第89話 船の上の戦い
前回のポイント・予想に反して、敵に襲われた!
追っ手から逃れたのに、敵に襲われる。
それも、安全なはずの船の上で。
「どういうこと?」
予想外の事態に、俺は戸惑う。
俺とは違い、スラゾウとゴレタは戸惑っていない。
「ご主人、まずは状況を確認しましょ?」
「兄貴、それから対策を立てましょ?」
「お前ら、柔軟だよな」
「オイラは、勇者ですよ!」
「オレも、勇者っすよ!」
「お前ら、本当に勇者みたいだぞ」
スラゾウとゴレタに続いて、俺も立ち上がる。
「敵は――」
甲板から、声のしたほうを見る。
そこには――
船に乗り込もうとする、魔物の群れ。
周囲に、人はいないから野良だろう。
海の魔物らしく、魚に似ている。
正確には、魚と人の合わさった魚人。
「調べてみるぞ?」
俺は情報を集める。
「〈異世界王〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界王〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
クラス・サハギン
ランク・G
スキル・水鉄砲G
エクストラスキル・なし
【パラメーター】
攻撃力・G-
防御力・G-
敏捷性・G-
「Gランクのサハギン……もちろん、野良だ」
「この海域を住処にしてる、地元の魔物ですかね?」
「それにしては、船員は慌てふためいてるっすよね?」
「野良なのは間違いないから、聖堂教会とは無関係だろう」
引っ掛かるものの、そう判断を下す。
「いずれにしても、戦おう。船を止められるのは、まずい」
スラゾウとゴレタは頷く。
「クーデリアはどうする?」
「もちろん、私も戦う」
「戦えるのか?」
「貴殿、侮辱しているのか?」
クーデリアは不機嫌になる。
「侮辱してるんじゃない、確認してるんだ」
「もちろん、戦えるぞ」
「戦えるのは知ってるけど、今、戦えるのかと聞いてるんだ」
「どういう意味だ?」
クーデリアは困惑する。
「君は、肉体的にも精神的にも参ってる。だから、聞いてるんだ」
「ともに、大丈夫だ。それに――」
「それに?」
「敵は、聖堂教会ではない。私も、気兼ねなく戦える」
「それなら、いい」
俺は了承する。
「ただし、君は守りに徹してくれ」
「わかった」
「素直だな?」
「死線を潜り抜けた貴殿と私では、実力に差がありすぎる」
クーデリアの言葉は、自嘲気味に聞こえる。
「足手まといだと思ってるのか?」
「そこまでは、卑下していない。ただ、実力不足だと、痛感している」
「それじゃあ、乗員を守ってくれ」
「了解」
俺たちは、二手に分かれる。
それぞれ――
俺、スラゾウ、ゴレタは敵の殲滅に。
クーデリアは、乗員の安全確保に。
「ご主人、クーを一人にして大丈夫ですか?」
「クーデリアの実力を怪しんでるのか?」
「そういうことじゃなく、暗殺者の存在です」
「神々の伝令により、距離を稼いでる。追いつかれるとしても、まだ先だろう」
スラゾウは頷く。
「兄貴、先輩、注意して!」
「増援か?」
「増援じゃなく、奇襲!」
「奇襲?」
「標的を貫く、水を飛ばしてくるんすよ!」
ゴレタは警告する。
直後――
積み重なった積荷の一つが、銃撃されたみたいに撃ち抜かれる!
「〈水鉄砲〉か!」
「〈水鉄砲〉?」
「サハギンのスキルだ。船の大事な部分を撃ち抜かれないように、注意しろ!」
「自分の身は?」
「全員、大丈夫だろ。たぶん、痛いぐらいだ」
俺の主張に、スラゾウとゴレタは苦笑する。
「スラゾウ、ゴレタ、魔物を蹴散らすぞ!」
スラゾウとゴレタは、俺の両肩に乗る。
それに合わせて、俺は走り出す。
魔物の群れに向かって。
「スラゾウ、斧に変化してくれ!」
「斧ですね、了解!」
「ゴレタ、積荷の残骸を利用して、〈形成〉してくれ!」
「積荷の残骸っすね、了解!」
俺はスラゾウアクスを構えると、魔物の群れの左に突っ込む。
それに続いて、スクラップゴレタは魔物の群れの右に突っ込む。
「邪魔だ!」
俺は、スラゾウアクスをぶん回す。
「どいて!」
ゴレタは、両腕をぶん回す。
俺も、ゴレタも、敵を倒すことよりも、敵を退けることを目的にしている。
そのため、どっちの攻撃も大振り。
それでいて、敵の数は多いため、攻撃は面白いように当たる。
ザクッ!
俺の一撃は、サハギンを切り伏せる。
ボコッ!
ゴレタの一撃は、サハギンを叩きのめす。
「サハァァ!」
サハギンは声を上げる。
同時――
〈水鉄砲〉が飛んでくる!
俺は身を低くして、〈水鉄砲〉を避ける。
ゴレタは身を硬くして、〈水鉄砲〉を止める。
「サハァァ?」
奥の手を防がれたサハギンは、動揺している。
その隙を突いて、俺とゴレタは暴れ回る。
ザクッ、ボコッ、ザクッ――
切る音と叩く音が、連鎖する。
それがしばらく続いた後――
「サハァァ……」
サハギンの群れは、海に逃げ帰る。
俺とゴレタは船から身を乗り出して、サハギンの群れを追撃する。
「ご主人、好戦的ですね?」
「再度、襲撃されたら、面倒だろ?」
「威嚇ですか?」
「もちろん、威嚇だよ!」
ボコッ、ザクッ、ボコッ――
叩く音と切る音が、連鎖する。
それがちょっと続いた後――
サハギンの群れは、完全に海に逃げ帰る。
「目的達成……あれは?」
「ご主人?」
「兄貴?」
「スラゾウ、ゴレタ、上を見ろ!」
「上?」
「鳥?」
そう、奇妙な鳥が、船の帆の上に乗ってるんだ!
「何のつもりだ?」
答えを得られないまま――
魔物の群れの壊滅に伴い、船は航行を再開する。
「「「飛んだ!」」」
俺たちの声は重なる。
奇妙な鳥は、飛び立つ。
光の巨人により飛行を抑えられている、俺たちを嘲笑うかのように。
読んでくださって、ありがとうございます。
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船の上の戦いになります。
本来、かなり不利なのですが、苦戦しません。
それだけ、タロウたちは強くなっているのでしょう。




