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第6話 突破口

 前回のポイント・ハウンドは、予想外に強かった!

 魔物に素手で挑むのは、本当に間抜け?

 実は、この世界じゃ素手のほうが、強いかもしれない。

 もしそうなら、俺は間抜けじゃなく、むしろ有能――


「ご主人は、間抜けですね」


「妄想ぐらいは、許してくれよ」


「そんなことしてる暇があるなら、逃げましょ?」


「逃げられるなら、逃げたい。でも、無理そうだ」


「無理?」


 スラゾウは首をひねる。


「あいつのほうが、俺たちよりも速い」


「それなら、どうします?」


「もちろん、戦う。そして、勝つ」


 そのためには、情報が必要。

 あの魔物は、本当にハウンド?


「実は、ヘルハウンドじゃないのか?」


「依頼書の内容によると、ハウンドですね」


「マリーによると、両者は似てるそうだ」


「強いですけど、強過ぎじゃないですよね?」


 会話の間も、俺は石を投げている。

 目的はもちろん、牽制。


 ただ、それも限界。

 標的は、投石に慣れ始めている。


「いずれにしても叩きのめして、連れ帰る必要がある。――どうすればいい?」


 集中しようとしているのに、視界の端に文字がちらつく。


「文字? もしかして――」


 その文字に、心当たりがある。


「〈異世界博士〉の効果により、対象の情報を把握する」


 俺は宣言する。


 果たして――


『〈異世界博士〉の指定効果、発動』


 言葉が響き、文字が浮かぶ。


 【ステータス】


 クラス・ハウンド

 ランク・F+

 スキル・不明


 【パラメーター】


 攻撃力・F+(プラス補正)

 防御力・F+(プラス補正)

 敏捷性・F+(プラス補正)


「そいつは、ハウンド。ただし、パラメーターはプラス補正」


「どうして、野良の魔物に修正があるんです?」


「それは――」


「それは?」


「野良の魔物じゃなく、契約した魔物だからだ!」


 スラゾウは息を呑む。


「それなら、強くて当たり前ですね!」


「ちなみに、ランクはF+」


「F+? 普通、新人に任せませんね」


 俺たちは苦笑する。


 情報を把握すると、状況は好転した。

 問題は、決め手。

 俺に、F+ランクのハウンドを、叩きのめせる手段はある?


「ご主人、来ます!」


 スラゾウの警告を受ける中――


 俺は、対象の観察を続ける。


 気づいた点は――


 一、攻撃した後、距離を取る。


 二、息は荒く、肩が動いている。


 三、攻撃は、直線的のためわかりやすい。


「スラゾウ、ハウンドの顔に貼りつけ!」


「貼りつく……何、するんですか――」


 俺は、スラゾウを投げる。


 突進してきた、ハウンドの顔めがけて。


「――!」


 予期しない攻撃に、ハウンドは対応できない。


 ペタン!


 ハウンドの顔に、スラゾウは貼りつく。


 顔を覆われたハウンドは、身動きしたものの――


 ほどなく、倒れる。


「ご主人、どういうことです!」


「ハウンドは、体力がないんだ。そのため、すぐに息が荒くなる」


「その時、顔を狙うと、意識を奪える?」


「そう、意識を奪える」


「だからといって、スライムを投げるんですか?」


「急に投げたのは、悪かった。でも、隙を突く必要があったんだ」


 俺の釈明に対して、スラゾウはため息をつく。


 一方――


 意識を取り戻したハウンドは、立ち上がろうとして、失敗する。

 この調子なら、縄などで縛り上げて、町まで連れ帰れそう。


 そう思った時、ハウンドはこちらを見た。


「――――!」


 その切なさに満ちた姿は、何かを頼んでいるみたい。


「お前、誰に何を伝えたいんだ?」


 答えは、得られない。


 その言葉に前後して、ハウンドの目は、光を失ったから。


「死んだ!」


 突然の出来事に驚いていると、さらに驚くべきこと――


 ハウンドの体が、崩れ始めた。

 それも、スラゾウとは異なり、本当に崩れる。

 瞬く間に崩れ落ちたそれは、風に吹かれて消えた。


「突然、死にましたよ?」


「突然、崩れたぞ?」


 俺たちは、顔を見合わせる。


「まぁ、試練は突破だ。――町に帰ろう」


 俺はスラゾウを肩に乗せると、町に向かって歩き出す。


 大変だと思っていた帰り道は、むしろ楽だった。

 ギルドの建物に入ると、受付に立ち寄る。


「その様子だと、失敗したのかしら?」


「討伐は、成功です。ただ、試練は失敗かもしれません。実は――」


 俺は事情を話す。


「厄介ね」


「厄介?」


「あなたは、手柄を立てたのか、失態を犯したのか、二つに一つなの」


「もしかして、魔物の出没は人為的なものだと、疑ってます?」


「ええ、関係者の中に該当するテイマーがいなかったら、黒幕の存在が浮上する」


 俺は息を呑む。


「もっとも、今のところは様子見ね」


「様子見?」


「念のため、マスターに報告を上げておくわ」


 俺は頷く。


「難しい話はこれぐらいにして、楽しい話をしましょう」


「楽しい話?」


「タロウちゃん、試練の突破、おめでとう!」


「ありがとうございます!」


 俺は照れ笑いを浮かべる。


「あなたは、本当の意味での新人になったわ」


「スタートラインに、立ったんですね?」


「ただし、正式加入はマスターの立会いの下行われるから、早くても明日以降ね」


「その間は?」


「自由時間」


「その間の、寝床と食事は?」


「衣食住に関しては、用意してあるから安心して」


 マリーは有能さを垣間見せる。


「実を言うと、これはあらかじめ決まってたことなの」


「決まってた?」


「テイマーは、選ばれた者。だから、ギルドとしては管理したい」


「試練を突破できなくても?」


「脅すようなことを言ったけど、本来の試練は儀礼よ」


 マリーは裏事情を明かす。


「ただ、正式に試練を突破した人ほど活躍してる」


「そうなんですか?」


「だから、タロウちゃんには、正式に試練を突破してもらいたかったの」


 マリーは微笑む。


「これは、宿の場所を示した地図。文字は、読めるわよね?」


「もちろん、読めます」


「ちなみに、宿賃も食事代もギルドの負担だから、安心して」


「活動費は?」


「明日には、支給されるわ」


「至れり尽くせりですね!」


「興奮してるところ悪いんだけど、正式に加入した後は、ビシバシ鍛えるわよ」


 俺は苦笑する。


「人手不足なのよ。それこそ、スライムの手を借りたいぐらいに」


「スライム?」


「だから、スラゾウちゃんも、これからは犯罪に走らないこと」


 マリーは、俺の肩に乗っている、スラゾウを見つめる。


「わかりました、マリー姉さん!」


 スラゾウは下手に出る。


「いい返事、両名とも期待してるわ」


「お手柔らかにお願いします」


「時間はまだ早いことだし、宿に直行せずに、町をぶらぶらするといいわ」


 俺は頷く。


「じゃあ、またねん!」


 マリーの助言を背に、俺たちはギルドを後にする。

 当初、〈異世界博士〉は、もっと便利でした。

 勝手に対象の情報を読み取り、弱点を指摘するのです。

 ただその場合、タロウの関与する余地がありません。

 そのため、利用方法に制限を設けました。

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覚醒テイマーの成り上がり
設定を変えた別バージョンは、全部書き直してます。
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