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幽とジェラス&透とラース

「…さて」


部屋に戻った俺は、手首のリストバンドを見つめながら腰を下ろした。


「君が俺のパートナー…ってことで良いのかな?」

『ええ、そうよ』

「神様はパートナーにはそれぞれ名前があるって言っていたけれど、君の名前は?」

『ジェラス・サーペントよ。ジェラスで良いわ』

「わかった。じゃあ、ジェラス。改めて聞くけど、パートナーっていうのは一体何かな?」

『七つの大罪の化身のようなものよ。貴方達に足りない欲望や感情を強く持つ生物…といったところかしら。私はとても嫉妬深いから、気をつけることね』

「はは、そうか。じゃあ気をつけることにするよ」


俺は笑ってジェラスの言葉を聞き入れたが、ジェラスは俺の反応が不満だったらしい。不機嫌そうな声が頭に響く。


『ずいぶん余裕ね。私、本当に嫉妬深いのよ?気に入らないことがあればすぐ貴方の手首を締め上げるつもりよ』

「んー、でも今まで付き合ってきた彼女にも結構嫉妬深い子いたからなぁって痛い痛い」

『言ったでしょ、私は嫉妬深いって』

「今のでも嫉妬するのかぁ。たしかにジェラスは嫉妬しいだな」


ジェラスが力を緩めてくれたので、俺は一度リストバンドを外して手首をさすった。


『…ずっと気になっていたけれど、貴方ずいぶん余裕ね。悩みなんてないように見えるわ』

「そりゃもちろん。俺は完璧だからね。悩みなんて持ったことがないよ。強いて言えば、悩みがないことが悩み?」

『貴方はただのナルシストなのね。よくわかったわ。その様子じゃ、普通の人間になりたいなんて考えてもなさそうね』

「俺は今のままで満足してるからね」


胸を張って言い切れば、ジェラスはまた不機嫌そうにそう、と返した。


「ジェラス?」

『なんでもないわ。それより、そろそろ私をまた着けなさい。あまり貴方から離れるわけにはいかないの』

「会社にいる時とかも着けなきゃいけないのか?」

『ええ、そうよ。大丈夫、他の人には見えないから』

「それなら良かった。アクセサリーを着けて会社に行くわけにはいないしなぁ」


こうして俺とジェラスが初めて会った日の夜は更けていった。




わたくしが部屋に入ると、手に持っていた御守りから声が聞こえてきました。


『おい、俺の声聞こえてるか?』

「あら…どこから聞こえてるのでしょう?まさかこの御守りから?」

『そうに決まってんだろうが!わざとかテメエ!』


頭の中に大きな声が響きます。


「あなたはずいぶんと声が大きいんですのね」

『怒ってんだよ、地でこんな声でけぇわけじゃねえよ!』

「そうでしたの?それは申し訳ありませんわ。わたくし、あなたを怒らせるようなことをしてしまったのでしょう?」

『まあ…そうだけどよ。でもお前、謝るの早すぎるだろ。俺が理不尽な理由で怒っててもそうするのか?』

「わたくしには怒りというものが理解できませんの。でも、良くない状態というのはわかりますわ。でしたら、すぐに治められるよう協力するのが当然ではなくて?」


わたくしの言葉に、声の主は黙ってしまわれました。わたくしはまた良くないことを言ってしまったのかと不安になっていると、また怒号が頭の中に響きます。


『お前なぁ、そんなことしたら相手をつけあがらせるだけだろうが!』

「そうでしょうか?少なくとも今まで出会ってきた方は、謝ればすぐに頭を冷やしてくださいましたわよ?」

『そういうやつらもいるにはいるが、大体はつけあがるんだよ!ああこいつは怒っておけば思うように動くんだってな!』

「まあ…そんな方もいらっしゃいますのね。以後気をつけますわ」

『ああ、そうしろ!』


どうやら声の主は、怒りっぽいですがわたくしをとても気遣ってくださっているようです。きっと恐い人だと勘違いされやすいけれど、優しい方に違いありませんわ。


「あなたがわたくしのパートナーなんですの?何とお呼びしたら良いのかしら?」

『名はラース・ユニコーンだが、ラースで良い』

「わかりましたわ。よろしくお願いしますね、ラースちゃん」

『…ちょっと待て。なんだ、ちゃんって。俺は男だぞ?』

「でもわたくしの周りの人はみんな受け入れてくれましたわよ?幽ちゃんだって夏樹ちゃんだって翼ちゃんだってそうですわ」

『あいつらお前に甘すぎるだろ…。いいか、俺のことはラースで良い。ちゃん付けとかいらないからな』

「…わかりましたわ、ラース」


ちゃんって付けた方が可愛らしいのに…とわたくしがあからさまに落ち込めば、ラースはあぁくそ!とやけになったように言い放ちました。


『わかった、ラースちゃんで良い!』

「あら、本当ですの?ありがとうございますわ」

『くそっ、俺も大概甘いな…』


ラースちゃんはぶつぶつと何かしゃべっていますが、何を言っているかまでは聞き取れませんでした。


「やっぱりラースちゃんは優しい子なんですのね」

『うるせぇ』


照れ隠しで悪態をついているのがあまりにもバレバレで。わたくしがくすくす笑っていれば、笑うな!という怒号が飛んできました。


(…それにしても。怒りという感情を強く持っていても、優しさは伝わるものなんですのね)


わたくしは少し意外に思ってしまいました。


(たとえ怒っていても、言葉を選べば本質が伝わるんですのね。…わたくしはそんなことも知らないで、今まで生きてきましたわ)


わたくしにはそもそも怒りの感情がないうえに、周りの人もそんなに怒ったりしない人に囲まれて生きてきました。


(ラースちゃんと一緒にいれば、怒りという感情の新たな一面が発見できそうですわ)


『おい、なにまだ笑ってんだ』

「ふふ。これはラースちゃんを笑ってるわけではありませんから、怒らないでくださいまし」

『その言葉、信じたからな。で、透はどうするんだ?』

「どうする、と言いますと?」

『普通の人間になりたいのかって聞いてんだよ。神も言ってただろ?』

「ああ、そういえばそうでしたわね。うーん、保留ってできるかしら?」

『できなくはねぇが…お前は普通の人間になりたいと思わねぇのか?』

「興味がないわけではありませんけど、わたくしは今のままで満足してますもの。ですから、ラースちゃんと一緒にいてどうするか決めることにしますわ」

『げぇ、俺の責任重大じゃねぇか。ま、しゃーねぇ。お前を普通の人間にしてやるから、覚悟してろよ?』

「あらあら、ずいぶん自信がありますのね。ふふ、ラースちゃんの頑張りに期待してますわ」


わたくしとラースちゃんは笑い合いました。こうしてわたくしは、ラースちゃんから"憤怒"を学ぶことにしたのです。

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