第６３話 地底の決戦
前回のポイント・真の首謀者が姿を現した！
事件の元凶は、（思念）を用いてしゃべる――
「愚鈍ではないテイマーよ、貴様には感謝しているぞ」
「敵に感謝してる？」
「クトゥルフを呼び出すのを、阻止しただろう？」
「君も、呼ばれたくなかったのか？」
「呼ばれたら、逃げるしかない。あいつは、我より強力だ」
「それなら、異界の魔王は？」
「……破滅の化身だ。あれにより、幾多の世界が滅んだ」
異界の魔王は、想像以上に危険な存在らしい。
それでいて、その身内はのんきに欠伸をしている。
「〈思念〉により、あの男と契約して、誘導したんだろう？」
「その通りだ」
「どうして、契約を望んだんだ？」
「我の存在を隠すためだ」
「契約に見せかけた支配、か」
「よくわかるな、ますます惜しい」
人間と、魔物。
両者の関係は、奥深い。
「せっかく隠れてたのに、現れたのは契約者を失ったためか？」
「今は失っていないが、もうすぐ失う。その前に、別の契約者を得る必要がある」
「そのための『いい生贄』、か」
「そう、そのための若い女のテイマーだ」
「どうして、若い女を望むんだ？」
「一番、利用できるからだ。貴様も、若い女に騙されやすいだろう？」
ジュドメルは指摘する。
「そもそも、君の目的は何だ？」
「それはもちろん――」
「もちろん？」
「地下に、我が王国を作り出すことだ！」
「そして？」
「そして、世界を我が物にすることだ！」
ジュドメルは野望を明かす。
「普通だね」
「貴様ら、人間には我の苦しみはわかるまい」
「人間にはわからない？」
「我も、好き好んで地下に潜んでいるわけではない」
「それなら、どうして？」
俺は引っ掛かる。
「もちろん、貴様ら人間に追い立てられたのだ」
「なるほど、負け犬ね」
「その負け犬が、今度は貴様ら人間を駆逐する！」
「やってみろよ、負け犬ならぬ負け虫！」
グラグラ！ グラグラ！ グラグラ！
揺れが、激しさを増す。
それに合わせて、ジュドメルは迫って来る。
「みんな、逃げるぞ！」
一斉に回れ右をすると、穴に向かって走り出す。
途中、一度立ち止まると、捕まっていた四人を担ぎ上げる。
そのまま次の行動を取ろうとして、しかし立ち止まる。
なぜなら――
開けた場所は、クトーニアンによって、埋め尽くされていたから！
「〈集結〉のスキルだろう」
「〈集結〉？」
「呼んで字のごとく、集結するスキルだろう」
「単純ですね？」
「俺の発想が？ それとも、スキルの内容が？」
「どっちもですね」
スラゾウは頷く。
「それよりも、問題は対応だ」
「何を優先するんすか？」
「優先するのは、脱出じゃなく、殲滅だ」
「その心は？」
「そうしないと、何度も繰り返す」
「過ちを繰り返さないんすね」
ゴレタは頷く。
「殲滅できるの？ 下手したら、一匹も倒していないのに」
「状況さえ整えば、殲滅はできる」
「どうやって？」
「俺の力を使って」
「エロパワーね！」
エリザは頷く。
「エロパワーでもいいけど、本当に殲滅できるの？」
「だから、エロじゃないよ」
「殲滅は可能なの？」
「可能だ。ただし、地下世界は崩壊する」
「お兄ちゃん、煩悩の塊だから！」
アンナは頷く。
下らないやり取りをしていると――
ボコン！
音を立てて、背後の穴が崩れる。
それに伴い、ジュドメルが姿を現す。
「逃がさないぞ、貴様は八つ裂きにしてやる！」
「八つ裂きになるのは、君のほうだよ！」
「我を八つ裂きにする？ 面白い、やってみろ！」
「やってみせるよ、だから安心してあの世に行け！」
決戦――
