マイハウス購入
「金が無い!!」
両手を組み、顎を支えながら放ったリオンのセリフに同席しているツバサ、オピス、ルプ、ロン、ブロブが様々な想いが込められた視線を送る。
こんな状況になったのは、昨日リオンがマリー宅を出るという話から冒険者ギルドの福祉サービスとも呼べる、その地域の空家を紹介してもらえるサービスを利用する所まで遡る。
優秀なマリーが事前に察して物件を数件ピックアップしているという事だったのでリオンは早速翌日から紹介してもらえる事になった。
そしていざ物件情報を見てみると、全て戸建で以前の所有者が豪商だったりピンキリ貴族のものだったりとリオンもニッコリの楽々横になれる広さだった。
紙ベースの情報で納得したリオンだが実際の物件も見たくなったのでその旨をマリーに伝える。
朗らかに笑いながら了承した彼女は他の雑務を片付けるというので案内は午後からになった。
暇を持て余したリオンは隣接する酒場に移動して空いている席に案内され着席する。
「ねえねえお姉ちゃん、メニューのここからここまでちょーだい」
「はーい、オピスちゃん。すこーし待っててね。これお姉ちゃんからのサービスドリンクだよ」
「ありがとう〜。わぁ、おいしい〜」
「やーん、可愛い!」
当たり前の様にオピスが居て、なんか色々サービスされているが、無視。
そこで唐突に残金を確認したリオンが放った言葉が冒頭のセリフだ。
「ん?リオンなんか言った〜?」
「あぁ、金がねぇ」
「そっかぁ、ご飯まだかなぁ」
「ふっ、絶壁幼女よ。良い事を教えてやろう。金がねえと飯は食えねえんだよ」
「な、なんだって〜!じゃあじゃあ、リオン早く稼いできて!早く!」
「………依頼でも見てくるか」
ぷりぷり怒るオピスに一瞬白い目を向けるがすぐ椅子から立ち上がるとリオンが小声で呟き、掲示板の方へ歩いて行ってしまった。
一緒に行ったのはルプだけだ。
「今日のリオンは素直ね」
「わたしのためだもん。とうぜんだよね!」
「お前のためじゃねえと思うがな」
「ロンは黙ってて!一緒に遊んであげないんだから」
「いや一度も頼んだ事ねえだろうがよ」
「面倒臭い依頼は嫌だなぁ」
「アナタはいつも参加しないでしょう」
「ま、そだね」
暫く待っていると続々料理が運ばれてきたのでオピス達は食事を始めた。
半分程平らげるとリオンとルプが戻ってきた。
リオンがテーブルの空いたスペースに2枚の依頼書を置いた。
オピス以外は食事の手を止めて依頼書を見る。
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【依頼内容:クリムゾンベア変異種討伐】
【討伐報奨:金貨30枚】
【討伐証明部位:頭】
【生息域:リンドブルムより北へ50km。嘆きの森】
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【依頼内容:タイラントグリズリー討伐】
【討伐報奨:金貨2枚/体】
【討伐証明部位:頭】
【生息域:リンドブルムより北へ50km。嘆きの森】
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「行くぞ」
「熊か。久しぶりに美味そうな食い物だな、グハハ」
「うわ〜、僕はパス」
「わーい、楽しみ〜!ピクニックだ!」
「待って!まだわたし食べてるとちゅー」
「道中食べなさい」
バタバタと全員が慌ただしく動き早々とギルドを後にする。
外に出て歩き出すとそこには既にリオンしかいない。
北門から出て少し歩くと街の目がなくなったので森に入って速攻モードチェンジ。
「午後にはマリーの案内があるから速攻刈り取るぞ!」
(グハハ!RTAだな!)
「ロン、テメェ焼き過ぎて討伐部位消炭にしたら頭もぐぞ!」
(うるせえ!我がそんなヘマするかよ)
(ところでお金はあとどれくらい必要なのかしら?)
