第74話 聖堂騎士グレゴール
前回のポイント・手紙は、宗主からのSOSだった!
宗主を助けに行く。
方針が決まったため、俺たちは新しいクッキーを食べている。
「スライム型のクッキーは、おいしいですねぇ」
「ゴーレム型のクッキーは、うまいっすぅ」
「ドラゴン型のクッキーは、美味だなぁ」
喜んでいる俺たちとは違い、クーデリアは喜んでいない。
「どうした?」
「陰謀が進行しているのに、こんなにゆったりとしていて、いいのか?」
「手紙には『急げ』とは書かれてないから、準備を整えてから動くべきだろう」
俺は適当に答える。
「それは、いつだ?」
「明日以降だね。君の状態は悪いし、俺の状態もよくないし、焦るべきじゃない」
「そうか?」
クーデリアは首を傾げる。
「宗主が、心配なんだろう?」
「もちろん、心配だ。祖父としても、師匠としても尊敬できるお方だ」
「だからこそ、焦る必要はないんだ」
俺は笑う。
「意味が、わからないぞ?」
「自分の尊敬できる存在ぐらい、信用しようぜ?」
「そうだな」
クーデリアは首を振る。
変化が訪れたのは、その直後――
「宿の関係者はいるかね?」
ノックの音に続いて、外から声がかかる。
「ご主人、注意して」
「兄貴、警戒して」
「どうして?」
「外に、たくさんの人がいます」
「全員、武装してるみたいっす」
「わかった」
仲間の助言を受けて、俺は立ち上がる。
それから、外に通じる扉に近づく。
「どうしました?」
「我々は、聖堂教会の関係者だ」
「聖堂教会……宿泊ですか?」
「宿泊ではない、捜索だ。我々の関係者らしき人物の、目撃例がある」
俺は事情を察する。
「どんな人ですか?」
「説明するにしても、中に入らせてくれないか?」
「構いませんが、大勢は困ります。お客様も、いますから」
「今のところ、私一人で十分だ」
「少々、お待ちください。お客様に、事情を伝えてきます」
俺は食堂のテーブルに近づく。
「クーデリア、君は俺の部屋に隠れていてくれ」
「どうして、隠れる必要があるのだ?」
「相手は、聖堂教会の関係者だ」
「それなら、私の姿を見せるべきだろう?」
「味方とは限らない。むしろ――」
俺は言葉を切ると、仲間に伝える。
「スラゾウ、ゴレタ、クーデリアを頼む」
「了解」
スラゾウとゴレタは頷くと、クーデリアを俺の部屋に連れて行く。
「待ってくれ! 私は――」
「クー、一緒に来てください」
「クー、一緒に来るっすよ?」
部屋の扉が閉まるのを見届けてから、俺は戻る。
「どうぞ」
外に通じる扉越しに見えたのは――
宿を取り囲んでいる、大勢の兵士。
いずれも、紋章の刻まれた甲冑を着込んでいる。
その中のリーダーらしき人物が、室内に入ってくる。
「すまない、迷惑をかける」
「気にしないでください、用があるんでしょう?」
「用があるのは宿ではなく、客だ」
「宿泊客?」
「この宿の客の中に、我々の関係者がいるという情報を得たのだ」
俺は頷く。
「あなたたちの関係は?」
「同じ組織に所属している」
「聖堂騎士団ですね?」
「私は聖堂騎士団第一団長、グレゴールだ。よろしく」
グレゴールは、握手のために手を差し出す。
「俺は、キラ・タロウです。こちらこそ、よろしく」
俺は、握手のために手を差し出す。
「キール・タロウ?」
「どこの野菜だよ!」
「すまない、名前を間違ってしまって。異人の名前は、難しいな」
俺たちは握手した後、手を離す。
「それより、あなたたちの目的は?」
「知人に、用があるのだ」
「その用は?」
「すまないが、教えられない。強いて言えば、身内のゴタゴタだ」
「遺産相続ですか?」
「そんなものだ」
グレゴールは曖昧に応じる。
「我々の探している人物は、君と同じぐらいの年齢の少女だ」
「名前は?」
「名前ぐらいは、教えても構わないだろう。クーデリアコローナ、だ」
「くっころ?」
「間違っても、本人には言わないことだ。言葉の類似を気にしているのだ」
グレゴールは苦笑する。
「俺と同じぐらいの年齢の少女、ですか。たぶん、見間違えですね」
「見間違え?」
「俺の女友達が、そのくっころ騎士と同じぐらいの、年齢の少女なんですよ」
「要するに、この宿には我々の仲間はいないと、君は言いたいのかね?」
俺は頷く。
「そうか、邪魔をした」
「帰るんですか?」
「帰る。もし似たような少女を見かけたら、我々に教えてくれ」
「わかりました」
「それでは、また会おう。――キラ・タロウ」
グレゴールは身を翻すと、宿の外に出る。
その後、部下に指示を下して、宿から遠ざかる。
「また会おう、か。念のために、調べておくか」
俺は情報を集める。
『(異世界王)の指定効果、発動』」
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
ネーム・グレゴール
クラス・パラディン
ランク・SS
スキル・聖騎士S+ 身体強化A+ 精神耐性A+ 属性耐性A+
エクストラスキル・不明
【パラメーター】
攻撃力・SS+(プラス補正)
防御力・SS+(プラス補正)
敏捷性・SS+(プラス補正)
「マジかよ……」
俺は言葉を失う。
何しろ――
「あのフェンリルよりも、一回り弱いだけかよ!」
そう、明らかにルイスやジュドメルよりも、強いんだ!
「素のままだと、俺もまずそうだな――」
俺はため息をつく。
それから、俺は声をかける。
「みんな、出てきても大丈夫だぞ」
俺の部屋の扉が開くと――
「誰が、くっころ騎士だ!」
飛び出してきたクーデリアは、俺を張り倒す。
「俺、君のことを守ったよね――」
張り倒された俺は、床に転がった。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
舞台が宿に留まっていたのは、このためです。
下手に外に出ると、聖堂騎士団に見つかってしまうからです。
ただ、この後は段階的に外に繰り出します。




