宣戦布告
最近リオンの様子がおかしい。
いやいつもおかしいんだけど、いやいやリオンだけじゃなくて色々おかしかった。
数ヶ月前、リオンが帝国から私ことイヴの元に帰ってきて先ず驚いたのはウピルちゃんが美女に進化してた!
檳榔子黒色の綺麗な髪と紅瞳とピンっと尖った耳、腰から生える少し成長した翼、うん、本人だ。
一度理由を聞いてみたけどよくわかんなかった。
『帝国の近衛騎士に剣で刺されたらこうなったのじゃ』
うん、どういうこと?ってなったから一旦気にしない事にした。
あとはリノアさんはなんか元気無かったからリオンに事情を聞いてみたら、『わかんねぇ』って言われた。
そのままっていうのは心配だったからウピルちゃん?さん?に聞いてみたら、『エレオノーラが大罪スキルを暴走させて王国方面に逃げた』と言われた。
間違いなくソレが原因なのになんでリオンは分かんないんだろうと思いながらも結局今はリノアさんに何も言葉を掛けられなかった。
そんな自分が不甲斐なくて泣いた。
次の事件はリオンがマリーの家から出ていくというものだった。
反対したかったけど理由を聞いたら納得しちゃった。
確かに、狭いもんね。
それはマリーも予想してたのか、既に複数物件を用意しているって、さすがだね。
次の日私が学院に行ってる間に既にリオンは購入していたらしく夕方に向かったら至る所が改造されていて感動しちゃった。
もちろん私もすぐに引っ越ししましたよ。
マリーにもいつでも遊びに来ていいと言っておきました。
そうだそうだ。
話が逸れちゃった。
リオンが最近様子がおかしい。
一緒に学院に通う様になったのは嬉しいけど、問題はその後の日課のギルド依頼と鍛錬でのリオン。
とりあえずいつも通り最速で依頼を済ますのは変わらない。
その後の鍛錬で全員をボロボロにして気絶させるのもいつも通り。
問題はその後!私は最近根性で気絶から復活して覗き見してて、なんか剣術の鍛錬してるんだけど動きが変。
でもあの動きは見覚えがある、そうあれは……学院の騎士科にいる騎士の卵みたいな人達の未熟な剣術だ。
リオンを知っている私から見ても、今鍛錬しているリオンはめちゃめちゃ弱そう。
私でも勝てそうなくらい隙だらけの剣術の型の反復練習をしている。
ここ数日観察しているが不思議な程全く成長しない型を雑に振り回してる。
「おいイヴ、毎日寝たふりしてちゃ暇だろ?起きてこい」
「あ、あれ?バレてた?」
「当たり前だろ。よくそれでバレねえと思ったな」
さすが私のリオン。さすリオ。
「それでなんでそんな弱そうに剣を振り回してるの?」
「ん?そりゃそれをやる理由があるからだろうがよ」
「むぅぅぅぅ、だからその理由を知りたいんだってば!」
「そのうち分かる!オラッ!」
「危ないなぁ!でもそんな弱い剣、私には通じないよ!あっ!もしかして今なら私、リオンに勝てる!?」
「クハハ、やってみろ!」
これはチャンスです!このチャンスを無駄にしないために考えろ!私の頭〜!ハッ!そうだ!良いこと思いついた!!
「じゃあじゃあ私が勝ったら何でも願いを叶えて!」
「は?俺はランプの魔人かよ」
「ん?ランプの魔人ってなに?」
「何でもねえ。まあ俺に叶えられる願いならいいぞ、ただし1個な」
「やった!」
わーい!今のリオンになら絶対負けないんだから!
何叶えてもらおうかなぁ、ふふふ
……おかしい。
全然剣が当たらないんだけど!?
なんで!?
リオンの剣は相変わらず遅くて真っ直ぐで簡単に避けられるくらいなのに!
動きも騎士見習みたいな未熟で愚直だから捕捉し易いから私の剣は簡単に当たる筈なのにぃ!
リオンが何かしてるんだろうけど……魔力も動いてないし。
むぅぅぅ。
全然わかんない!
私の魔法もなぜか当たらない。
面で撃っても光の障壁張らずに全部避けられる。
むぅぅぅ。
「バカが!考え過ぎだ」
「ひゃん」
パカーンって音した!
いたたたたた。
身体強化も障壁も張ってるのに貫通してるんじゃないかってくらい痛い!
