第44話 アリの巣の罠
前回のポイント・町に通じる穴に入った!
しばし考えた後、俺は決断する。
「時間はかかるけど、しょうがない。地道に道を切り開こう」
「スラゾウ、スラゾウスピアに変化してくれ」
「了解」
「ゴレタ、ランプを守ってくれ」
「了解」
「よし、行くぞ!」
俺はスラゾウスピアを構えると、敵の群れに突っ込む。
もちろん、警戒していた敵は迎え撃って来る。
俺に向かって、一斉に跳びついたんだ。
ジャイアントアントの目的は、俺を引き倒すこと。
予想していたことだから、難なく対応できた。
スラゾウスピアをなぎ払い、弾き飛ばしたんだ。
ただ、すべてうまくいったわけじゃなかった。
弾き飛ばせなかった敵は、俺に跳びつく。
だが、待ち構えていたゴレタにより、殴り飛ばされる。
「よし、このまま押し切るぞ」
一体、また一体――
着実に、倒していく。
ほどなく、ジャイアントアントの群れは壊滅する。
「終わったな、先を急ぐ――」
俺の言葉は、途切れる。
無数に分岐した前の道から現れた、大量のジャイアントアントによって。
「どういうこと?」
「排除したのは全体の群れじゃなく、個別の群れなんですよ」
「つまり?」
「まだまだいます」
「マジかよ……」
俺は嘆息する。
「兄貴、無理にでも突破するしかないっすね」
「その方法は?」
「オレが火を〈形成〉して、突っ込みます。兄貴は、その後に続いてください」
「いけるか?」
「後半分ぐらいだから、いけるはずっす」
ゴレタは請合う。
敵の総数は、殲滅した群れの数倍だろう。
そのつど潰していたら、期限を迎えるのは間違いない。
ゴレタの提案は、妥当だ。
「よし、敵を無視して突っ切ろう!」
ランプの火により、火の塊と化したゴレタは走り出す。
適当に選んだ、道の一つに向かって。
敵は待ち構えているけど、火を恐れるようにファイアゴレタを避ける。
奥にいた、ジャイアントアントの群れも同じ。
火を恐れるように、ファイアゴレタの進行方向から退く。
当然、それに続く俺たちも、進行を妨げられなかった。
順調に奥に進んでいる。
これなら、最初から強引に突っ切ればよかった。
そう思ったものの、間違っていた。
「一気に来たら、まずかったな」
ジャイアントアントの大群を突っ切った先に、それは待ち構えていた。
犬どころか、熊ぐらいに大きなアリ。
おそらく、こいつが群れの主。
「ゴレタ、後ろに火を放ち、道をふさいでくれ」
「了解」
火によって、道はふさがれている。
これにより、ジャイアントアントの加勢はなくなる。
問題は、その引き換えに退路を失ったこと。
「こいつを叩きのめして、地上に出るぞ!」
退路を断てたのには、理由がある。
群れの主の背後には、石造りの階段が見える。
そう、地上への出口はすぐそこなのだ。
俺たちは、巨大なアリの群れの主と対峙している。
後ろの一本道を押さえたとはいえ、絶対じゃない。
状況が変化しないうちに、こいつを倒して地上に出よう。
「何はともあれ、情報収集だ。そうしないと、遅れを取る」
スラゾウとゴレタは頷く。
「〈異世界博士〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界博士〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
クラス・クイーンアント
ランク・E-
スキル・暗視G 巣守りG 隷属A
エクストラスキル・不明
【パラメーター】
攻撃力・G-(プラス補正)
防御力・G-(プラス補正)
敏捷性・G-(プラス補正)
目立った点はない。
むしろ、ジャイアントアントのほうが強いぐらい。
戦闘力じゃなく、統率力が優れている?
「Eランクのクイーンアント……もちろん、アリスの配下だ。ただ、戦闘力は皆無だ」
「でも、警戒は必要ですよ」
「わかってる。だから、慎重に戦おう」
スラゾウは頷く。
「ゴレタ、前衛を頼む」
「兄貴は?」
「俺は、後ろから援護する」
ゴレタは頷く。
俺たちは、戦闘態勢を取る。
それに合わせて、クイーンアントは退く。
身の危険を覚えた?
