃねえよ。着いた早々気絶しやがって。そっちで何があったのか早く説明しろ」
鈍く広がる頭痛に目を細めながらリオンを見つめる獅子人族の男、コクウは気絶から目覚めたばかりで状況を理解できていなかったがリオンの言葉から徐々に追いついてきて周囲に視線を向けた。
そこには檳榔子黒色の髪をした見知らぬ女性がリノア達を横に寝かし介抱していた。
特に危険は感じなかったのでホッとひと息吐くコクウとは対照的に全然始まらない状況説明に苛立つリオンが器用に指を弾くとゴウッという風の音と共にコクウの叫びが響き渡った。
「それでそっちはどうなったんだ?」
ひっくり返ったコクウに再度問い掛けるリオン。
なんとか復活したコクウが帝城前でのリオンの念話が終わった後の事を話し始めた。
しかしいざ聞いてみると肝心の地下で出会ったラウム、アルマース、アングラハムとの戦闘詳細内容とウピルから聞いたエレオノーラの変貌などの状況確認に関してはコクウは気絶していたので殆ど語る事が出来なかった。
リオンは無言で立ち上がりリノア達が寝ている場所まで移動すると全員にリオン謹製ポーションを振り掛けた。
反応を確認し、一先ず話ができる人が起きるまで暇なリオンは徐に仰向けになりゴロゴロし始めた。
その様子を遠目から見てたウピルが興味深そうに近寄るとお腹に登り出した。
ウピルはリオンの毛皮を堪能するため、うつ伏せで抱きついて来たので首だけ向けリノア達が起きるまで先に話をする事にした。
「お前はこれからどうすんだ?」
「む?どうするとはどういう事じゃご主人様や」
「お前にとって大事なロリ属性を失ったお前はこれからも俺等に付いてくんのか?」
「儂は別に大事だとは思っておらなんだが………カカカ、だがこれはこれは、異な事を言うのぉご主人様や。儂はこれから先もずっとご主人様と一緒じゃ」
「ふーむ、そうか。なら帰ったら鍛えるとするかな」
「なぜそうなるのかのぉ。だがまあ今の儂はなかなかの強さじゃて、楽しみにしておくのじゃよ」
「クハハ、それはいい。おっ?そろそろ起きるか」
雑談に時間を食わせる事数分、最初にリノアが目を覚ました。
それを皮切りに続々と目覚めていき、20分も掛からずに全員が目を覚ました。
目覚めた彼女等は多少現状に混乱していたので律儀にも都度コクウが説明しており、リオンは遠目から仰向けで眺めていた。
疑問内容の大半はウピルの事だったが、それもだいぶ落ち着いた所で改めてリオンがリノアに事の顛末を聞いた。
しかしリノアも何が何だか理解しておらず気付いたらエレオノーラは竜成分増し増しの暴走状態となっていて、アルマースとアングラハムも殺し損ねラウムがどこかに転移させてしまったとのこと。
そのラウムに関しても何かに驚きエレオノーラの攻撃に紛れて去っていき、ウピルの話に繋がった。
話を聞き終えたリオンはリノアを見ながらため息を溢すとぼそっと独り言ちる。
「つかえねぇ……」
「えッ!?酷くないッ!?」
ぎゃーぎゃーと喧しいリノアを一旦放置して今後どうするかを少し考えているとふと疑問に思った事をリノアに聞いてみた。
「そういや村の宝はどうした?」
「ぐぬ!粉々になっちゃった……」
「ハァ……」
失望の眼差しを向けるリオンにリノアは手をブンブン振ると釈明を始める。
「違うの!突然!そう突然粉々になったの!あれは私のせいじゃない!絶対に!あの帝国の筋肉白衣ダルマが悪い!絶対なんかやったよ!」
「まあ壊れたもんはしょうがねえが、一応粉々になった杖は持って帰ってきたんだよな?」
純粋なリオンの問いに錆びたブリキ人形の様にギギギと顔を逸らす。
後頭部に感じる重くのしかかる失望感、しかしそんな彼女の救いは顔を逸らした先に居た。
そこには話を聞いていたであろうコクウが思い出したかの様に懐から取り出した風呂敷を広げ、中から粉々になった宝杖が現れた。
「それでしたら俺が皆を回収する際に一緒に持って帰ってきたぞ。全部あるかは分からないけどな」
「え?わぁ、ナイスよ!コクウさん!」
キラキラと希望に満ちた綺麗な目と美しいサムズアップを見せたリノアが風呂敷を強奪し改めてリオンの前に広げる。
全員でそれを見る。
「魔力も何も感じねえ、ただの木の破片だな。お前等何か感じるか?」
リオンがくるりと見回し全員に問い掛ける。
(ふ菓子っぽくて美味しそう)
(そこら辺に転がってそう)
(私も何も感じないわねぇ)
(我が灰にしてやろうか?ガハハ)
(解析してみんと分からんのぉ。ブロブ、一欠片拾ってくれんかのぉ)
(え?なんで僕がそんな面倒臭いこと……ハァ分かったよ仕方ないなぁ)
「私も特に何も感じません」
「クルスと同じ意見だねぇ」
「みゃーも同じ意見ですにゃリオン様!」
「俺も一緒だ」
ブロブが欠片をズブズブとリオンの腹に押し込む作業とテースタの歓喜の声で溢れた以外は言葉少なに元神眼の宝杖の現状を評価していた。
