第40話 フェンリルの卵
前回のポイント・ハウンド追討軍によって、帰り道はふさがれている!
どれにしよう?
「俺の意見は別だ。――やめとけ」
「どうして?」
「お前は俺のことを、『楽天家』と言ったが、俺にそのつもりはない」
「個人の感想だから、気にしないで欲しい」
俺は遠回しに謝る。
「元から、気にしてない。問題は、俺自身は危機回避に長けてることだ」
「それが、人には『楽天家』に見える?」
「その俺が、ボードレスには絶対に行きたくないと思ってる」
俺は息を呑む。
反応したのは、俺だけじゃない。
一緒に向かう、スラゾウとゴレタも。
全員、神妙な面持ち。
「危険なのか?」
「俺の直感によると、信じられないぐらいに危険だ」
「信じられないぐらい、か」
「もし本当に行くつもりなら、死ぬなよ」
「いろいろありがとう」
テッドは照れ笑いを浮かべる。
食事を終えた俺たちは、元の民家に戻る。
待つのか、進むのか、二択。
本来、討論する意味はない。
だが、一度、全員で話し合う必要を感じた。
テッドの忠告から、命の危険を感じ取ったため。
下手すると、俺たちは全員死ぬ、と。
民家に着くと、ベッドに座る。
「ボードレスに向かうことは賛成です。ただ、急ぐ必要を感じませんね」
「同じく、向かうことは賛成っす。ただ、無理する必要を感じないっすね」
「俺は、急ぐ必要も無理する必要も感じてる。ただ、理由はわからない」
それぞれの主張を述べる。
「結局のところ、理由ですね。それ相応のものがあれば従います」
スラゾウの言葉に、ゴレタは同意するように頷く。
どうして、俺はボードレスに向かいたい?
強いて言うなら、約束を果たすため。
ハウンドとの約束を、そしてアリスとの約束を!
その時、異変に気づく。
荷物の入った袋が、赤々と光っていることを。
しかも、その赤い光はだんだんと強まっている。
「ご主人?」
「兄貴?」
「調べてみる」
ベッドの上に、荷物を取り出す。
光っているのは、紫色の塊。
要するに、フェンリルの割れた卵。
「〈異世界博士〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
【〈異世界博士〉の指定効果、発動】
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【データベース】
該当例は、一件。
ドラゴンの卵を始めとした、卵自体に価値のあるものが光る意味。
それは、光の具合により意味が異なる。
青く光る時は問題ないが、赤く光る時は問題だ。
何より、その赤い光が強まっているとしたら、要注意だ。
なぜなら、強い怒りを示しているからだ。
それがフェンリルならば、あなたは滅びを目にするだろう。
「このままだと、ボードレスの町は滅びる。それが、俺の行動する理由だ」
俺の言葉に、スラゾウとゴレタは呆然とする。
「俺の推測を要約すると、次の通りだ」
フェンリルは憤っている。
自分の立場にじゃなく、仲間の立場に。
そこには、両者の立場が関係している。
ハウンド種族の王であるフェンリルは、仲間の危機を察知できる。
そして、その仲間が危機を迎えつつある。
追討軍という名の人間の群れによって。
「それ、推測ですよね?」
「裏付けはあるんすか?」
「推測だ。ただ、卵の状態は推測を裏付ける」
現に今も、フェンリルの卵は光っている。
頻度は減ったものの、赤いまま。
おそらく、怒りが一線を越えてしまったんだ。
「もしそうだとして、オイラたちに何ができるんです?」
「悲劇を食い止められる」
「勝算はあるんですか?」
「ボードレスにたどり着ければ、問題を解決できる自信はある」
「心もとないですねぇ」
スラゾウは苦笑する。
「そうなると、問題はボードレスにたどり着けるかどうかっすね」
「その通りなんだけど、問題がある」
「問題?」
「下手すると、町ないし軍の滅びに巻き込まれる」
「それは嫌っすねぇ」
ゴレタは嘆息する。
前提として、期限までに町にたどり着く必要がある。
さもないと、滅びに巻き込まれる。
それなら、待つのも一つの手だ。
案外、何もないかもしれない。
お前は、本当にそう思ってるのか?
何もないわけがない。
エリザを始めとした、人々が死んでしまう。
「それでも、向かわないといけない。なぜなら、約束を果たしたいからだ」
「やれやれ、ご主人の頑固さには呆れますねぇ」
「ほんと、付き合わされる身にもなって欲しいっすぅ」
「よし、ボードレスに向かおう!」
俺たちは頷き合う。
荷物の入った皮の袋を背負う。
その中には、フェンリルの卵はもちろん、補充した食料品も含まれている。
今は赤い光は消えているものの、光り出したら厄介かもしれない。
覚悟を決めた俺たちが村の外に向かうと――
「お気をつけて!」
村長を始めとした、人々の見送りを受ける。
「見送り、ありがとう。じゃあ、行ってくる!」
そう言い残して、俺たちは村を後にする。
村を出ると、ボードレスに向かって歩き出す。
ただ、街道には向かわない。
直前に回り込み、別の道に入る。
そこは、旧街道。
道の状態は悪くないものの、野良の魔物がいる。
そのため旅人は避けるし、村人は近寄らない。
だからこそ、今回は利用できる。
軍もまた、展開していない。
テッドから伝わった情報によるとそうだ。
「うん、見当たらない。先に進もう」
道なりに進んでいく。
途中、道を妨げている岩や木を避けながら進んでいる。
面倒ではあるものの、大変ではなかった。
今のところ、追討軍とは行き当たっていない。
人はもちろん、魔物も。
ただ、野良の魔物はちらほらと見かけた。
当然、魔物とは戦闘せずに避けている。
時間も体力も、使いたくないからだ。
ただ、それも難しくなってきた。
「魔物、増えすぎじゃないですか?」
「しかも、動きがおかしくないっすか?」
「調べてみる」
俺はそう答えると、〈異世界博士〉により問題の魔物たちを調べる。
すると――
「【ステータス】はプラス補正……要するに、契約した魔物だ」
「軍関係者の魔物ですか?」
「いや、違う。アリスの魔物だ。全員、〈隷属〉のスキルを持ってる」
スラゾウは頷く。
「アリスの配下ということは、道を押さえてるんだろう」
「オレたちに対するものっすかね?」
「それ以外、考えられない」
ゴレタは頷く。
魔物の種類に特徴はない。
強いて言うと、ハウンド種族が見当たらないこと。
ある意味、アリスの主力だろう。
アリス配下の魔物は警戒している。
道を行き来する人を見張っているのだろう。
そこからは、アリスの警戒心を読み取れる。
相手は魔物だから、スラゾウを変化させた隠れ蓑による突破は困難。
それに見張っているから、迂回による回避も困難。
できる限り避けつつ、無理なら倒すしかない。
「どうして、ここまで邪魔をする?」
「それは、ご主人を警戒してるからですよ」
「アリスが、俺を警戒してる?」
「一番真実に近いのが、ご主人です。だから、邪魔してるんです」
「元Sランクに邪魔してもらって、光栄か?」
俺は苦笑する。
「邪魔するのは、期待を抱いてるからっすね」
「期待?」
「アリスは、兄貴に期待してるんすよ。自分を止められるのかどうか」
「期待と邪魔、相反してないか?」
「それこそ、チャレンジクエストっす。お兄さん、楽しんでね、って」
俺は嘆息する。
「アリス、お前の望みを叶えてやるよ!」
俺たちは頷き合う。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
フェンリルの卵が光るのは、お約束です。
こうでもしないと、役に立たないからです。
換金アイテムよりは、マシな扱いでしょうか。




