第9話 ヘルハウンド
前回のポイント・タロウは、ゴメスを倒した!
仲間の手を借りて、盗賊の親分を叩きのめした。
俺は、悠々とゴメスを見下ろす。
「くそっ、だからテイマーは、いけ好かないんだ!」
ゴメスは荒れている。
そのくせ、立ち上がれない。
傷が開いたらしく、右足が赤く染まっている。
どうやら、行動の自由を奪ったみたい。
これなら、討伐と脱出を両立できそう。
そう思い上がった途端――
「切り札を持ってるのは、貴様だけじゃないぞ。――小僧を殺せ、ハウンド!」
ゴメスは指示を下す。
ボコン!
音を立てて積荷が割れると、中から現れたのは――
見覚えがあるような、黒い魔物。
「切り札だから、何匹も来るかと思ったら一匹……どういうことです?」
戸惑っているのは、スラゾウだけじゃない。
子分たちも、フェルたちも、俺も戸惑っている。
疑問を抱いた俺は、割れた箱の中を見る。
箱の中には、金属製の檻。
その真ん中の穴は、歪んでいる。
まるで、炎により溶けたかのように。
「スラゾウ、上れ!」
スラゾウに向かって、俺は剣を差し出す。
危険を察知したスラゾウは、剣を上って俺の肩に乗る。
直後――
スラゾウのいた地点を中心に、炎が渦巻く!
「うおおおっ!」
恐怖そのものの声が、前後から上がる。
「炎? ハウンドなのに、炎を吐いたんですか!」
「いや、そいつはおそらく――」
俺は言葉を呑む。
「〈異世界博士〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界博士〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
タイプ・ヘルハウンド
ランク・E+
スキル・感覚強化D 身体強化D 不明
【パラメーター】
攻撃力・E+(プラス補正)
防御力・E+(プラス補正)
敏捷性・E+(プラス補正)
「ヘルハウンドだ!」
俺の言葉に、ゴメス以外の全員が驚愕する。
「ヘルハウンド? こんなところで解き放ったら、大惨事になるじゃない!」
フェルは咎める。
「俺たちじゃ扱い切れない、ヘルハウンドを解き放った? 頭、正気ですか!」
子分は怖がる。
「ご主人、賊の親分を脅して、やり過ごしましょ?」
「無駄だ。なぜなら、ゴメスはテイマーじゃないからだ。――違うか?」
俺はゴメスに話を振る。
「部下の言葉を聞いただろ? 一度指示を下した以上、あいつはそれに従う」
「いつまで?」
「むろん、指示を達成するまで。そして、その指示は貴様の命とともに終わる」
「たとえば、あんたを盾にしても、変わらないのか?」
「その場合、二人仲よく焼き払われる」
「厄介だね」
俺たちのやり取りに、あちこちから悲鳴が上がる。
ゴメスの言葉通りなら、被害は彼らにも及ぶからだ。
「スラゾウ、俺から離れろ。やつの狙いは、俺だ」
「ご主人、死ぬつもりじゃないですよね?」
「なーに、勝つつもりさ」
スラゾウは、渋々俺から離れる。
「来い!」
俺の言葉に合わせて、ヘルハウンドは突っ込んでくる。
その突進力は、ハウンドの比じゃない。
俺は剣をかざしながら、ヘルハウンドを人のいないほうに、誘導する。
そこに、炎の舌が追ってくる!
「くっ……」
剣を通して伝わってくる熱に、手を離したい衝動に駆られる。
だが、手を離してしまったら、焼き払われてしまう。
火炎放射器を備えた、闘犬を相手にしている気分。
正面からじゃ相手にならないし、スラゾウの助けも借りられない。
本当に?
スラゾウの力を借りれば、状況をひっくり返せるかもしれない。
「スラゾウ、香辛料の入った袋を、俺たちの頭上に投げてくれ!」
「香辛料の袋ですね? おりゃっ!」
スラゾウは、香辛料の袋を投げる。
袋は、放物線を描きながら飛んでくる。
ヘルハウンドが焼き払うよりも早く、俺は袋を断ち切る。
「犬の怪物だから、香辛料が効くと思ったのか? ヘルハウンドに、そんなものが効くかよ――嘘だろ!」
ゴメスは絶叫する。
俺の狙い通り――
香辛料の雨を食らったヘルハウンドは、もだえ苦しんでいるから。
「この隙に、仕留める!」
俺は一気に距離を詰める。
俺の一撃が、ヘルハウンドの首を切り落とす寸前――
ガキン!
俺の剣は、ゴメスの剣により受け止められる。
「くそっ、撤退だ、全員撤退するぞ!」
ゴメスはヘルハウンドの上に乗ると、その尻を叩く。
それに反応して、ヘルハウンドは走り去る。
置き去りにされた子分は、慌ててその後を追う。
「みんな、無事か? 町に帰るぞ!」
俺は振り返ると、拳を空に突き上げる。
勝利の雄たけびに反応して――
「おおぉぉ!」
フェルたちは、歓喜の声を上げる。
ヘルハウンド攻略法も、元から用意しておいたものです。
そのため、やはり作者は苦労しませんでした。
苦労したのは、ヘルハウンドの炎の防ぎ方です。
剣をかざした程度で、防げるのでしょうか?
ここは、防げると考えてください。