第76話 クーデター
前回のポイント・ギルドに到着した!
予想に反して、ギルドの中は静まり返っている。
人一人見当たらないまま、受付を抜ける。
そのまま、ギルドマスターの執務室に着く。
「待ってたぞ」
「待ってたわ」
声の主は――
ギルドマスターのフェルと、受付嬢のマリー。
「不倫?」
「冗談を言える余裕は、あるようだな」
「軽口を叩けるなら、心配ないようね」
フェルとマリーは安心する。
「普通、怒るところだよね?」
「普通、ギルドを無人にはしないだろ?」
「普通、受付を空にはしないでしょう?」
フェルとマリーは指摘する。
「この二人が、おやっさんとマリーさん。頼りになるから、安心して欲しい」
「今のやり取りを見て、安心しろ? 貴殿は、無茶を言う」
「今のやり取りは、例外だよ? 今が、非常事態だからだろう」
「非常事態……」
クーデリアは表情を引き締める。
「私は、クーデリアコローナ。宗主直属の聖堂騎士です」
クーデリアは自己紹介する。
「宗主の暗殺未遂犯には、見えないわね?」
「暗殺者!」
俺たちは顔を見合わせる。
「祖父は、大丈夫なのですか!」
「そう言えば、宗主の孫娘だったわね」
「そんなことよりも、祖父の身は!」
「一応、大丈夫みたい」
マリーの言葉は、意味深に聞こえる。
「一応?」
「暗殺者に襲われた宗主は、病床にあるわ」
「病床……」
クーデリアは表情を曇らせる。
「事実上の軟禁だ。その身は、安全だろう」
「軟禁なのに、安全なのですか?」
「今回の一件は、簡単に言えばクーデターだ」
「クーデター!」
俺たちは息を呑む。
「成功すれば、宗主は退位する。失敗すれば、宗主は復権する」
「本当に安全なのですか?」
「危険なのは、退位後だ。口封じされる恐れがある」
「口封じ……」
クーデリアは唇を噛む。
「今のところ、問題は宗主ではない。問題は、お前さんだ」
「私?」
「クーデター側は、お前さんを暗殺者に仕立て上げるつもりだ」
「つまり?」
「お前さんの存在が、クーデターの成否を握ってるんだ」
「私が、問題の中心!」
フェルの指摘に、クーデリアは息を呑む。
「あなたは、祖父の身よりも、自分の身を心配するべきなのよ」
「なぜ?」
「あなたが生きて故郷に戻れば、宗主を救い出せる。でも――」
「でも、私が死んでしまったら、祖父を救い出せない?」
「敵は、あなたたちの血縁関係を、とことん利用するつもりなのよ」
「血筋を利用される……」
マリーの指摘に、クーデリアは言葉を失う。
「おやっさん、平和的な解決はないのか?」
「ない」
「その根拠は?」
「グレゴールが出張ってる」
「あの男、危険なのか?」
俺は引っ掛かる。
「グレゴールは、聖堂騎士団の顔だ。敵も、必死なんだよ」
「当のグレゴールは、どっちの味方?」
「わからん。だが、意味はない」
「どうして?」
「グレゴールは、実直な男だ。たとえ、不合理な命令でも受け入れる」
「宗主の孫娘にも、容赦はない、か」
俺は頷く。
「それにしても、竜騎士グレゴール、か」
「聖堂騎士じゃなく、竜騎士?」
「異名だよ」
「異名?」
「聖堂教会の団長には、異名がある」
フェルは指摘する。
「他の団長にも?」
「もちろん、ある。だが、出番はないだろう」
「メタ発言?」
「馬鹿、グレゴールに負ける可能性が高い、と言ってるんだ」
フェルの言葉は、不吉に響く。
「やっぱり、強いの?」
「強いぞ。何しろ、SSだ」
「でも、おやっさんよりは弱いんでしょ?」
「SSSでも、万が一がある相手だぞ?」
フェルは遠回しに警告する。
「そんなに、強いの!」
「ちなみに、グレゴール以外の団長も、それ相応に強いぞ?」
「マジかよ……」
俺はため息をつく。
「この方は、なぜグレゴール殿に勝てるのだ?」
「それはもちろん、SSSの一人だからだよ」
「本当に?」
「その名も、親馬鹿のフェルナンデス!」
俺の紹介に、フェルは苦笑する。
「俺は、〈憤怒〉だ」
「〈憤怒〉……!」
「ただし、現役を退いてるから、あまり期待しないでくれ」
「大罪者に、期待などしない」
「嫌われたものだな。そう言えば、〈嫉妬〉は聖堂教会出身、か」
「……聖女様のことは、禁句だ」
今のやり取りに引っ掛かる。
「〈嫉妬〉? 聖女?」
「〈嫉妬〉は、聖堂教会の元聖女だ」
「聖女いるんだ!」
「ちなみに、お前の横にいる女騎士も、聖女候補だぞ?」
俺は、クーデリアに視線を向ける。
「ど、どうしたのだ、わ、私の顔を見つめて……」
「くっころ騎士、改めくっころ聖女?」
「貴殿、張り倒すぞ!」
クーデリアは怒りに震える。
「それより、これからお前たちは、どうするんだ?」
フェルの言葉を受けて、俺とクーデリアは今後の方針を考える。
「ところで、スラゾウちゃんとゴレタちゃんは?」
マリーは仲間の不在を不思議がる。
「皮袋に入ったままです。――スラゾウ、ゴレタ、大丈夫か?」
「呼びました?」
「呼んだっすか?」
スラゾウとゴレタは袋から出ると、俺の両肩に乗る。
「ご主人、水!」
「兄貴、水!」
「水なら、中に入ってただろ。――マリーさん、ありがとうございます」
俺はマリーから受け取った水差しを、スラゾウとゴレタに向ける。
スラゾウとゴレタは、ごくごくと水を飲み干す。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫です」
「大丈夫っす」
「妙に素直だな?」
「普通です」
「普通っす」
スラゾウとゴレタはそっぽを向く。
「まぁ、いい。――おやっさんとマリーさんに、頼みたいことがあるんだ」
俺は計画を打ち明けた。
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