第６４話 必滅の神槍
前回のポイント・タロウは、最強無敵チートを使った！
腹に大穴の空いた、ジュドメルはよろける。
「貴様、我を騙したのか！」
「騙した？ 人聞きの悪いことを言わないでくれよ」
「何、だと？」
「襲ってきたのも、殺そうとしたのも、君のほうだろう」
「そうだとしても、なぜ不安そうに振舞った？」
ジュドメルは憤る。
「そう振舞ったことは、わかるんだね。やっぱり、馬鹿じゃない」
「答えろ！」
「もちろん、君を逃がさないためだよ。言い換えると、確実に仕留めるためさ」
そう、途中から、立場は逆転していたんだ！
「君は、〈思念〉に頼りすぎなんだよ」
「我が、〈思念〉に頼りすぎている？」
「〈思念〉により、いちいち俺の反応を確かめただろう？」
「知っていたのか！」
ジュドメルは驚く。
「当たり前だよ、俺の行動を先読みすんだから。ただ――」
「ただ？」
「読んでるのは心じゃなく、表情だろう？」
「……そうだとしたら？」
「振る舞いに、引っ張られる。だから、今のような状況に陥る」
ジュドメルは黙る。
「でも、詳しい説明は、君には必要ないだろう」
「窮地だと言いたいのか？」
「窮地じゃないと考えるなら、群れの長としては失格だね」
「貴様こそ、群れの長としては失格だ」
「どうして？」
「なぜなら、絶好の機会だからだ！」
ジュドメルは起き上がると、無数の触手を突き出す。
もちろん、俺にじゃなく、エリザたちに！
「やっぱり、君は群れの長としては失格だね」
「ほざけ……ありえん！」
ジュドメルは驚愕する。
なぜなら――
ジュドメルの突き出した触手は、すべて弾かれたから。
俺の腕の一振りで！
「俺の拳は、君の巨体をぶち抜くんだぜ。触手程度じゃ、突破できないよ」
「……我だけでは勝てないが、一族全員なら勝てるぞ！」
「ジュドメル、その判断は最悪だ。仲間を巻き添えにする」
「いや、最高だ！ 全員、我に続け、敵を滅ぼすぞ！」
その言葉に従い、クトーニアンの大群が迫って来る。
「スラゾウ、ゴレタ、地下世界を崩壊させない程度に戦ってくれ」
「了解」
スラゾウとゴレタは進み出る。
「スライムとゴーレム程度に何ができる……馬鹿な！」
なぜなら――
迫って来るクトーニアンに、スラゾウは体ごと突っ込む。
ぶつかったクトーニアンは、真っ二つになる！
同じく迫って来るクトーニアンに、ゴレタは拳を突き出す。
殴られたクトーニアンは、木っ端微塵になる！
「ジュドメル、君は勘違いしてる。俺よりも、そいつらのほうが強いんだ」
会話の間も、クトーニアンの死体の山は、築かれ続けている。
スラゾウの一撃は、クトーニアンを紙のように切り裂く！
ゴレタの一撃は、クトーニアンを土のように叩き潰す！
「貴様らは、いったい何なんだ！」
ジュドメルは戦慄する。
「俺は、人間のタロウだ」
「オイラは、スライムのスラゾウです」
「オレは、ゴーレムのゴレタっす」
俺たちは口々に答える。
「答えになっていないぞ！」
「ジュドメル、君の求める答えはない。だから、諦めろ」
「我は、諦めん！」
「君は、諦めるしかない。なぜなら、ここで死ぬからだ」
「我は、死なない！ 死ぬのは、貴様のほうだ！」
ジュドメルの絶叫に合わせて――
『エクストラスキルの兆候を確認しました』
不穏な言葉が、浮かぶ。
「スラゾウ、ゴレタ、エクストラスキルが来るぞ！」
直後――
ジュドメルは、ありえないぐらいに大きくなった。
よく見ると、ジュドメル以外のクトーニアンの姿は見当たらない。
その答えは――
「合体した！」
合体クトーニアンは跳ぶ。
俺たちを、押し潰すために。
巨大な影が、勢いよく降ってくる！
『データベース・エクストラスキル〈超押し潰し〉』