とりあえず今はテースタに解析を託して解答待ちとした。
リオンとしては既に興味がないガラクタとなったが、後ほどリノアの兄には今回の顛末を手紙に認め送る手筈となっているので、後の事はリノアに全てを丸投げしようと考えていた。
そんなリノアに考えを勘付かれたのかジト目で見られたが、彼女はすぐに別の者に興味が向かっていたのでリオンが無駄に絡まれる事はなかった。
「それで、さっきも説明聞いたけどまだ信じられないからもう一回聞くけどさ、アナタがウピルで合ってるのよね?あの可愛い可愛い私の妹のウピルで合ってる?」
「カカカ、その可愛い可愛いリノア姉上のウピルで間違いないのぉ。あれは呪われた姿じゃったからのぉ、リノア姉上にはそれはもうお世話になったわぃ。感謝しておるよ」
「あ、うん、どういたしまして、んん、え、えぇ………あの常にプルプル震えていた可愛い可愛いウピルちゃんが……後ろからちょこちょこお姉ちゃんお姉ちゃんって可愛く付いてきたあのウピルちゃん……」
「そ、そんなじゃったかのぉ……」
相当ショックだったのか妄想と現実を混同してしゅんと落ち込んだリノアは置いておいてリオンはとりあえず気配感知を行う。
「エレオノーラは一直線にルークスルドルフ王国方面に進んでるっぽいなぁ。そっちになんかあんのか?それにしてもコイツ、妙に気配が薄いな……とりあえず放置でいいか、クハハ」
「いいのかの?ご主人様よ」
落ち込んだリノアをツンツンしていたウピルがリオンの言葉に反応すると、それに気付いたクルス達も耳を傾ける。
「良いも何も俺の知ったこっちゃねえしな。アイツが望んだ事かもしれねえだろ?とりあえず仇は討ち漏らしたんだ、そっちに向かってんのかもしれねえしな」
「ま、まあ、確かに、そうなのかのぉ?」
「それにもう疲れたし楽しめたからな。考えるのも面倒だから今回はここで終いだ。さっさと撤収すんぞ」
エレオノーラの暴走がリオンのせいだとは知らない当人含めた面々は首を縦に振るしかなかったが、その中でもクルスは先程までコソコソ話していて方針を決めていたのか手を挙げた。
リオンの視線が向いたことを確認してから口を開く。
「それでしたら私たちがエレオノーラ嬢の動きを確認しておきますよ。丁度商機が帝国から王国に移りそうなので、つきましてはリオンさんには私たちを王国で降ろしてほしいです。もちろん定期連絡もします」
「俺は飛行機かよ、まあいいけどよ。コクウ、お前はどうすんだ?」
「ヒコウキ、ですか?それについては存じ上げませんがありがとうございます」
「俺は一応コイツらの護衛だからな。俺もクルス達に付いて行くよ」
「分かった。他に何かある奴いるか?」
リオンが話を振ると今度はコクウが手を挙げた。
「リノア殿、渡した俺等の短剣を返してくれないか?」
「は?短剣?」
リオンが首を傾げながら未だしょんぼりしているリノアに視線を向けると視線に気付いたリノアが首を傾げる。
「ん?なに?」
「コクウが短剣返してほしいんだとよ。なんだお前、ついに借りパクするまで落ちぶれたのか?」
「ちょっと!言い方!そんな盗賊みたいな事を私がするわけないでしょ!落ち着いたら返そうと思ってたからね!短剣でしょ?短剣ね、短剣……ん?たん、けん?」
ぱんぱんと服を叩き翼をバサバサするリノアが首を傾げながら何かを考え、すぐ何かを思い出したのかポンと手を叩いた。
「あぁ!あの短剣ね!あれね、なんかエレオノーラの爪と同化しちゃったの!え?ホントだよ!?ねえ信じてよ!ホントなんだから!え?みんなその目は酷くない?」
リオンは相変わらずだが、何故かクルス達からもジト目で見られるリノアが涙目になりながら弁明していて、少し離れただけでリノアの評価もだいぶ落ちたもんだなと遠い目をしたリオンだった。
ただ短剣なんてそこら辺で買えばいいとも思ったので王都で買えと言ったらその短剣は、かつてリオンが作った短剣だと判明した。
これ以上の無駄な時間を過ごすのも色々考えるのも面倒臭くなったリオンは即席としてその場で爪を切り落として渡し、テースタの肋骨を折り、ウピルに紐で固定させ簡易短剣を作成させ無理矢理解決させた。
「さて、帰るか。おら乗れお前等」
「わぁ久しぶりな感じ〜。あれ?リオンなんか変わった?」
「クハハ、今更だなリノア。進化したからな、どうだ?格好良いだろ?」
「リオンはいつもかっこいいよ」
「カカカ、儂はどんな姿のご主人様でも好きじゃがな」
(なんかリノアちゃん、大丈夫そうだね)
(そうだね〜、なんか残念だね〜)
(強くなったのかしらね)
「ん?みんななんの話?」
「クハハ、何でもねえよ。それに案外もう壊れてる可能性もあるからな」
バサっと数回羽ばたくともうギリアム帝国の全貌が見える距離まで上昇し、リオンはここでの楽しい日々に自然と笑みを溢すとルークスルドルフ王国に向かって飛び立った。




