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第48話 異世界王の物語

 前回のポイント・フェンリルの仲介により、戦争を回避した!

 目的地は、町を一望できる丘。

 一度目とは、逆の方向からやってきた。

 そのため、丘の上に人がいるのが見える。


 自分が作り上げた物語の結末を、安全に見届けられる特等席なんだ。

 思い返すと、伏線はいくつかあった。

 一度、それに迫った身としては、苦笑いするしかない。


「そんな伏線ありました?」


「町に通じる横穴の存在だ。本来、厳重に管理するものだろ?」


「でも、管理されてませんね」


「そう、表面上は。ただ、実際は管理されてるんだ」


「アリス自身の手によって?」


 当のアリスは、俺に向かって手を振っている。

 挑発しているようにも感じられるが、違う。

 純粋に、喜んでいるんだ。


 こういうところは、素直に「すごいな」と思う。

 なぜなら、主義がまったくブレないから。

 有利でも不利でも、楽しんでいるんだ。


「今更ながらに、厄介な相手っすね」


「厄介?」


「アリスの強みは、その特異な精神構造っすよ」


「窮地を楽しめることか?」


「そんな相手を止める手段は、限られてますから」


 アリスを止める手段は、限られている。


 それは――


 殺すこと。


 息の根を止めれば、さすがに次の問題を起こせない。


 その時も、アリスは無抵抗だろう。

 俺に殺されることも、楽しみの一つだから。

 いわゆる、試合に勝ったものの、勝負に負けたパターン。


「アリス、君の望み通り、やってきたよ」


「ずっと見てたよ、いやぁすごいね」


「褒められることじゃない」


 俺は否定する。


「お兄さんを褒めてるんじゃない、あたしが楽しんでるの」


「それはわかってる。でも、違うものは違う」


「お兄さんは、真面目だねぇ」


「真面目じゃないと、こんな世界では生きていけないよ」

 

 アリスは微笑む。


「あたしが言うことじゃないけど、お兄さんは気楽に生きるといいわ」


「できるなら、俺もそうしたい。でも、無理そうなんだ」


「それも、そうか。お兄さんは、あたしたちとは違うもの」


 アリスの言葉は、意味深に響く。


「君たちとは違う?」


「本当に選ばれた者と、本当は選ばれなかった者との違い」


「俺は、どっち?」


「もちろん、お兄さんは本当に選ばれた者。だから、苦労しても成功する」

 

 俺は考え込む。


 不可能を可能にする。


 奇跡を起こす。


 人々を救う。


 アリスではないけど、物語の主人公みたい。

 もっとも、物語の主人公なら、もっと格好いいはず。

 それとも、泥臭い作風?


「それより、決着をつけよう」


「ええ、お好きにどうぞ」


「抵抗しないのか?」


「力を残してるんでしょ? それこそ、SSSの七人さえ殺せるぐらいの力を」


 アリスは見透かす。


「やってみないとわからないけど、たぶんできるだろうね」


「無駄は、嫌いなの。だから、殺すなら殺して。殺さないなら、次を待ってて」


「改めるつもりはないのか?」


「ない」


 アリスを止めるためには、命を奪うしかない。

 それ以外では、アリスに次の機会が訪れる。

 その時、俺は守りたいものを守れる?


 正直、迷っている。

 殺せないんじゃない、殺したくないんだ。

 尊敬とも軽蔑とも判別のつかない、奇妙な感情を抱いているために!


「ご主人、どうします?」


「兄貴、どうするっす?」


「俺は――」


 俺の答えは、遮られる。


 後ろから聞こえた言葉によって。


「小僧、そんなやつの命に、お前が責任を持つ必要はないぞ!」


 聞き覚えのある声。


 直後――


 ヒュン! ヒュン! ヒュン!


 大量の矢が飛んでくる。


 それは、アリスの全身に突き刺さる。


 ザクッ! ザクッ! ザクッ!


「あれ……?」


 アリスは、間の抜けた声を漏らす。


「死ぬ時ぐらいは、安らかに死ね!」


 声の主は、ゴメス。


 同時――


 ヒュン!


 飛んできた剣は、アリスの体を刺し貫く。


「くはっ……」


 アリスはうめくと、地面に崩れる。


「ゴメス!」


「あばよ!」


 俺の呼びかけに、ゴメスは別れの言葉を告げる。


 それから、ゴメスは仲間とともに立ち去る。


「アリス!」


「見捨てた盗賊に殺される……悪くない最期ね」


「悪くない?」


「自業自得でしょ? だから、悪くないの」


「本当に?」


 アリスは微笑む。


「最後に、後輩に助言を」


「助言?」


「正しい道は険しく、正しくない道はなだらかに、君の前に立ちふさがる」


「ああ」


「正しさを追い求める君は、これからも険しい道を歩まなければならない」


「ああ」


「大切なものを守れるように、今以上に強くなりなさい。さもないと、大切なものを失うわ。じゃあ、がんばって――」


 その言葉を最後に、アリスは亡くなる。


 俺にとっての、大切なものとは?


 むろん、自分じゃない。


 スラゾウとゴレタを始めとした、親しい面々だろう。


「ご主人?」


「兄貴?」


「大丈夫だ」


 俺は微笑む。


「さぁ、町に帰ろう」


 俺はアリスの亡骸を抱えると、ボードレスの町に向かって歩き出す。


 苦い、それでいて悪くない結末だった。

 読んでくださって、ありがとうございます。

 ブックマーク等の応援、ありがとうございます。


 この結末は、あらかじめ用意したものではありません。

 いくつかのルートをだどった末、自然とたどり着いたものです。


 そういう意味でも、アリスは第一部のメインヒロインです。

 本当は生き残らせて、メインヒロイン候補にしたかったんですけど。

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設定を変えた別バージョンは、全部書き直してます。
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