むしろ外側より内側に響いてる感じがするよ〜。
いたいよ〜。
あ、痛みが引いた〜。
さすがリオンのポーション。さすリオ。
まあそんな感じでここ最近はこんな感じのリオンに付き合ってあげてるんだよね。
ちなみに未だに一撃も入れられてないけどね、なぞ〜。
全く勝てる気しないね、うん。
今日も頑張ったから帰ろ〜。
「リオン、おんぶ」
「チッ!もう乗ってんじゃねぇか。帰るか、コイツらは俺が運ぶかぁ」
「相変わらずその重力魔法ってよく分からないよね、便利だけどね」
「魔法なんてテキトーでいいんだよ」
「なにそれ、ふふ」
そういえばリオンが買った家で変化した事がもう何個かあってそれがこれだ。
モフモフ最高〜。
リオンは家に着くなり擬態と幻術を解くとリビングでグデーンとなって私は速攻モフモフに飛び込む。
幸せ〜。
「リオンよ、自分の家だからといってその様に自堕落に過ごすのはどうかと思うぞ?」
「気絶したオメェ等を持ってきてやった功労者に対して失礼な物言いだな」
「そうですよゴリラさん!私のリオンに謝って!早く謝って!」
「ぬ?いやしかしな……」
「リヴァイスさん、今の2人に何を言っても無駄だよ。じゃあ私、お風呂入ってくるね。ほらエリーゼ、フェルト行くよ〜」
「えぇ〜しーんーどーいー。リノアひとりで行っていいよ〜」
「そのままだとクサイよエリーゼ」
「えっ!?うそッ!?」
「ほら早く行くよ」
「あッ!フェルト待ってよ〜」
「アイツ等は静かに行動もできねえのかよ」
「カカカ、儂も行ってくるかの。ご主人様や、夕餉の支度は任せたのじゃ」
みなさんお気付きの通り、チーム黒獅子全員引っ越してきましたとさ。
なぜこうなったのかは今日と一緒で鍛錬で気絶した全員をリオンが持ち帰り、起きるまでリビングでグデーンとしながら待ってただけ。
さすがに全員驚いて、いやなぜかエリーゼはあまり驚いてなかったけど、なんかすぐ全員納得してたね。
後から聞いた話によると理由のひとつとして私がリオンの本来の姿の土人形を持ってたからだった。
まあそういう事もあるよねって事で問題解決。
さてさて、暫く待てば最後にもう1人帰ってくるよ。
ガチャリと扉が開く。
「ハァ!疲れたー!」
「お仕事、お疲れマリー。もうすぐご飯できるからね」
「ありがとう、イヴ〜。リオンさんもありがとう〜」
そう!たまになら来ていいと言ったマリーはほぼ毎日来ている。
なんなら自分の部屋もちゃっかり確保している。
冒険者ギルドに報告しなくても大丈夫なのかと聞くと問題無いと答えるが本当の所は私は分からない。
けど、本人が大丈夫だと言うなら信じよう。
というか関わるのがめんどうだからスルー。
そんなこんなで気付いたら大家族の暮らしになってた。
私としては賑やかで楽しいから大歓迎!
ずっとこんな幸せが続けばいいな。
夜も深まり邸宅から人の動きが最小限になったのを確認するとムクリとその巨体を持ち上げる。
「全員寝たか」
(そうね)
((ぐっすり〜))
(それでどうなんだ?)
「順調だ。だが今回お前に主役級の出番はねぇぞ、ロン」
(グルル、我に主導権を渡せリオン!生温いテメェがやるよりキマるからよ)
「バカかテメェ。今回のコンセプトはそんなんじゃねえよ」
(所属はもう決まったのかしら?)
「ん?それはまだだが、最前に回されるのは確定だな。クハハハ!楽しみだ」
(それで〜?イヴちゃん達は連れていくの〜?)
(いらなくな〜い?邪魔じゃな〜い?)
「今回も留守番でいいだろ。どうせ連れてってもクソの役にも立たねえよ、特にイヴはな」
(でしょうね)
(我がイヴをもっと鍛えてやるよ)
「好きにしろ、早くテメェ等も雑魚になってもらわねえとな、クハハ!」
リオンはその巨体を闇夜に溶け込ませると、一瞬で周囲の景色が普段鍛錬している森に移動した。
その時には既にリオンは擬態と幻術を使用して人の姿をしており全員に指示を出す。
「そろそろ声を上げるだろうから、急いで真似ろよな」
「それはいいんだけれど、エリーゼが動いたわよ?本当に良かったの?」
唐突なツバサの言葉にリオンは面白そうに口角を上げ、肯定した。
「クハハ、やっとか。ビビってたのか知らねえが動きが遅えな。まああのババアも勘付いてるだろうからな、特に問題ねえよ。それを知ってなお殺ろうとすんなら、それはそれで面白えよな」
「「キャハハ、おもしろーい!」」
「アナタがそれでいいならいいわ」
夜が明ける直前まで綿密なチェックを行い、帰宅。
これがここ最近のリオンのルーティンであったが、そんな夜の鍛錬が明けた日、いつもの爽やかな朝には不似合いな音と共に魔導通信が冒険者ギルドや魔法学院など国の重要機関に伝達された。
魔力線を盗聴していたリオンも、同時刻に内容を知る事となり口角を限界まで引き上げる程の喜びで報告を歓迎した。
『ルークスルドルフ王国がギリアム帝国に宣戦布告』