「怪しいな、慎重に仕掛けるぞ」
不審を覚えた俺たちは、ゆっくり近づく。
距離が一定以上に狭まった時――
ボコッ!
音を立てて、壁に穴が空く。
左右の壁に留まらず、背後の壁も。
その穴から、ジャイアントアントが侵入してきた。
それも、信じられないぐらいたくさん。
おそらく、すべてのジャイアントアントが集まってきているんだ。
「このままだと、敵に囲まれるぞ!」
群れの主を囮にした罠。
後ろに退いたのは、左右と後ろから襲わせるため。
慎重に行動していなかったら、地面に引き倒されていただろう。
「ゴレタ、ジャイアントアントの群れを頼む。俺は、クイーンアントをしとめる」
「チェンジですね、了解」
前衛と後衛の入れ替えは、必須。
俺の場合、群れに押し切られる恐れがある。
一方のゴレタなら、群れに押し切られても耐えられる。
問題は、俺が群れの主をしとめられるかどうか。
それも、ゴレタの〈形成〉が維持できなくなるまでの間に。
もちろん、時間との勝負。
「よし、行くぞ!」
スラゾウスピアを構えた俺は前に、火の塊と化したゴレタは後ろに向かう。
俺の攻撃に対して、クイーンアントは防御に徹している。
手足の硬いところを用いて、器用に防いでいるんだ。
どうやら、群れが押し切るまでの時間を稼ぐつもりか?
「でも、これぐらいなら押し切れる!」
そう判断するのに合わせて――
「兄貴、〈形成〉を維持できません!」
ゴレタは窮地を訴える。
「早過ぎるだろ……どうして?」
同時――
【データベース・エクストラスキル〈巣〉】
敵の侵入に合わせて、自動に発動するスキルだ。
効果は、自分たちに都合のいいように環境を整える。
要するに、味方は強くなり、敵は弱くなる。
対応方法は、同系統のスキルにより、打ち消すことだ。
「〈形成〉の維持が難しいのは、敵のエクストラスキルのせいだ!」
「発動済みですか?」
「横穴に入った時から発動してる」
「だから、か。妙に疲れると思ったんですよ」
「それより、どうする?」
スラゾウの愚痴を聞き流して、俺は考える。
前衛と後衛を交代する?
いや、時間を稼げるものの、問題は解決しない。
それなら、賭けに出よう。
「ゴレタ、火を維持できなくなる前に、土を〈形成〉してくれ」
「どこの土っすか?」
「天井の土だ」
「天井? 下手すると、生き埋めになるっすよ!」
「構わないから、やってくれ」
俺の指示に、ゴレタは躊躇したものの応じる。
天井に、大穴が空く。
それに伴い、ゴレタの体は火から土へと入れ替わる。
すると、今までためらっていた敵の群れが、ゴレタに殺到する。
「ゴレタ、こっちに来い!」
「行くけど、まずいっす!」
ゴレタとともに、敵の群れも俺に近寄ってくる。
三方向から迫ってきた敵の群れは――
ドコッ!
天井の崩落に合わせて、押し潰される。
「今のうちだ、地上に向かうぞ!」
俺たちは、石造りの階段まで一気に駆け抜ける。
もちろん、クイーンアントたちは追いかけてくる。
だが、石造りの階段の上には来られない。
なるほど、そういう指示らしい。
直後――
轟音を立てて、トンネルは崩落する。
ほどなく、周囲は一斉に光に包まれる。
どうやら、巨大なアリの群れは壊滅したらしい。
「勝利? いや、敗北しなかっただけだ。さぁ、地上に出よう」
俺たちは階段を上り、地上に出る。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
今回のポイントは、窮地に陥る理由です。
当初用意していたのは、空気の不足という物理的な理由でした。
しかし、舞台はファンタジー世界です。
物理法則ではなく、スキル法則を用いることにしました。




