第49話 少女
前回のポイント・アリスの死とともに、事件は幕を下ろした!
日付は、事件を解決したしばらく後。
場所は、フェルの執務室。
目的は、待望の宣誓式。
要するに――
事件により延び延びになっていた、マスター立会いの下の宣誓を行うんだ。
「キラタロウ、前に来なさい」
「はい」
幾度も要望したものの、実際に機会が訪れると緊張する。
もちろん、フェンリルと相対した時などとは異なるものだ。
緊張しつつも、期待しているんだろう。
亡くなったアリスも、俺のように期待して宣誓式に臨んだ?
それとも、何も期待せずにやり過ごした?
アリスらしく、面倒だからと欠席したかもしれない。
ちなみに、アリスの死体は身元を確認した後、秘密裏に埋葬された。
秘密裏なのは、賞賛を抱く者も、憎悪を抱く者も少なくないから。
要するに、死体の悪用を警戒したんだ。
「キラタロウ、手を出しなさい」
「はい」
室内には、俺たち以外もいる。
スラゾウ、ゴレタという俺の関係者。
エリザ、マリーというギルドの関係者。
この後、宿の食堂を貸し切り、関係者を集めた祝賀会が行われる予定。
もちろん、俺のためじゃなく、全員のためだ。
要するに、騒動終結を祝うための場なんだ。
「キラタロウ、今日から君は、正真正銘のコンダクターだ」
「ありがとうございます」
俺の言葉に合わせて――
「おめでとう!」
俺以外の全員が、口を揃える。
「これは、報酬だ。ただし、くれぐれも調子に乗らないこと」
フェルは、二つのものを手渡してくる。
渡されたのは、服と袋。
前者は、ギルド所属のコンダクターの正式衣装。
見た目はよいものの、指輪と同じくスキルなどはない。
また、着用の義務はなく、あっても式典などに限られる。
そこらへんは、所持を義務付けられている指輪とは違う。
後者は、アリス討伐の報奨金。
ただ、本来のものよりも、かなり減額されている。
大部分は、ドーソンの焼失した別荘と、消滅した屋敷の再建に回されている。
それ以外は、今回の騒動に関わった面々に、少しずつ渡されている。
「本来の十分の一にも満たないが、納得してくれ。お前も、面倒は嫌いだろ?」
「わかってる。新人である俺への配慮だろ」
金は、問題じゃない。
問題は、ランク。
アリスを討伐しても、ランクは上がっていないんだ。
厳密には、俺はアリスを討伐していない。
討伐したのは、ゴメス。
当のゴメスは、アリス討伐の報酬を断っている。
ただ、その功績により、ゴメスを始めとした賊の罪は帳消しになった。
話によると、彼らは別のギルド所属の、傭兵として活動するみたい。
そういう事情を踏まえて、報酬はもちろん、評価も下がったんだ。
「じゃあ、また後でね。私は、準備のために宿に向かうわ」
「あたしは、書類整理ね。少し遅れて、宿に向かうわよん」
エリザとマリーは、部屋を後にする。
「そう言えば、言い忘れてたことがある」
「改まって、何?」
「魔物と契約すると、恐怖心が和らぐとともに、罪悪感が薄れることだ」
フェルの言葉は、不穏に響く。
「絶対なのか?」
「絶対だ。そうでもなければ、恐ろしい魔物と向き合えない」
「その魔物は、契約したものに限られるのか?」
「むろん、限らない。むしろ、契約していない魔物への、対抗手段だ」
フェルは応じる。
「でも、それはいろいろまずいんじゃないか?」
「お前がまともでよかった」
「まとも?」
俺は首をひねる。
「コンダクターに差別主義者が多いのは、このためだ」
「契約の余波が、人格にまで影響を及ぼすのか!」
「全員、そうなるわけではないし、程度も異なる。ただ、注意する必要がある」
「そういうおやっさんは?」
「俺は、変わらなかった。ただ、それがよかったとは思わない」
俺は頷く。
「俺のように、過去に縛られるな。かといって、アリスのように過去を捨て去るな。お前は自分らしく、それでいて正しいと思われる道を歩め」
「アリスも、同じようなことを言ってたよ。まぁ、善処する」
俺は頷く。
「それじゃあ、適当に町を散策してくる」
そう言い残して、俺は執務室を、ひいてはギルドを後にする。
「さて、どうしよう?」
町を散策するとしても、方針が必要。
ただ時間を潰すのか、それとも目的を掲げるのか――
できれば、周囲を探索できる魔物を仲間にしたかった。
検討は、しかし唐突に終わる。
「あれは――」
困ったように何かを探している、一人の少女を見つけたから。
「運命?」
異世界初日の自分を思わせる少女の姿に、俺は微笑む。
「ご主人、どうします?」
「兄貴、どうするっす?」
「もちろん、関わるよ!」
俺たちは、少女に向かって歩き出した。
次回は、第二部「地下世界編」が始まります。
内容的にも、文字数的にも、完全に合間です。
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