「まあざっくり50枚くらいだな」
(そう。それなら依頼書以外の魔物も狩り尽くしましょうか)
「まあ生態系壊さねえくらいにな」
(わかってるわよ。アナタはホント動物が好きね)
「人間よりはな」
雑談を交えながら障害物を薙ぎ倒しながら森を突っ切り、目に付いた魔物を狩りながら目的地を目指す。
走り続けること15分、周囲の魔素濃度が濃くなり始めたことを感知して索敵を開始。
みょんみょんと魔力波を全方位に飛ばすとある程度大きい反応が点々と浮かぶ。
結構な多さにリオンがニヤリと笑うと近場から次々と襲撃し始めた。
戦闘というより最早作業と化した魔物狩りは1時間も掛からずに終了した。
「少し休憩したら帰るか。時間は、まだ全然あるな」
(リオン、これ食べていい?)
「ん?んー、少し食うか」
オピスに催促されたソレをリオンが見る。
見下ろす形で視線を下げると全長4m程の真紅の熊が頭から真っ二つになっていた。
普段なら相手に技を出し尽くさせ殺すリオンが今回は全ての魔物がチャリンチャリンと金貨にしか見えていなかったので出会い頭1秒で終わってしまった。
今、冷静に見下ろしたリオンは若干の後悔を感じながらもとりあえず食べる事にした。
「オピス、ワムちゃん出して」
(いいよ〜。ほらワムちゃん出てきて〜)
「ぴしゃー」
最初こそ微妙な反応をしていたリオンも数回餌やりに参加したらワムちゃんが愛らしく見えてきて、ここ最近のワムちゃんの餌やり担当になっていた。
「ほらワムちゃん、熊肉だよ」
「ぴゃぴゃ、ぴしゃー」
「ん、美味しいか。よしよし」
((うわー))
オピスとルプに引かれるのも毎回なので無視をしてワムちゃんに餌をやり、その後オピス達の熊肉をステーキに仕上げポイっと渡した。
みんなが食事している間ワムちゃんと戯れていたリオンは全員の完食を見届け、遊びも満足したのか帰宅する事にした。
サクッとリンドブルムまで帰還したリオンは冒険者ギルドで討伐した魔物を全て解放した。
担当はもちろんマリー。彼女に魔物を全て投げようとすると、量が多過いのを察知した彼女に怒られたので裏の解体倉庫で改めて出した。
【クリムゾンベア×1】
【タイラントグリズリー×10】
【フォレストディアー×6】
【ベノムボア×4】
【ベノムタランチュラ×大小40】
【猩猩×8】
【レッドクロウ×3】
【フォレストクロウ×8】
【スピアビートル×2】
全て放出しやり切った顔でリオンが解体倉庫を後にする。
背後から悲痛な叫び声が聞こえるが無視。
そのまま時間を潰し午後になり約束の時間より1時間遅れてマリーがやってきた。
「遅刻だぞ?」
「……誰のせいだと思ってるんですか?」
「クハハ、だよな。許せ」
「もう!でも依頼をこなしてくれたのは感謝してますので許しましょう」
「まあ俺も金が無かったから小遣い稼ぎができて良かった」
「そんな気軽に行ける依頼しゃないんですけど、まあリオンさんだから考えても無駄ですね。それでは早速案内しますね」
「おう、頼んだ」
事前資料から今回内覧する物件は厳選して3件にした。
金額的には金貨30枚、50枚、100枚だ。
全て賃貸ではなく建売住宅だ。
前2つは元貴族邸で間取り等殆ど同じで部屋数の違いくらいだった。
最後のひとつは元豪商邸を冒険者クラン用に改造された物件で防犯用の魔道具など全て付いた値段なので一番高額となっていた。
全ての物件を回ったリオンは金貨50枚の邸宅を即決した。
選んだ理由は中心地から少し離れていたからだ。
「金はさっきの討伐報奨分から差っ引いてくれ」
「分かりました。それでいつ頃引越しされます?」
「今日からでいいだろ」
「さすがに掃除しないと埃っぽいですよ?」
確かに、とリオンは考えるとポンッと手を打った。
「リノア達にやらせよう!」
「怒られますよ?」
「気にしねえよ」
「ふふ、そうでしたね」
夕暮れの道を歩く2人が笑いながら冒険者ギルドへと歩いて行った。
帰宅後に厄介ごとに巻き込まれるリノアは森で日々の日課を頑張っており、色々と限界になり帰宅後は膝から崩れ落ち気絶する様に就寝した。