もちろん、激戦が予想される。
似たようなところだと、擬似オルトロスとの戦いだろう。
ただ、あの時と比べると、安心感がある。
「貴様、仲間の存在に安心しているな？」
「よくわかるね？」
「仲間に頼っている顔をしているからな」
ジュドメルの言葉は、嫌味に聞こえる。
「そういう君は？」
「我は、頼っていない。むしろ、頼られている」
「頼られるものは強いと言いたいのか？」
「少なくとも、頼るものよりは強かろう」
頼られるものは強い？
「生き残りたければ、弱いものを見捨てろ」
「それでも、生き残れるとは限らないぜ」
「生き残れる。なぜなら、そんな無様なものは殺すに値しないからだ」
ジュドメルの言葉は、誘惑に聞こえる。
「暗に『見捨てろ』と言ってないか？」
「そう受け取ったのは、貴様がそう思っているからだ」
「知ったような口を利くなよ」
「貴様より、我は弱いものに詳しいぞ。散々、利用してきたからな」
弱いものを見捨てろ？
「もちろん、断る！」
「話し合いは、終わりだ。潔く、死ね」
「死ぬのは、君のほうだよ」
「挑発は、無駄だ。我は、動揺しない」
「本当に動揺しないのかよ？ 巨大イモムシ！」
グラグラ！ グラグラ！ グラグラ！
前後から、敵が迫って来る。
「状況を整える。――ついてきてくれ」
俺は、開けた場所をぐるりと回る。
もちろん、他の面々もついてきている。
果たして――
挟み撃ちを避けようとして、しかし阻止される。
「貴様、焦っているな？」
「勝ち誇ってると、足をすくわれるぜ？」
双方の距離は、二十メートルを切っている。
ジュドメルからすると、零に等しいだろう。
「仇の末裔よ、死ね！」
ジュドメルを筆頭に、クトーニアンの群れは、一斉に襲ってくる！
「ご主人、どうするんですか！」
「兄貴、どうするんすか！」
「タロウ、どうするの！」
「お兄ちゃん、どうするの！」
仲間の声が響く中――
俺は、ニヤリと笑う。
「ジュドメル、君の負けだ！」
「ほざけ！」
ジュドメルの巨体は、俺に覆いかぶさる――
「エクストラスキル発動！」
次の瞬間――
世界は、文字通り一変する。
『〈異世界王〉の効果、発動』
脳裏に言葉が響き、虚空に文字が浮かぶ。
【ステータス】
ネーム・タロウ
クラス・キングテイマー
ランク・ＮＦ
スキル・異世界王∞
エクストラスキル・ 神曲
【パラメーター】
攻撃力・∞（限界突破）
防御力・∞（限界突破）
敏捷性・∞（限界突破）
【ステータス】
ネーム・スラゾウ
クラス・スライムオリジン
ランク・ＮＦ
スキル・神化∞
エクストラスキル・ 神々の伝令 戦女神の加護
【パラメーター】
攻撃力・∞（限界突破）
防御力・∞（限界突破）
敏捷性・∞（限界突破）
【ステータス】
ネーム・ゴレタ
クラス・ゴーレムオリジン
ランク・ＮＦ
スキル・神成∞
エクストラスキル・ 必滅の神槍 雷神の鉄槌
【パラメーター】
攻撃力・∞（限界突破）
防御力・∞（限界突破）
敏捷性・∞（限界突破）
『き、貴様、こ、この力は――』
ジュドメルの言葉は、途切れる。
俺に、どてっぱらをぶち抜かれて！
俺の何気ない一撃は、ジュドメルの腹に、大穴を空けたんだ。
「さすが最強無敵チート……巨大な怪物も敵じゃないね」
俺の言葉に、ジュドメルの巨体は恐れるように震える。
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今回のポイントは、駆け引きにあります。
タロウは弱気を装い、ジュドメルを騙します。
その目的は、もちろん確実に討ち取るためです。