ジュドメルの必殺技。
その一撃は、城砦を砂山のように押し潰す。
ジュドメルとの争いでは、幾多の城砦が瓦礫と化した。
果たして、あなたは耐えられるだろうか。
ズシン！
「勝った！」
「勝った？ 負けたの間違いだろ」
「無傷だと……」
ジュドメルは呆然と立ち尽くす。
俺たちに限らず、エリザたちも無傷。
なぜなら――
俺たちは、合体クトーニアンを持ち上げているから！
「だから、言っただろ。諦めろ、と」
俺は勝ち誇る。
「ありえん！」
ジュドメルは、後ずさる。
ジュドメルは、内心気づいているんだ。
俺たちに手を出したのは、間違いだった、と。
「我は、きっと、いつか、仲間の仇を討つ！」
「無理だ」
「なぜ？」
「なぜなら、君たちは滅ぶからだ」
「我々が滅ぶ……」
ジュドメルは息を呑む。
いや、息を呑んだのは、ジュドメルに限らない。
すべてのクトーニアンが、息を呑んだ。
迫り来る、死の恐怖を実感して！
「全員、撤退だ！」
それに伴い、ジュドメルたちは逃げ出す。
底の見えない、大穴に向かって。
「アビスに逃げ込むつもりなのか？」
「たぶん、アビスじゃなく、アビスの前にある横穴ですね」
「緊急時の避難所？」
「もしもの場合に備えた、逃走ルートを確保しているんですよ」
スラゾウは頷く。
「その場合、どうなる？」
「その場合、追いつくのは難しいっすね」
「その根拠は？」
「相手は、イモムシっすよ。地中を移動するのは、得意でしょ」
ゴレタは頷く。
「逃げられる前に、滅ぼそう」
「ジュドメルを？」
「それとも、群れを？」
「もちろん、ジュドメルを含めた群れを」
俺は判断を下す。
「クトーニアンの一族を滅ぼす咎めは、俺が引き受ける」
「ご主人、オイラも引き受けます」
「兄貴、オレも引き受けるっす」
「よし、咎めは全員で引き受けよう」
俺たちは頷き合う。
「ゴレタ、エクストラスキルを発動してくれ」
「了解」
ゴレタは頷く。
「〈必滅の神槍〉！」
瞬間――
主神と化したゴレタの手から、光輝く槍が放たれる。
それは、数百メートルの距離を一瞬にして零にする。
「それは、破滅をもたらす槍……うぉぉぉっ！」
ジュドメルは、恐怖に満ちた叫び声を上げる。
自分たちに追いすがる、破滅を具現化した、光輝く槍に向かって！
直後――
光輝く槍は、ジュドメルたちに突き刺さる。
突き刺さると同時に、光は爆発する。
バーン！
その光に呑み込まれた、ジュドメルたちは消滅する。
「口惜しい結果だ。しかし、貴様は、敵にしては見事だったぞ。できれば、我が一族の、あの生き残りを頼む――」
それが、ジュドメルの遺言になった。
消滅しているのは、ジュドメルたちに留まらない。
光の範囲内のものは、すべて原子の塵と化していく。
土も、岩も、虫も、魔物も、それに穴さえも。
そう、〈必滅の神槍〉の一撃は、アビスさえ滅ぼしたんだ！
「完全勝利だね」
「完全勝利ですね」
「完全勝利っすね」
勝利の雄たけびを上げなかったのは、ジュドメルたちに敬意を表したため。
ジュドメルたちとの戦いは、言ってみれば「種の生存競争」。
人間という種族と、クトーニアンという種族がぶつかった。
結果、ジュドメル以下、クトーニアンは滅んだ。
もし立場が逆転しても、ジュドメルは同じ対応を取っただろう。
「依頼は達成だ、町に戻ろう。――地下には、飽き飽きだよ」
俺の感想に、スラゾウとゴレタは笑う。
読んでくださって、ありがとうございます。
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冒頭は、前回の「弱気」の種明かしです。
ジュドメルを騙すために、タロウは弱気に振舞ったのです。
最後は、エクストラスキルによる締めです。
