第58話 全力疾走
前回のポイント・仲間と合流した!
俺たちは、走っている。
むろん、敵から逃れるために。
時間的には、五分にも満たない。
ただ、下り坂を全力疾走するのは大変。
俺はともかく、エリザとアンナは疲れ始めている。
このままだと、遠くないうちに限界を迎えるだろう。
「誰のせいだ?」
「オイラたちのせいにしてません? 自分の判断ミスなのに」
「オレたちのせいじゃなく、判断したご主人のせいっすよね」
「判断ミスじゃない、合流ミスだ」
どうすればよかったんだろう?
思いつくところだと、小細工せずに戦うこと。
ただその場合、一つ間違うと、敵に取り囲まれていただろう。
それなら、今のほうがいい。
何しろ、敵に追われているだけ。
それも、クトーニアンの群れに限って。
「よし、理論武装成功」
「タロウ、言い訳は空しくならない?」
「お兄ちゃん、今、すっごく格好悪いよ?」
「言い訳じゃない、ごまかしだ」
会話の間も、道を下り続けている。
エリザ、アンナ、俺の順。
そう、さっきまでとは順番が逆になっている。
この場合、前から襲われる可能性を捨てきれない。
ただ、前に戦力を向けるよりも、後ろに戦力を傾けるべきだろう。
そのため、一番戦える俺が、後ろに回っている。
本来は、順番を入れ替えるべきなのかもしれない。
スラゾウとゴレタの存在も、変更を後押しする。
だが、敵に追われ続けているから、変更する機会を得られなかった。
「ご主人、どうして最強無敵チートを発動して、敵を全滅させないんですか?」
「エリザを助け出したのに?」
「そう、巻き込む恐れはなくなりましたよ」
「俺も本領を発揮したいんだけど、他にも捕まった人がいるんだ」
俺は事情を明かす。
「本当ですか?」
「アンナが目にしてるし、エリザもそれらしい話を聞いてる」
「だから、力を温存しているんですね?」
スラゾウは頷く。
「そもそも、兄貴が全力を発揮したら、地下世界はどうなるんすか?」
「よくて崩壊、悪ければ消滅する」
「少なくとも、首謀者ごと連れ去られた人たちは死ぬっすね」
ゴレタは嘆息する。
「その人たちの生死は依頼には無関係だけど、できれば助けたいんだ」
「当然っすね。見捨てたら、呆れるっすよ」
「だから、クトーニアンの群れを何とかする必要がある」
ゴレタは頷く。
当のクトーニアンは――
執拗に追いかけてくる。
敵に〈追跡〉のスキルがある以上、当たり前か。
ちなみに、〈異世界王〉によると、いずれのクトーニアンも契約していない。
「どうする?」
だが――
考える間もなく、状況は変化した。
アンナの走る速度が、急激に落ちたんだ!
どうやら、体力の限界を迎えたらしい。
「あたし、もう駄目……」
「アンナちゃん、悪いけど、抱きかかえるよ」
「えっ?」
「よし、今だ!」
俺はアンナを持ち上げると、左腕に抱きかかえる。
もちろん、その間も走り続けている。
どうやら〈異世界王〉により、俺の身体能力は強化されているらしい。
アンナを抱きかかえても、走る速度は落ちていない。
「タロウお兄ちゃん……すごい!」
「精進してるからね」
「スキルの力でしょ?」
「……少しぐらい格好つけさせてくれよ」
アンナは笑う。
だが――
安堵する間もなく、さらに状況は変化した。
エリザの走る速度が、一気に落ちたんだ!
どうやら、体力の限界を迎えたらしい。
「私も、駄目かもしれない……」
「エリザ、悪いけど、抱きかかえるよ」
「えっ?」
「よし、今だ!」
俺はエリザを持ち上げると、右腕に抱きかかえる。
もちろん、その間も走り続けている。
本当に〈異世界王〉により、俺の身体能力は強化されているらしい。
アンナに続いて、エリザを抱きかかえても、走る速度は落ちていない。
「タロウ……すごい!」
「鍛錬してるからね」
「父さんとの鍛錬をサボっているのに?」
「……お願いだから、少しぐらい格好つけさせてくれよ」
エリザは笑う。
「さすが、年下好き!」
「さすが、変態紳士!」
「お前ら、ぶん殴るぞ?」
「暴力反対!」
「不当契約!」
スラゾウとゴレタは抗議する。
「タロウ、大丈夫?」
「お兄ちゃん、平気?」
「むしろ、元気だよ。問題は、地面だ。下手すると、転びかねない」
左腕にアンナ、右腕にエリザ。
まさに、両手に花。
ただ、重くはないものの、苦しかった。
地面の状態が、異様に悪いんだ。
一人ならともかく、三人だと転びかねない。
その場合、クトーニアンの群れに追いつかれるだろう。
その前に、対応する必要がある。
だが、地面を気にするあまり、頭が働かない。
下手に頭を働かせると、転んでしまう。
「みんな、俺は走るのに手一杯だ。悪いけど、対応を考えてくれ」
俺は協力を求める。
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改めて考えると、よく走れますね?
それだけ、タロウの身体能力は高まっているのでしょう。
ようやくの本領発揮です。




