第35話 黒幕との対峙
前回のポイント・本物のルイスは、アリスだった!
黒幕との対峙――
会話を打ち切り、攻撃を仕掛けるべき?
いや、即断は危険だ。
数の上じゃ有利でも、戦力的には不利かもしれない。
判断を下すのは、情報を仕入れた後でも遅くないだろう。
「改めて聞くけど、一連の問題は君の仕業か?」
「どこからどこまで指してるのかわからないけど、おそらくあたしの仕業」
「偽のルイスを用意した理由は?」
「そのほうが便利でしょ? それに、この男のお調子ぶりに、興味を持ったの」
「役に立つから、か」
アリスは頷く。
「ハウンドの巣を襲撃したのは、フェンリルを配下にするためか?」
「結果的には、その通りね」
「結果的?」
「フェンリルは、ついで。本来の目的は、ハウンドの群れと契約すること」
「その最中にフェンリルが誕生したから、それに合わせて襲撃したのか」
その件に関しては、タイミングがよ過ぎると思っていた。
王の誕生と巣の襲撃と、一致したのは偶然だったんだ。
「そのフェンリルは、どこにいるんだ?」
「それは、教えられない」
「まぁ、そうだよな」
「ただし、ヒントを上げる」
「ヒント?」
「なぜ、ハウンドたちはボードレスの周辺を、活動の拠点にしてるのかしら」
「フェンリルの居場所は、ボードレスの町、か」
アリスは肯定も否定も示さずに、微笑んでいる。
どうして、ボードレスの町の周辺に、ハウンドたちは集まるのか?
それは、ボードレスの町のどこかに、フェンリルが捕まっているからだ。
要するに、自分たちの王を助けるために、彼らは町を囲んでいるのだ。
ハウンドの忠誠心を利用して、アリスは群れを従えているのだろう。
意外と言えば意外、当然と言えば当然の方法。
ただ、どす黒い落とし穴の存在を感じ取る。
「関連して、失敗を犯した下っ端を、生きたままハウンドの餌にしたのか?」
「ハウンドの生態を掴むために、試してみたわ」
「結果は?」
「駄目。あいつら、ああ見えて草食なの。だから、解放したわ」
「試したのは事実、ね」
俺はため息をつく。
「君とハウンドとの契約を破棄するには、どうすればいい?」
「もしかして、ハウンドに頼まれた?」
「そんなものだ」
「へぇ、面白い」
アリスは面白がる。
「答えは?」
「主に二つ。一、契約の対象を消すこと。二、契約の中身を消すこと」
「前者はいいとして、後者は?」
「たとえば、ある魔物は食事代を払えなかったとする」
「そして?」
「あなたは食事代を立て替える代わりに、その魔物と契約した」
「その場合、契約の中身を消す方法は?」
「魔物は、食事代を返せばいい。そうすれば、契約を破棄できる」
「元の原因を断つのか」
予想した通りだ。
フェンリルさえ取り戻せば、アリスとハウンドたちの契約を破棄できる。
「それにしても、よく答えてくれるな」
「疑問を挟む暇があるなら、問いを重ねたら?」
「嘘じゃないよな?」
「いくら将来有望でも、新人に嘘をつくほど落ちぶれてないわ」
「新人、ね」
俺は苦笑する。
「それに、あたしの期待に沿ったから」
「君の期待?」
「面白かったでしょ、チャレンジクエスト」
「地下道の探検、屋敷の探索、魔物との戦闘……クエストのつもりか!」
思い返してみると、誘導されていた。
実質的には、三つ目の選択肢のみ選択できたのだ。
ただ、それ以外はフェアだ。
「ギルドを追放された理由は?」
「方針の違い。あたしは好きにやりたいけど、ギルドは好きにやらせたくない」
「だから、ぶつかった?」
「だから、今は好きにやってる」
「傍迷惑な」
アリスは肩を竦める。
「結局のところ、君の目的は何だ?」
「楽しむこと」
「そのために、他人に犠牲を強いるのか?」
「あたしにとっては、当たり前のこと。それが嫌なら、あたしを狩ることね」
「狩られる覚悟はあるのか?」
俺は確かめる。
「もちろん! そっちこそ、狩る覚悟はある?」
「正直、わからない。でも、守りたいものを守るためなら、狩るつもりだ」
「いい返事。あたしを狩ると報奨金をたくさん貰えるから、覚悟して挑みなさい」
「望むところだ」
「いい覚悟」
アリスは楽しそうに笑う。
信じがたいところもあるけど、アリスの言葉は一致している。
楽しむ。
そのためには、他を犠牲にしても構わないのだ。
享楽主義の極み。
そのやり口は毒々しいのに、いっそ清々しく思えてくるから不思議だ。
ただし、賛同はしない。
「以上?」
「以上だ」
「ラミア、ここを死守しなさい」
「ラミア? 死守? アリス――」
「じゃあ、がんばって、追いかけてきてね、お兄さん!」
そう言い残して、アリスは窓から外に跳ぶ。
「アリス!」
俺は慌てて窓に近寄る。
下を見ると、アリスはこちらに向かって、手を振っている。
「ご主人、来ます!」
「兄貴、来るっす!」
ゴレタとスラゾウは警告する。
アリスの余裕の元は、その場に残っているラミア。
当のラミアは、襲ってくる。
正体を現したラミアの姿は――
娘を守ろうとする、母親じゃない。
人を食い殺そうとする、魔物だ。
俺は頭を切り替えると、身構える。
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アリスのネーミングの由来は、ルイス・キャロルの作品からです。
当然、ルイスのネーミングの由来は、作者名です。
名前が似ているため、怪しんだ人もいると思われます。




