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第88話 船にて

 前回のポイント・東の桟橋の船に、タロウたちの姿はなかった!

 船は、桟橋を離れる。

 徐々に、それでいて着実に。

 遠目にも港が見えなくなると、やっと俺たちは安堵する。


「ご主人、逃げ切れましたね?」


「兄貴、やり過ごせましたね?」


「お前らのおかげだ」


「そうですよね!」


「そうっすよね!」


 スラゾウとゴレタは誇らしげ。


 一方――


 船に置き去りにされたクーデリアは不満げ。


「貴殿、どういうことだ?」


「一安心ということさ」


「一連の行動に関する説明は?」


「食事をしながら話そう。――構わないだろ?」


 好奇心よりも、空腹が優先されるらしい。

 スラゾウとゴレタはもちろん、クーデリアも頷く。

 俺たちは、屋台で仕入れた料理を囲むように、甲板に座る。


「発端は、スカーレットと鉢合わせしたこと」


「その時、私はいなかったぞ」


「いなくて、よかった。いたら、戦いになってたよ?」


 俺は指摘する。


「相手は、休暇中なのに?」


「聖堂教会の関係者には、手配書が配られてるんだよ」


「手配書?」


 クーデリアは反応する。


「君の似顔絵が載った、関係者用の資料だね」


「なぜ、そんなことを知っているのだ?」


「テイマーギルドを経由して、実物を手に入れたからだよ」


「観光していたわけではなかったのか!」


「こんな状況下で、のんきに町を見て回れるわけがないだろ」


 俺は反論する。


「極秘の手配書の存在を指摘したのは、オイラですよね?」


「ギルドに立ち寄るように主張したのは、オレっすよね?」


「どっちも、俺の手柄だろ?」


「ブーブー!」


「プープー!」


「もちろん、冗談だよ。目立つから、ブーイングはやめろ」


 俺は、スラゾウとゴレタのコップに、水を注ぐ。

 喉が渇いているらしく、スラゾウとゴレタは、おいしそうに飲み干す。


「これが、実物だ」


 俺は懐から、一枚の紙を取り出す。


 そこには――


 クーデリアによく似た、少女の顔が描かれている。


 実物との違いは、表情ぐらい。

 実物に比べると、柔らかくなっている。


「普通、逆だよな?」


「元があるからだ。元は、祖父と一緒に描いてもらったものだ」


「なるほど、肖像画の複製ね。だから、美化されてるのか」


「貴殿、嫌味か?」


 クーデリアは不機嫌になる。


「旦那様、そんなことよりも、運命の相手の話は?」


「旦那様じゃねえよ!」


「スライム心をもてあそんだの?」


「スライム心じゃねえよ!」


 冗談らしく、スラゾウは笑っている。


「兄貴、オレたちは何をしたんすか?」


「簡単に言うと、スカーレットを騙したんだ」


「騙したのはわかるんすけど、その理由と中身っす」


「順を追って、説明するよ」


 俺は頭を切り替える。


「俺たちと別れたスカーレットは、事情を察したんだろう」


「事情?」


「俺たちが、君を護衛してること」


「スカーレット殿は、私を捕まえるために、引き返してきたのか!」


 クーデリアは驚く。


「この時、隠れようと思えば隠れられたし、逃げようと思えば逃げられた」


「それなら、なぜ隠れなかったし、逃げなかったのだ?」


「無意味だからさ」


 俺は言い切る。


「無意味?」


「スカーレットは、有能だ。見つかるのも、追いつかれるのも、時間の問題だ」


「それならいっそ、騙すことにした?」


 俺は頷く。


「光の巨人によって、事実上、神々の伝令は封じられてる」


「再び墜落した時、生き残れる保証はないぞ?」


「俺も、そう思う。だから、俺たちは船に乗ってるんだ」


 クーデリアは頷く。


「あの段階だと、船の出発までには時間がある。下手すると、船を押さえられる」


「目的の船から、厄介なスカーレットを遠ざけたかったんですね?」


「だから、一芝居打つことにした」


「その際、オイラを『花嫁』に仕立て上げた理由は?」


「二手に分かれる必要があるから、クーデリアを守るためにゴレタを外したんだ」


 それに、身長の問題もある。


 スラ子はともかく、ゴレ美だと、クーデリアと釣り合わないんだ。


「フードをかぶったのは、怪しませるためですね?」


「それもあるけど、できるだけ〈変化〉を持続させる、必要があったからだ」


「確かに、フードを外すまで力を温存できましたね!」


 ここまで来れば、後は簡単。

 急いでることを強調して、その場を離れればいい。


「もし呼び止められていたら、どうしていたんです?」


「静止を無視する」


「無視できるんですか?」


「そのために、事前の要求に応じただろう?」


「相手の要求に素直に応じたのは、その後の行動のためなんですね!」


 俺とスラゾウによる、芝居。

 目的はもちろん、時間稼ぎ。

 その間に、ゴレタはクーデリアを護衛して、船に隠れたんだ。


「今頃、スカーレット殿は、どうしているのかしら?」


「宿にいてくれればいいんだけど、おそらく東の桟橋にいるはずだ」


「私たちが利用した西の桟橋ではなく、私たちが利用しなかった東の桟橋に?」


「もしもに備えて、別の桟橋を教えたんだ」


「誘導!」


 クーデリアは驚愕する。


「君の話から、東の桟橋からも船が出ることはわかってた」


「しかも、同じ時間帯でしょう?」


「スカーレットでも、すぐに嘘に気づくとは思えないから、時間稼ぎにはなる」


「後々問い詰められたら、どうするのだ?」


「どうやって、後々問い詰めるのさ?」


 俺は聞き返す。


「俺たちは、船の上。スカーレットは、陸の上」


「だから、顔を合わせることはない?」


「もし顔を合わせるとしたら、俺たちが時間を取られた時だ」


 俺はその事態を警戒している。


「海は、荒れ狂ってる。他の船を用意するのは、困難だろう」


「ペガサスを始めとした、他の移動手段は?」


「海を渡る手段は限られる。ペガサスでも、ドラゴンでも無理だろう」


 スカーレットは納得したらしく、食事に夢中になる。


「たぶん、このまま何事もなく、目的の港に着ける――」


 俺の言葉は、途切れる。


「敵襲だ!」


 船員の叫び声によって。


「敵襲?」


 俺たちは顔を見合わせた。

 読んでくださって、ありがとうございます。

 ブックマーク等の応援、ありがとうございます。


 種明かしは、以上です。

 襲撃を告げる叫び声は、休憩タイムの終了の合図です。

 どうやら、船に乗っても安心できないようです。

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設定を変えた別バージョンは、全部書き直してます。
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