第７７話 地下道
前回のポイント・タロウは、作戦を思いついた！
実行する作戦に沿って、俺たちはギルドの地下室にいる。
もちろん、ここから町の地下に通じている道を通り、外に脱出するためだ。
「それじゃあ、がんばれよ！」
「それじゃあ、がんばってねん！」
フェルとマリーは、見送ってくれる。
「それじゃあ、行ってきます！ 後は、打ち合わせ通りに行動してください！」
そう言い残して、俺たちは道を下り始める。
道は、狭い上に暗い。
そのため、俺はランプを取り出している。
そのランプは、もしもの場合に備えて、クーデリアに持ってもらっている。
「貴殿、この道は本当に、外に通じているのか？」
「俺たちを信じられないのか？」
「そういうことではなく、素朴な疑問だ」
クーデリアは不安みたい。
「昨日、ギルドの依頼を受けて、地下を探索したんだよ」
「それが？」
「その時、地下道は崩壊したんだ」
「それなら、無理だろう」
クーデリアは指摘する。
「ただし、表面上」
「表面上？」
「本来の道は、残ってるんだ。その一つが、ギルドから町の外に通じてるんだ」
「どうして、そんなものがあるのだ？」
「緊急時の脱出口らしい。テイマーは、特権階級という証拠だね」
俺は皮肉る。
会話の間も、地下通路を進んでいる。
今のところ、おかしいところは見当たらない。
少なくとも、状況に限っては。
ただし、味方に限っては、おかしいところがある。
もちろん――
「スラゾウ、ゴレタ、さっきからおとなしいな？」
「食べ過ぎて――」
「眠いんすよ――」
「お前ら、そんなにクッキーを食べたか？」
「……食べましたよ？」
「……食べたっすよ？」
スラゾウとゴレタはそっぽを向く。
「それなら、いいんだけど。もし調子が悪かったら、我慢せずに言えよ」
「了解。はあぁ、眠い……」
「了解。ふあぁ、眠い……」
眠いのは本当らしく、両肩から寝息が聞こえ始める。
そう言えば、不貞寝した俺とは違い、スラゾウとゴレタは起きていたんだ。
「貴殿、勇者様に、どんな過酷な労働を強制しているのだ？」
「強制してねえよ」
「それなら、なぜここまで疲れている？」
クーデリアの疑問はもっとも。
「昨日の依頼が、夜遅くにまで及んだんだよ」
「そういう貴殿は？」
「俺は不貞寝したから、眠くないんだよ」
確認の間も、町の外に向かっている。
「そう言えば――」
俺は肝心な点に思い当たる。
「君は襲われたらしいけど、相手はどんなやつだった？」
「身を守るのに手一杯だったから、よくわからない。ただ――」
「ただ？」
「相手は、間違いなくテイマーだ」
クーデリアは断言する。
「その根拠は？」
「私も、聖堂騎士の端くれだ。盗賊程度には、遅れを取らない」
「それでも、遅れを取ったから、相手はテイマー？」
「それに、受けた傷から入り込んだ、毒の存在がある」
クーデリアは根拠を示す。
「治療してくれたテイマーによると、普通の毒ではないそうだ」
「普通の毒じゃない？」
「スキルによる毒だ」
「スキルによる毒！」
「要するに、自然界には存在しない毒だ。それゆえに、治療に苦労したのだ」
俺は驚愕する。
「下手人は、聖堂騎士団の関係者だと思うか？」
「心情を無視すれば、不明だ。ただ――」
「ただ？」
「たとえ関係者でも、聖堂騎士ではない」
「どうして？」
「聖堂騎士は、毒を忌み嫌うからだ」
クーデリアは指摘する。
「もし聖堂教会の関係者なら、汚い仕事に関わってる連中？」
「その可能性は、否定できない。ただやはり、解せない」
「そんなことを言い出したら、解せないことだらけだろ」
人々に慕われている宗主が、クーデターにあう。
その孫娘が、暗殺者に仕立て上げられる。
その際、聖堂騎士が忌み嫌う、毒が使われた。
「下手人は、聖堂教会とは別口かもしれないな」
「その根拠は？」
「突き詰めると、聖堂教会は君の身柄が欲しい」
「利用するためだろう？」
俺は頷く。
「それなのに、毒によって殺そうとするか？ それも、秘密裏に」
「目的が、相反しているな！」
「いずれにしても、食い違ってる。それは、つけ入る隙になるはずだ」
クーデリアは頷く。
時間的に、道のりは半分ぐらい。
スラゾウとゴレタは、眠っている。
俺とクーデリアは、歩いている。
「こいつら、のんきだよな――」
俺は言葉を呑む。
比較的開けた場所に、黒い影を見て取ったから。
「魔物！」
俺とクーデリアは顔を見合わせる。
「ジャイアントアント？」
その魔物は、見たことのあるような魔物なんだ。
「群れは壊滅したし、ルイスは死亡した……どういうことだ？」
俺は首をひねる。
「調べてみよう」
「調べてみる？」
「俺は、いろいろ調べられるんだよ？」
「まさか……私の個人情報も調べたのか！」
俺はそっぽを向く。
「答えろ！」
「……単なる情報だよ？」
「貴殿、そういうのは断ってから行え！」
「あの時、俺たちは敵対してただろ？」
「相対していただけだ！」
俺たちは睨み合う。
「謝罪と説明は後にして、魔物の情報を調べるぞ？」
クーデリアは渋々頷く。
「〈異世界王〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界王〉の指定効果、発動』
脳裏に言葉が響き、虚空に文字が浮かぶ。
【ステータス】
クラス・ジャイアントアント
ランク・Ｇ－
スキル・警戒Ｇ 追跡Ｇ 暗視Ｇ 巣作りＧ
エクストラスキル・なし
【パラメーター】
攻撃力・Ｇ－（プラス補正）
防御力・Ｇ－（プラス補正）
敏捷性・Ｇ－（プラス補正）
「Ｇランクのジャイアントアント。ちなみに、契約済みだ」
「野良じゃなく、契約済み？」
「一度、野良になった魔物と、再度契約したんだろう」
「その意味は？」
「俺たちを見つけるために。もっと言うと、俺たちを殺すために」
俺の言葉は、陰気に響いた。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
地下世界は崩壊したものの、地下通路は崩壊していません。
これは、大量のリソースを費やして、入念に作ったためです。
ただ、この先も残り続けるのかは、タロウの行動にかかっています。
