第62話 真の首謀者
前回のポイント・首謀者は、主を呼び出そうとしている!
『エクストラスキルの兆候を確認しました』
不穏な文字が、浮かぶ。
「エクストラスキルが来るぞ!」
「本当に自分を生贄にするんですね!」
「そうなったら、クトゥルフが来る!」
「やつを止めるぞ!」
俺たちは、一斉に駆け出す。
だが――
「間に合わない!」
首謀者に後ろに、浮かび上がったのは――
影。
その影は、巨大にして強力。
それこそ、フェンリルに匹敵する力を持っている。
「スラゾウ、ゴレタ、ぶっ飛ぶぞ!」
「ぶっ飛ぶ?」
「スラゾウ、ゴレタの順でぶっ飛ぶんだ!」
「了解?」
「行け――スラゾウブースターとゴレタロケット!」
俺はスラゾウとゴレタを掴むと、首謀者に向かって投げる。
ブン!
「うひょー!」
「うぎょー!」
スラゾウとゴレタは声を上げる。
その間も――
ヒュン!
スラゾウとゴレタは、宙を飛んでいる。
さながら、丸い弾丸と四角い弾丸みたいに。
「ゴレタ、スラゾウを踏み台にして、さらにぶっ飛べ!」
直後――
ゴレタはスラゾウを足場にして、さらにぶっ飛ぶ。
奇策によって、敵との距離は零になる。
「ゴレタ、後は頼みます!」
「先輩、任せて。――食らえ!」
スラゾウは地面に着地して、ゴレタは首謀者の腹に頭突きする。
ゴン!
「大いなるクトゥルフよ――ぐはっ!」
衝突の威力はすさまじく、食らった首謀者は血を吐く。
胸部の骨を折ったらしく、首謀者はふらふらとよろける。
もちろん、エクストラスキルは中断される。
スラゾウとゴレタの、尊い犠牲によって。
「死んでいませんよ!」
「死んでないっすよ!」
「すまん、悪気はない」
「悪気しかないですよね!」
「悪気しかないっすよね!」
「本当にすまん」
詰め寄ってくる仲間に、俺は頭を下げる。
「スラ権侵害ですね!」
「ゴレ権侵害っすね!」
「お詫びに、スラ屋のシチューとゴレ亭のタルトを奢るよ」
「本当ですか?」
「本当っすか?」
「ついでに、ドラ飯のステーキも奢るよ」
買収工作に、スラゾウとゴレタは折れる。
一方――
「あっ……ああっ……あっ――」
首謀者は、祭壇へと近寄る。
目的は、祭壇に寄りかかることだろう。
その目論見は、あえなく失敗する。
手は、空を切る。
足は、地面を蹴る。
結果、首謀者はよける。
そして、穴へと堕ちていく。
「クトゥルフゥゥゥ――」
主への謝罪とも罵声とも、判別のつかない言葉を残して。
「死んだのか?」
俺たちは穴を見下ろす。
祭壇の向こう側の穴は、底が見えない。
それこそ、本当に底はないのかもしれない。
「これは、何だ?」
「アビスですね」
「アビス?」
「異界に通じると言われている、底なしの大穴です」
「異界……異世界のことか?」
「それ以外ないでしょ」
異界と、異世界。
転移と、アビス。
双方は、関係している?
「もしここに飛び込んだら、俺は元いた世界に戻れるのか?」
「無理ですね」
「はっきり言うね」
「マザーによると、アビスにより通じてる異界は、決まっているそうです」
「俺の元いた世界には、通じてない?」
「ご主人の体験からして、例外中の例外でしょう」
スラゾウは頷く。
「帰れなくて安心したのか、帰れなくて失望したのか、微妙な心境だな」
「もし帰れるとしたら、飛び込むんすか?」
「お前らも連れて行けるなら考える」
「それが無理なら?」
「もちろん、帰らない」
俺は即答する。
「一応、愛着はあるんすね」
「一応は、余計だろ」
「安心したっす。仲間を放り出すやつに、背中は預けられないから」
ゴレタは頷く。
俺にとって、スラゾウとゴレタは特別だ。
契約上の、『部下』じゃない。
人生における、『仲間』なんだ。
会話の間も、観察を続けている。
飛び降りるものはいないし、這い上がるものもいない。
そもそも、穴に果てはあるのか?
「問題は解決したのに、表情が険しいね?」
俺は茶化す。
その対象は、スラゾウとゴレタじゃなく、エリザとアンナ。
二人は、こちらに近づいてくる。
問題は、その表情、
二人の表情は、揃って険しいんだ。
「首謀者は、死んだのよね?」
「たぶん」
「それなら、どうして魔物は残っているのかしら?」
「残ってる?」
「よく見て、残っているでしょ――」
エリザの言葉に従って、俺は周囲を見る。
群れは壊滅したものの、生き残りはいる。
連中は、この場に留まっている。
「安全なんでしょ?」
「たぶん」
「それなら、どうして外は騒がしいの?」
「騒がしい?」
「よく聞いて、騒がしいでしょ――」
アンナの言葉に従って、俺は耳を澄ます。
遠くから、音が伝わってくる。
魔物が、集まってくる音だろう。
「どういうこと?」
敵を排除したのに、問題は継続している。
判断に迷っていると――
グラグラ!
激しい揺れに、襲われる。
「地震?」
揺れは続く。
しかも、だんだんと強まっている。
まるで、揺れの原因が近づいているみたい。
グラグラ! グラグラ! グラグラ!
「いや、地震じゃないぞ!」
この揺れは、地震によるものじゃない。
その証拠に、揺れは規則的。
果たして――
祭壇の向こう側に、それは浮かび上がる。
「クトゥルフじゃなく、クトーニアン?」
それは、クトーニアンによく似ている。
ただ、大きさは比べ物にならない。
言ってみれば、クトーニアンの怪物。
「とりあえず、調べてみよう」
俺の言葉に、全員頷く。
「〈異世界王〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界王〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
クラス・ジュドメル
ランク・S+
スキル・共有A 集結D 思念D
エクストラスキル・不明
【パラメーター】
攻撃力・A+(プラス補正)
防御力・A+(プラス補正)
敏捷性・A+(プラス補正)
「クトゥルフじゃない、ジュドメルだ!」
「ジュドメル?」
「クトーニアンの親玉だろう」
「群れの主?」
「ちなみに、契約済みだ」
俺の言葉に、全員驚愕する。
契約していない、クトーニアン。
契約している、ジュドメル。
これが意味するのは――
「首謀者は、ジュドメルとの契約を利用して、クトーニアンを使役してたんだ!」
「負担を抑えるため?」
「そう、負担を抑えるため」
「寝首をかかれる恐れがあるのに、よく実行できましたね?」
「〈精神汚染〉されてるからこその、判断だろう」
俺の言葉に、全員納得する。
ただ、問題点がある。
どうして、今頃、ジュドメルは姿を現した?
本来、主人の危機に駆けつけるはずなのに。
まさか――
「ジュドメル、君はあの男を利用して、地下に巣を作ったのか!」
俺の指摘に対して――
「貴様はあの男とは違い、無能ではないようだ。当初の予定通り、始末しよう」
返事は、声というよりも音のように響く。
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ネタバレになりますが、首謀者のエクストラスキルを明かします。
それは(狂信者)、カルティストです。
自身を生贄にして、主を呼び出すスキルです。




