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第90話 束の間の安息

 前回のポイント・暗殺者は、行動を開始した!

 出発直後の魔物の襲撃以来、順調に航行している。

 本来は、こういうものだ。

 そのくせ、嵐の前の静けさのように感じる。


「ご主人は、非日常に慣れ過ぎなんですよ?」


「俺が、非日常に慣れ過ぎてる?」


「この世界に来てから、ほとんど毎日、面倒ごとに巻き込まれてるでしょ?」


「言われてみると、イベントの連続だな」


「楽しんでます?」


 スラゾウは首をひねる。


「兄貴は、この世界を誤解してるんすよ」


「俺が、この世界を誤解してる?」


「常に非日常でも、常に殺伐としてるわけでもないんすよ」


「言われてみると、日常と面倒は交互に訪れてるな」


「苦しんでます?」


 ゴレタは首をひねる。


「少なくとも、退屈はしてないよ」


「退屈こそ、悪である。隷属のルイスですか?」


「享楽主義じゃないし、退屈主義でもない。強いて言うと、興味主義だ」


「それ、何です?」


「興味を抱くものを追いかける。そのためには、苦労を厭わない」


 俺はスタンスを明かす。


「貴殿、私を守ってくれているのも、興味の一環なのか?」


「突き詰めると、そうだね。ただ、いろいろ混じってると思う」


「混じってる?」


「真実を知りたい、女性を守りたい、世界を旅したい……混じってるだろ?」


 クーデリアは頷く。


 俺たちは、柱に寄りかかりながら、海を眺めている。

 暇なのもあるけれど、それよりも敵襲を警戒している。


「ご主人は、心配性ですね?」


「兄貴は、神経質っすね?」


「理由は、言っただろ?」


 理由は――


 奇妙な鳥。


 一度目といい、二度目といい、俺たちを監視しているみたいだった。

 そのため、二度目の襲撃を警戒してるんだ。


「貴殿、魔物は野良だったのだろう?」


「だから、二度目の敵襲はない?」


「少なくとも、組織だった敵襲はないはずだ」


「それなら、最初の襲撃は? どうして、魔物の群れに襲われた?」


 俺は反論する。


「それは……偶然だろう」


「再度、偶然襲われるかもしれないだろ?」


「それはさすがに、ご都合主義だ」


「それなら偶然じゃなく、必然だ。二度目の襲撃は、必ずある」


 俺は断言する。


「それよりも――」


 俺は周囲を眺める。


「乗員の中に、怪しいやつはいたか?」


「怪しいやつ?」


「端的に言うと、暗殺者」


「いないと思う。少なくとも、我々以外にテイマーはいない」


 クーデリアは言葉を濁す。


「それなら、船長を始めとした船員の、俺たちへ態度をどう思う?」


「態度?」


「船と乗員を救ったのに、感謝の言葉の一つもないんだぜ?」


「聖堂教会からの要請のためだろう。感謝の言葉は、心に留めているのだ」


 クーデリアは好意的に解釈する。


「ゴレタとスラゾウのせいじゃないか?」


「オイラのせい?」


「オレのせい?」


「お前ら、サハギンを食べただろ」


 そう、スラゾウとゴレタはサハギンを食べたんだ!


「ご主人も、食べましたよね?」


「兄貴も、食べたっすよね?」


「……食べてないぞ」


「裏切り者!」


「卑怯者!」


 スラゾウとゴレタは憤慨する。


「揚げた皮も、食べてましたよね?」


「焼いた肝も、食べてたっすよね?」


「……お前らとは違い、皮も、肝も、食べてないぞ」


「盛り上がったでしょ!」


「奪い合ったでしょ!」


 スラゾウとゴレタは抗議する。


 実際は――


 もちろん、食べているし、おいしかった。

 カワハギのような、フグのような、上品な味だった。

 ちなみに、下ごしらえを怠ると、食あたりするそう。


「まぁ、食べたし、おいしかったけど」


「ご主人……」


「兄貴……」


「悪乗りが過ぎた、すまん、すまん」


 俺の謝罪に、スラゾウとゴレタはため息をつく。


「私は食べていないし、船長は食べたから、別件だろう」


「食べ方とか?」


「どうして、そうなる?」


 クーデリアは呆れる。


「距離を取られるだけなら、むしろ歓迎だよ」


「私の立場を知られたら、狙われると言いたいのか?」


「この海はともかく、あの港は聖堂教会の管轄だ。その可能性は、大いにある」


「味方はなし、か」


 クーデリアは自嘲する。


 実際のところは――


 船員は、無関心じゃない。

 その証拠に、サハギンを調理してくれたのは、船長。

 その際、下ごしらえに関する助言も貰っている。


「味方はいるものじゃない、作るものだ」


「貴殿は、楽観主義だな?」


「俺は、友達主義だぜ!」


 俺は胸を張る。


 目的は、クーデリアを慰めること。

 仲間へのケアも、リーダーの務めだろう。


「リーダー、お菓子!」


「リーダー、お茶!」


「お前ら、リーダーを便利屋と勘違いしてるんじゃないか?」


「オイラ、勇者ですよ?」


「オレ、勇者っすよ?」


「……勇者、追放するぞ?」


 スラゾウとゴレタは笑う。


「でも、たまにはこんな風に、のんびりするのもいいな?」


 スラゾウとゴレタは頷く。


「クーデリア?」


「ああ、大丈夫だ」


「大丈夫じゃないだろ」


「本当に大丈夫だ、今度こそ活躍する」


 クーデリアの言葉は、空元気に聞こえる。


「クーデリア――」


 再度、声をかけようとした時――


「敵襲だ!」


 船員の非常事態を告げる声が響く。


「言った通りだろ?」


「誇ることか?」


「予想が当たるのは、どんな時でも嬉しいんだよ」


「たとえ、自分が殺されるとしても?」


「さすがにそれは、勘弁だね」


 俺は苦笑する。


「そういうことだから、敵を迎撃しよう!」


 俺たちは頷き合った。

 読んでくださって、ありがとうございます。

 ブックマーク等の応援、ありがとうございます。


 サハギンは、ドラゴンと同じく日常的に食べられています。

 見た目的には、魚人と書きましたが、完全に魚です。

 クーデリアが食べなかったのは、珍味に近いからでしょう。

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設定を変えた別バージョンは、全部書き直してます。
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