第92話 スラゾウジャベリン
前回のポイント・奇妙な鳥に襲われた!
予想外の敵の、予想外の攻撃――
「邪魔だ!」
まとわりつく蜂を振り払うように、俺はスラゾウメイスをぶん回す。
だが――
「当たらないぞ!」
元から、メイスの攻撃は鈍い。
さらに、相手は回避に長けている。
これじゃあ、いつまでたっても当たらない。
「ご主人、適当に攻撃しても当たりませんよ!」
「それなら、どうすればいい?」
「武器を変えてください! それなら、当たります!」
「それはそうなんだけど、邪魔過ぎる!」
奇妙な鳥の攻撃は、執拗。
そのため、スラゾウに〈変化〉する機会を与えられない。
そのまま――
消耗戦に持ち込まれる。
その間も、クーデリアは追い詰められている。
「くっ、このままだと、私は――」
クーデリアは、防戦さえままならなくなっている。
それは――
前後から、魔物に襲われているため。
挟み撃ちになっているんだ!
「ここは!」
俺は焦る気持ちを抑えると、後ろに退く。
「――――?」
一度、退くとは思わなかったらしい。
隙を突かれたように、奇妙な鳥の攻撃は止まる。
「スラゾウ、爪に変化してくれ!」
「爪ですね、了解!」
俺はスラゾウクローを手にはめると、再び前進する。
その際、戦闘スタイルは、ボクシングを真似る。
「今度こそ!」
俺は、右の拳を突き出す。
奇妙な鳥は、右の足を突き出す。
拳と足がぶつかり合う。
弾かれたのは――
「俺……?」
俺は、体勢を崩す。
そこに、奇妙な鳥の追撃が加わる。
「ご主人、右上!」
「了解!」
俺は右上に対して、右の拳を突き出す。
再度の衝撃。
弾かれたのは、俺。
「どうして、打ち負ける!」
「ご主人は、そのまま殴ってるだけでしょ?」
「敵は?」
「落下の勢いを加えて、殴ってるんですよ!」
「その場合?」
「勝ち目はないですね!」
スラゾウの指摘した通り――
落下の勢いを加えた奇妙な鳥の一撃は、俺の一撃を難なく弾き飛ばす。
再度、体勢を崩した俺は、甲板に転がる。
そこに、奇妙な鳥の止めが加わる。
「ご主人、真上!」
「了解!」
俺は真上に対して、左の拳を突き出す。
そう、右の拳じゃなく、左の拳。
そのため、奇妙な鳥の反応は遅れる。
それに合わせて、俺は右の拳を突き上げる。
三度目の正直。
俺の一撃は、奇妙な鳥の一撃を上回る!
「よし!」
奇妙な鳥は弾かれたように、距離を取る。
そのまま――
俺と奇妙な鳥は、睨み合う。
「ご主人、相手の目的は時間稼ぎですよ?」
「魔物に、クーデリアを始末させるつもりか? 汚いな!」
「確実性を重視した、当然の対応ですよぉ!」
「クーデリアの命がかかってるのに、いつになく冷静だな?」
「ご主人こそ、いつになく感情的ですね。今こそ、冷静さが必要ですよ?」
スラゾウの指摘に、俺の冷静さを取り戻す。
「状況は――」
後ろの戦闘は、問題ない。
勝利は、間近。
前の戦闘は、問題あり。
敗北は、必至。
実際――
「くっ、今回は本当にまずいぞ……!」
クーデリアは武器を落として、甲板に膝をついている。
傷こそ負っていないものの、傷を負うのは時間の問題。
それどころか、そう遠くないうちに殺されてしまう。
「ご主人、エクストラスキルを発動しますか?」
「発動すれば、クーデリアは助かる」
「クーデリアは?」
「もし敵に奥の手があるとしたら、全員は助からない」
「奥の手?」
「おそらく、敵には奥の手がある。それは、俺たちを確実に始末できるものだ」
敵の本命は、まだ残ってるんだ!
「それなら、どうします?」
「素のまま切り抜ける!」
「可能ですか?」
「全員の力を合わせれば、可能だ」
「全員?」
スラゾウは引っ掛かる。
「スラゾウ、投げ槍に変化してくれ!」
「投げ槍ですね、了解!」
俺はスラゾウジャベリンを構えると、奇妙な鳥に向かって投げる。
ブン!
勢いよく飛んでくる槍に対して――
「ふん!」
奇妙な鳥は、馬鹿にするように大げさに避ける。
「がるるるぅ!」
武器を失った俺に対して、奇妙な鳥は勝ち誇るように鳴く。
「勝ち誇ってるのか、鳥野郎?」
「――――?」
「標的は、お前じゃない、クーデリアを狙ってる魔物だ!」
「――――!」
奇妙な鳥は、愕然としたように振り向く。
そこには――
複数のサハギンが、スラゾウジャベリンによって、一度に貫かれていた!
「クー、退いて!」
「スラゾウ様……? わかりました!」
退路を得たクーデリアは、こちらに向かってくる。
「――――!」
奇妙な鳥は、クーデリアに向かって羽を飛ばす。
ヒュン!
刃のように鋭い羽が、クーデリアの心臓に突き刺さる寸前――
「残念でしたねぇ!」
スラゾウの変化した護符、スラゾウアミュレットによって防がれる!
「がるるるぅ?」
奇妙な鳥は戸惑ったように鳴くと、複数の羽を飛ばす。
ヒュン、ヒュン、ヒュン――
クーデリアの全身に突き刺さるはずの羽は、しかしすべて防がれる。
「無駄ですよぉ!」
スラゾウシールドによって。
「お前だけじゃ、クーデリアを仕留められないぞ」
「――――?」
「なぜなら、お前よりスラゾウのほうが、圧倒的に優秀だからだ!」
俺の指摘に対して――
「がるるるぅ……」
奇妙な鳥は悔しそうに鳴いた。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
状況を打開する方法は、書いている最中に思いつきました。
そのため、話の進み具合に変化が起きました。
ただ、スラゾウの活躍には、満足してもらえるはずです。




