第三ラウンド その一
リオンとレイはこれ以上帝城で戦うと崩壊する危険性があったので場所を移動していた。
ギリアム帝国から北東に数キロ進んだ所は街道からも逸れていて視界いっぱいに平原が広がっていた。
「ここまで来れば大丈夫だろ。さあさあさあ、思う存分殺り合おうか、クハハ!」
「よくあの対魔結界をポンポン壊せるものだね。普通なら通過しようとすると魔物は蒸発するくらいの威力を込めたんだけどね。改めてリオンは規格外、伝承通りの[厄災]って事なのかな。まあでも、ここなら僕も気兼ねなくやらせてもらうよ、アハハ!」
昂った感情を爆発させ両者同時にぶつかる。
対魔結界を越えた事によるダメージで黒煙を上げるリオンは特に意に介さず右前脚を振ると凄まじい速度でレイの頭上から押し潰す勢いで迫る。
レイはニヤリと笑いながら左手の剣で迎え打つ。
金属同士が接触した様な音が響き、レイの足元が沈む。
その隙にルプは真空の刃を、ロンはレールガンの如き熱線を撃ち込む。
爆発音と同時にリオンがピクリと右前脚に接触していたレイの感触が無くなったのを感知し、周囲を索敵。
気配を感知した場所に闇針を複数本射出する。
ギャンギャンと打ち払う音と同時に飛ぶ斬撃がリオンに迫るが目前で光の障壁にぶつかり無効化される。
お互い砂埃が舞う中でレイが不思議そうに話しかけてくる。
「おかしいなぁ。なんで僕の剣、リオンに効かなくなったの?」
「バカか、タネが分かればそこをカバーすりゃ問題ねえだろうが」
「ん?アハハ、簡単に言うものだね。まあ結果論で言えばそうなんだけど、そのタネが間違ってたらその立派な前脚切り落とされちゃうよね。まあ、リオンは普通じゃないから気にしても仕方ないけどさ、それをすぐやられちゃうと僕としても困っちゃうね。そもそもこの剣、あっ、そう言えばこの子たちの名前をまだ紹介してなかったね」
「聞いてねえし興味ねえよ」
「まあまあそう言わないでよ。自慢の子たちはちゃんと紹介したい質でね。さて、僕が左手に持ってるこの子はフラガラッハといってね。とてもシンプルな造りだけど、それがまた良いんだよね。そして右手のこの子はカラドボルグ、柄は光をモチーフにした模様をあしらったとても素敵なデザインなのさ」
嬉々として剣の見た目の特徴と名前を語るレイに特に関心が湧かないリオンだったが内容で気になる文言が出てきたので口を開く。
「この世界の神はガイアだけじゃなかったのか?ルグってのは何の神なんだ?」
「ん?おやおや?リオンも遂に信仰心を持つレベルになったのかな?嗚呼!!僕は嬉しいよ!ほら、この子たちも喜んでるよ」
「………それで?」
対応が面倒臭くなったリオンはツッコミも訂正もする事なく先を促した。
反応がないリオンを特に気にした様子もなく再び嬉々として話し始めた。
「神は創世神であるガイア様以外にもたくさん存在してるよ。例えば武の神や知の神、各属性を司る神などだね。その中でも僕はルグ神を信仰しているよ。ルグ神の概念は[光]を司っている神様だよ」
「光……光か。お前への嫌悪感の正体が分かった気がする。まさに俺とは正反対の存在って事だな」
「リオンは見た目も使う魔法も光とは正反対だよね。それなのに光魔法も使えるとなると、君は本当に不思議な存在だね。キマイラという種族はみんなそうなのかな?」
「俺以外のキマイラに会った事はねえから知らねえよ。それでその剣の能力はなんだ?」
「ん?フフフ、秘密さ」
「死ね」
案の定話には騙されなかったレイにリオンが右前脚を打ちおろしチョッピングライトをかます。
レイはカラドボルグで受け流しつつ、流れた力と同じ方向に飛び威力を殺す。
リオンはそのまま左前脚を挟み込む様に叩き付け、蚊を潰す様に前脚同士を合わせた。
強引にバックステップで回避したレイにオピスがシャーと鳴いてロックランスを10門射出し、ルプは真空の刃を後方から四方八方に撃ち出し、ロンは熱線を撃ち込む。
リオンはレイの周囲を範囲指定し重力魔法を掛ける。
レイは地面にカラドボルグを刺し、フラガラッハに魔力を込め真空の刃を斬り飛ばした。
ロックランスと熱線が着弾する前に光の障壁を何重も張りながら離脱した。
轟音が鳴る中、居場所を見つけたリオンは再び右前脚を叩き付けた。
カンっと軽い音と同時にリオンが後退し、闇槍を10門射出した。
最低限の動きで闇槍を斬り飛ばしていくレイを余所にリオンは自分の右前脚を見ると自慢のピカピカに磨いた爪が2本、半分ほどなくなっていた。
再生が上手くいかないのか全く回復する事がないので予想はほぼ正解とみて、楽しくなってきた。
(ほぼ当たってると思うから思考まとめをすんぞ。あの右手に持ってるフラガラッハとかいう剣は俺の治癒妨害をする機能があるな。左の剣、カラドボルグは魔法の妨害か阻害、または減衰ってところか)
(あのぴかぴかの剣まぶしいから嫌ーい)
(わたしも〜。なんかあの光ぴりぴりするー!)
(あのフラガラッハって剣は込める魔力量で抵抗できるから然程脅威ではない気がするけれど、なんか嫌な感じが抜けないわね)
(まあ問題ねえだろ)
(そうやってアナタはすぐ油断するんだから。そんな事言ってるとまたバカみたいにやられちゃうわよ)
((そうだそうだー!))
