第87話 港にて
前回のポイント・知り合ったトニーから、海路を教えられた!
見渡す限りの――
海。
近くも、遠くも、海に埋め尽くされている。
「海ですよぉ!」
「海っすぅ!」
スラゾウとゴレタは興奮している。
話を聞くと、ゴレタのみならず、スラゾウも海は初めてらしい。
そのはしゃっぎっぷりも納得できるし、共感できる。
俺も、初めて海を見た時は興奮したものだ。
「海……」
一方、俺は落胆している。
俺たちはトニーの助言に従い、船に乗るために港に寄っている。
その中に、ペガサスの姿はない。
簡単には癒せない傷を負ったため、医者に預けたんだ。
うまくいけば、トニーと一緒に聖都で再会できるだろう。
問題は――
「どう考えても、水着回じゃないよな?」
「水着回?」
「水着を着た女性陣が活躍する話さ」
「貴殿、海に入るのはもちろん、水着になるのも厳しいぞ?」
クーデリアの指摘はもっとも。
空は曇っているし、海は荒れている。
こんな時に水着になって、海に飛び込むのは、寒中水泳と同じ。
「紐水着は! 貝殻水着は!」
「貴殿……」
クーデリアは呆れたように店の中に入る。
海を渡るための船を見つけるために、紹介屋の主人と交渉するんだろう。
「ご主人?」
「兄貴?」
「何だ?」
「紐水着!」
「貝殻水着!」
「……水着?」
そこにいるのは――
紐に絡まったスライムと、貝殻を乗せたゴーレム。
「喜べないだろ!」
「それなら――はい!」
「そこまで――ほい!」
なんちゃって紐水着と貝殻水着を着た、スラ子とゴレ美に変わる。
「ダーリン、紐水着スラよ?」
「パパ、貝殻水着ゴレよ?」
「捕まるから、やめて……」
俺は懇願する。
「ノルマ達成!」
「水着回終了!」
スラゾウとゴレタに戻る。
「ご主人、焼いた魚!」
「兄貴、揚げた魚!」
「食べたいのか?」
「水着、見せましたよね?」
「水着、見せたっすよね?」
「お前ら……わかったよ。買ってくるから、クーデリアを頼んだぞ」
そう言い残して、俺は屋台に向かう。
人数分の食事を買い求めていると――
「面白い仲間たちね」
不意に声をかけられる。
声の主は、先に屋台の列に並んでいる人物。
「うぉっ!」
俺は歓喜の声を上げる。
そこにいたのは――
紐水着と貝殻水着の似合いそうな、妙齢の美女。
「どんなたとえよ?」
美女は苦笑する。
「いや、それは、その……」
「怒ってないわ、呆れてるだけ」
「それはよかった」
「それに、興味を持ってるの」
「俺たちに?」
美女は頷く。
「ご主人!」
「兄貴!」
スラゾウとゴレタは声をかけてくる。
その態度は、警戒を示している。
俺は仲間を信じて、美女に警戒する。
「あなたも、テイマーでしょう? 目的は、聖都への巡礼かしら」
「聖都への、お招きの手紙を貰ったんですよ。そういうあなたの目的は?」
「今は、休暇中。もっとも、もうすぐ終了ね。はあぁ、もっと休みたかった」
美女は愚痴る。
「急用なんですか?」
「急用ね。恩人の頼みだから、渋々、復帰するところ」
「あなたもテイマーみたいだから、ギルドからの依頼ですか?」
「仕事だから、内容は秘密。ただ、あなたも、無関係じゃないわ」
美女の言葉は、意味深に響く。
「どうして?」
「あるテイマーの捜索依頼」
「あるテイマー……」
「あなたが、彼女の護衛なら関係してくるのよ」
美女は微笑む。
「言い忘れたけど、私はスカーレット、よろしくね」
「俺は、キラタロウ、よろしくお願いします」
俺たちは名乗り合う。
「キッシュタロウ?」
「どこの郷土料理だよ!」
「ごめんなさい、異人の名前は難しいのね。それじゃあ、さようなら」
「さようなら」
スカーレットは遠ざかる。
「念のために、調べておこう」
俺は興味を示す。
「〈異世界王〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界王〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
ネーム・スカーレット
クラス・パラディン
ランク・SS
スキル・聖騎士S 身体強化A 精神耐性A 属性耐性A
エクストラスキル・不明
【パラメーター】
攻撃力・SS(プラス補正)
防御力・SS(プラス補正)
敏捷性・SS(プラス補正)
「まずいぞ……」
血の気が引いていく。
なぜなら――
「聖堂騎士!」
その上、グレゴールクラスの大物――
俺は代金と引き換えに食事を受け取ると、取って返す。
「みんな、今すぐこの場を離れるぞ!」
「どうして?」
「スカーレットは、聖堂騎士だ!」
「スカーレット――」
表情を引きつらせたのは、クーデリア。
「知ってるのか?」
「第二騎士団長のスカーレット殿だ!」
「やっぱり、グレゴールクラスかよ……」
俺は嘆息する。
「今は、休憩中らしい。でも、もうすぐ復帰するそうだ」
「ご主人、隠れましょ?」
「兄貴、逃げましょ?」
「隠れながら、逃げよう」
俺は仲間の助言を聞き入れる。
「貴殿、人数分のチケットは確保したぞ」
「今すぐ桟橋に向かえば、そのまま乗り込めるはずだ」
「目当ての船には、私が案内する」
「慎重に、それでいて迅速に、船に乗り込もう!」
俺たちは頷き合った。
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スカーレットとの出会いは、運命でしょう。
ただし、異性としてよりも、敵としての運命の出会いです。
第二章では、グレゴール以上に活躍してくれると思います。




