第50話 ギルドマスターの依頼
前回のポイント・困ったような少女と出会った!
「タロウ、依頼を受ける気はあるか?」
場所は、テイマーギルド。
その最深部、ギルドマスターの執務室。
俺は、フェルと向かい合っている。
「どうして、そんな話になるの?」
俺は用心する。
フェルの口調から、紹介を装った要請だと気づいたから。
「必要だからだ」
「本当に必要なこと?」
「少なくとも、俺たちにとっては」
「俺、今忙しいんだけど?」
「忙しいのは、お互い様だ」
俺たちは苦笑する。
話は、一時間ほどさかのぼる。
困っている少女を見つけた俺は――
「何かお困りですか、お嬢さん?」
紳士らしく、丁寧に声をかけた。
すると、少女はこちらを見た後――
バタリ!
その場に、倒れたんだ。
俺のせい?
むろん、俺のせいじゃない。
強いて言うと、まだ見ぬ敵のせい。
当然、その場は大騒ぎ。
下手すると、俺は袋叩きにされるところだった。
勘違いした、群集によって。
「ご主人、勘違いじゃないですよね?」
「兄貴、本当は兄貴のせいっすよね?」
「うるさいぞ、お前ら!」
ともかく――
その窮地を救ったのは、テイマーの証である指輪。
それを某副将軍の印籠のように見せ付けて、群集を蹴散らしたんだ。
それから、少女をお姫様抱っこしながら、宿へと連れ帰った。
変態犯罪者?
だから、紳士の善意!
「ご主人、誤解じゃないですよね?」
「兄貴、嘘をつくのはよくないっすよ?」
「俺は、犯罪者じゃないぞ!」
ともかく――
むろん、少女は死んだんじゃなく、倒れただけだった。
ただし、背中に受けた傷による、熱を伴う毒によって。
今は宿の一室で、ハンナたちに介抱されている。
もちろん、俺の部屋じゃなく、別の部屋で。
その後、フェルに身元不明の少女の件を伝えたところ、前言が飛び出したんだ。
「おやっさん、困ってる少女がいるんだよ」
「タロウ、困ってるおじさんがいるんだぞ」
「もしかして、うまいこと言ったつもり?」
「面と向かって茶化すのは、お前の悪いところだ」
フェルは気分を害する。
「その少女には、エリザが付き添っているんだろう?」
「そのはずだけど?」
「それなら、大丈夫だ」
「大丈夫?」
「傷といい、毒といい、危険なにおいがする」
問題は、毒。
敵は、少女を殺そうとしたんだ!
おそらく、今も敵は、殺意をなくしていない。
だから、フェルは少女の身の安全を、確認したんだろう。
「俺が言いたいのは、その少女が目覚めない限り、話は進まないということだ」
「そうだとしたら?」
「依頼を受けろ」
フェルの言葉は、理不尽に聞こえる。
「無茶言ってない?」
「無茶言っているのは、わかっている。だが、これはお前にも関係した話だ」
「俺にも関係してる?」
俺は首をひねる。
「昨夜、町と外を結ぶ地下道が見つかった」
「へぇ、崩落しなかったんだ」
「いや、崩落した。それは、お前が報告したものとは別物だ」
フェルは首を横に振る。
「別の地下道?」
「そう、別の地下道。少なくとも、後一つ地下道が存在する」
「アリスのやつ、地下道の上に、もう一つ地下道を作ったのか」
「正確には、天然の地下道に、人工の地下道を組み合わせたようだ」
フェルは首を縦に振る。
「問題は、天然の地下道の先にある、魔物の巣だ」
「魔物の巣? 火攻めにすればいいじゃないか」
「お前、外道だな。テイマーの『毒』に、やられてるんじゃないか」
「当然の選択だよ! そうだろ、スラゾウ、ゴレタ?」
俺は仲間に問いかける。
「ご主人、外道ですね」
「兄貴、外道っすね」
「どうして、そうなる!」
俺は憤る。
「魔物が、好戦的とは限りません。まず、敵意の有無を確認する必要があります」
「戦うことよりも、話し合うことを優先しろ。親にそう教えられませんでした?」
「どうせ戦うことになるんだから、火攻めは有効だぞ」
俺はすねる。
「今回は、タロウよりも、スラゾウとゴレタの意見のほうが正しい」
「どうして?」
「殲滅ではなく調査の優先は、評議会議長の判断だ」
俺は渋い顔になる。
「盗賊団に便宜を図った、間抜けなドーソンの判断?」
「お前に別荘と屋敷を壊された、間抜けなドーソンの判断だ」
「おやっさん、かばってないよね?」
「かばうわけないだろ、あいつのせいで、エリザたちが死ぬところだったんだぞ」
フェルは、ドーソンに対して憤っている。
もちろん、娘であるエリザを始めとした、人々の命を危険にさらしたから。
ただ、怒り狂ってはいない。
その場合、ドーソンは墓場送り。
なぜなら、怒り狂ったフェルを止めるのは、軍隊でも無理だから――
「細かい話は、マリーに聞け」
「おやっさんは?」
「俺は、少女の身元を調べる」
「ギルマス自ら?」
俺は引っ掛かる。
「その必要があると、判断した」
「何かあるの?」
「あるかもしれない、とだけ言っておく」
フェルの言葉は、意味深に響く。
年端かも行かない少女に対して、敵は毒を用いたんだ。
そこからは、殺意が読み取れる。
フェル自身が、動く理由も納得できる。
何しろ、治外法権のSSSの一人だから。
ただ、関わると決めた以上、俺も覚悟しなければならない。
「そう心配するな、お前なら依頼を達成できる」
フェルの勘違いに対して、俺は苦笑いする。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
切り離した部分は、完全に手直しして投稿することになりました。
その理由は、思ったよりも書けているし、話として続いているからです。
まさに迷走ですが、見捨てずに読んでもらえると、ありがたいです。