(うるせえ!むしろ今までこんな長く楽しめる奴なんていなかっただろうがよ。アイツがあとどれくらいカード持ってるかは分からねえが、今最高に楽しいな!クハハハハ)
(もう、ホント仕方ない人ね。でも楽しい事は良い事よね)
(楽しいね、嬉しいね)
(嬉しい嬉しい、楽しい楽しい)
「何か楽しい事があったのかな?」
脳内会議もとい雑談していると表情に出ていたのか所々服が破け、多数の擦過傷を負ったレイが話しかけてきた。
リオンは追撃する事なくレイを見据えながら口角を左右に引くと心底楽しそうに笑う。
「クハハハハハハ!あぁ、楽しい、楽しいぞ!とてもな。テメェは嫌いだがなかなかどうしてこの戦いは最高だ!氷女もエルフ姉弟も楽しかったがこんな長く楽しませてくれるとはな!やっぱ俺の嗅覚は正しかった!」
今度はリオンが嬉々として話しているとレイは一瞬キョトンとしたもののすぐに笑みをこぼし共に笑い合った。
「リオンにそう言ってもらえるとはね。まあでもこれは君の歓迎会だからね。楽しんでもらわないと主催者としては、ね」
「ならまだまだ楽しませてくれんだろ?まだ足りねえ!もっと、もっと、俺を楽しませろ!!」
リオンの圧が上がり予備動作無しに闇針を無数にレイの近くに出した。
ギョッとしたレイは光の障壁と張るが闇針が刺さった箇所から小規模な爆発が起きた。
欠けた障壁が霧散して光の粒になるとその間から闇針がレイの足を貫通する。
追加で重力魔法で動きを阻害させ、ロックランスに風魔法を組み合わせ螺旋の力を加え10門射出したオピス、ルプの合体技にリオンが関心を寄せた。
最後にロンがレイの真上に太陽の如き煌々と輝く紅炎を生み出し、そのまま落とした。
時間差でレイに押し寄せた大質量の魔法は凄まじい衝撃波と土煙を生み出しリオンの視界を遮る。
暫くすると土色の視界の先にロックランスに纏わせたルプの風魔法とロンの魔法が小規模な火災旋風を発生させ周辺を焼き尽くした。
(気配感知に引っ掛からねえな、死んだか?)
(リオンくん、そのセリフはフラグというのだよ)
(オピスのそのキャラなに?)
(わかんなーい。適当?)
(んだそりゃ。まあ確かにフラグにはなったかもしれねえが、死んでねえならまだ楽しめるって事だろ?なら最高じゃねえかよ)
(でもでも〜、わたしお腹空いちゃったよ〜)
(あとでなんか作ってやるよ)
(わーい、やった〜。今日はリオンがすなおだ〜)
(えー、ずるい!わたしも!)
(はいはい。ん?光?)
火災旋風も徐々に収まっていた所、突如ジュッと焼けた音と光の暴力が視界を染め上げた。
シューと焼け続ける音をバックボーンで聞きながら憎たらしい声が聞こえた。
「やっぱりリオンは強いね。僕がこの姿を見せるのは君で3人目だよ。誇ってもいい、君は強い」
自分の事の様に楽しそうに、誇らしげに語り、歌っているのかと錯覚しそうになる程に響く声。
心の中ではリオンが(見えねえよ)とツッコむがそれが相手に伝わる事はない。
そんなレイの声もすぐに陰り、悲しげなモノに変化する。
「でも僕よりも弱い。なぜなら君が闇で、僕が光だからさ。闇は光には勝てない。そう、決まっているからね」
ひとりでオーケストラをやっているかの様に多重に声が響き、喜哀楽が音としてリオンの耳朶に響く。
不快に感じながら未だに焼かれ続ける事への対処とレイの姿の確認を続ける。
(障壁を貫通してんなこれ。ツーツーだ。光に光だからか?いやそれは関係ねえな、なんだこれ。それとアイツの場所と気配を見てるか。ん?輪郭が、んん?あれは……球体?)
リオンを焼く現象に対してもレイは把握しているかの様に笑いながらネタバラシを始める。
「この光は攻撃でもなんでもないんだよ。ただ僕がこの場に存在するだけで闇に偏った存在を浄化する神の光さ!!つまりこれを光の障壁で防ぐ事はできないんだよ。攻撃ですらないんだからね」
「クハハ、ご親切にどうも」
「無駄だよ」
リオンは各属性の魔法を槍の形状に変化させ各10門一斉射出したが闇はもちろん、他の属性魔法も全てレイに着弾する前に消し飛んだ。
不可解に思ったので色々と条件を変えながら自分を固定砲台にして撃ち続けた。
しかし結果はどれも同じになり、リオンは首を傾げた。
だがその中でもリオンの現在の特性が効いて耐性ができてきたのか徐々にではあるが焼かれる速度が遅くなり再生速度の方が上回ってきた。
それだけで固定砲台になったかいがあったなと感じているとレイも異変に気付いたのか一手仕掛けてきた。
「やはり君は面白いねリオン。時間経過でそのうち克服するのかな?生物の成長速度じゃないよね、アハハ。ならこれはどうかな」
レイの左手がブレた瞬間リオンは魔力を込めるがドサっと左前脚が落とされた。
チラリと見ると切断面は再生が行われる事は無く、落ちた脚を強引にくっ付けるかと見てみると、落ちていた筈の左前脚が無くなっていた。
レイを見ると何かを言いたそうな顔をしていて、背後からバキバキと何かを噛み砕く音が聴こえてきた。
真顔になったリオンは無言で左前脚に氷魔法で簡易義足を装着した。




