第47話 戦女神の加護
前回のポイント・タロウは、最強無敵と化した!
フェンリルは、闇夜を駆け抜ける。
その姿はさながら、紫の疾風。
かすかに残る赤い光と相まって、神々しく感じられる。
その背中から見下ろす町並みも、同じような印象。
丘から見渡した時よりも、はるかに美しい。
完全に再現された、ミニチュアみたい。
もっとも、感慨に浸るのは終わった後だ。
今は、できるだけ早く戦場に到着する。
そして、何としてでも争いを止める。
「我の背に人が乗るのは、お前が初めてだ」
「生まれたばかりなんだから、当たり前だろ」
「当たり前ではない、我の記憶は連続している」
「同一の存在ということ?」
「だからこそ、我のような存在とは契約できない」
俺は頷く。
「本来なら、そこにいるスライムとゴーレムも同じだ」
「スラゾウとゴレタも?」
「なぜなら、根源のスライムと根源のゴーレムだからだ」
「根源?」
「唯一無二の存在だ。ゆえに、本来存在しないし、ましては契約できない」
俺は考える。
両者の立場は、異なるだろう。
前者は、元からだから契約できない。
後者は、元からじゃないから契約できる。
推測を裏付けるように、本来存在しないという指摘がある。
存在しないのに存在するのは、俺のエクストラスキルのため。
それにより、不可能を可能にしているに違いない。
「ご主人、契約料を割り増ししてくださいね」
「兄貴、待遇の改善を申し込むっすよ」
「お前ら……」
俺たちの息の合ったやり取りに――
「ふはははっ、お前たちは面白いな」
フェンリルは楽しそうに笑っている。
会話の間も、移動は続いている。
ただ、そろそろ終わり。
遠目に、戦場が見えてきたから。
だが、到着するよりも早く、両軍に動きがあった。
フェンリルの暴発を阻止され、急遽、アリスが仕掛けたのかもしれない。
「どうするのだ?」
「もちろん、止める」
「どうやって?」
「もしものために残しておいた、スラゾウの力を使って」
「試してみるといい、我も協力する」
俺は頷く。
「スラゾウ、エクストラスキルを発動してくれ」
「了解」
スラゾウは頷く。
「〈戦女神の加護〉発動!」
直後――
戦場のど真ん中に、戦女神が降臨する。
それこそ、自由の女神の数十倍はある、巨大な女神。
もちろん、その正体はスラゾウ。
戦女神が、艶然と微笑む。
それに合わせて、戦女神のひらひらとした服が伸びる。
それは瞬く間に、両軍のすべての兵士を取り囲む。
自分たちを取り囲んだ『箱』に対して、両軍は猛攻を仕掛けている。
オルトロスの牙、ケルベロスの火炎、ガルムの冷気――
ミノタウロスの斧、デーモンロードの瘴気、エンシェントドラゴンの咆哮――
いずれも、傷一つつけられない。
まるで、別の空間に隔離しているみたいに、完全に制圧しているんだ。
「なるほど、真のヒロインは先輩だったんすね」
「えっ?」
「エリザは単なるヒロインみたいだから、おかしくないっすね」
「おかしいだろ!」
「少なくとも見た目は、女神らしく絶世の美女っすよ?」
俺は頭を抱える。
「両軍の衝突は回避されたが、この後はどうするのだ?」
「君は、仲間を連れて立ち去ってくれ。その際、追討軍に一声かけてくれ」
「我の立場は理解した。お前は?」
「追討軍を説得する」
「可能なのか?」
「君の言葉と卵が合わされば、可能性は十分だ」
「それなら、お前に任せよう」
フェンリルは、両軍の間に降り立つ。
突如、出現したフェンリルに、両軍からどよめきが起きる。
「人間よ、我はハウンド種族の王であるフェンリルだ」
フェンリルの言葉に、人々は息を呑む。
「今回の騒動は、我が人間に捕まったために起きたのだ」
フェンリルの言葉に、人々は耳を傾ける。
「我からの贈り物と引き換えに、軍を引いてくれ。我は、仲間とともに姿を消す」
フェンリルの言葉に、人々は驚きの声を上げる。
「さらばだ、タロウ!」
そう告げた後、フェンリルは制圧の解けた仲間とともに走り去る。
「さようなら、フェンリル!」
俺はフェンリルの後姿を見送ると、制圧の解けた追討軍に近寄る。
「俺は、キラタロウ。フェンリルに、伝言を頼まれた者だ」
俺の言葉に、人々は首をひねる。
「フェンリルを幽閉してた黒幕は、ギルドから追放されたルイスだ」
俺の言葉に、人々は耳を傾ける。
「騒動の侘びとして、フェンリルは自身の卵を残した。それが、みんなの報酬だ」
俺の言葉に、人々は喜びの声を上げる。
俺は荷物からフェンリルの卵を取り出すと、地面に置く。
「俺は若輩者の上、コンダクターとしては新人だ。ただ、SSSのコンダクターである〈憤怒〉から、全権を委ねられてる。もし文句があるなら、〈憤怒〉に言ってくれ」
そう告げると、俺は身を翻す。
もちろん、向かう先はアリスのところ。
アリスも、俺を待っているに違いない。
よくも悪くも、物語は終わるんだ。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
真のヒロインの登場は、言い訳です。
もちろんそれは、ヒロインの欠如です。
ヒロインの出現は、作者も切実に願っています。




