第30話 アリスの抜け穴
前回のポイント・フェンリルの卵を入手した!
結局、フェンリルの卵を持ち帰った。
もちろん、売るためじゃない。
フェンリルの居場所の特定に、役立つと思ったんだ。
「ご主人、根拠はあるんですか?」
「何となく」
「それなら、売りましょ? 儲けられますよ」
俺は肩を竦める。
「兄貴、卵の存在はよくも悪くも重要っすよ」
「悪い点もある?」
「居場所を特定できるなら、双方でしょ? その場合、ハウンドに狙われるっす」
俺は息を呑む。
「執拗に狙われたら、人気のない場所に捨てればいい。そこに、集まる……」
「ご主人、どうしました?」
「兄貴、どうしたっすか?」
「自分の言葉に、引っ掛かったんだ。――どうして?」
会話の間も、ハウンドの巣を離れて、近くの村に向かっている。
今のところ、ゴブリンを初めとした、魔物の姿は見当たらない。
契約済みだから、与えられた命令に従い、住処に戻ったんだろう。
村に着くと、村長に状況を報告する。
それから、本格的に休憩を取る。
しばらくして休憩を終えると、湖の屋敷に向かって歩き出す。
結果は、ハウンドの巣に向かう時とは違う。
道に迷わなかったし、魔物に出くわさなかった。
「報酬を貰ったんだから、村に配慮するべきだ」
「でも、そいつが村に配慮してたら、問題は判明してませんよね?」
「結果論だ」
俺は呆れる。
「対応はお調子者らしいけど、冷酷じゃないっすね」
「その点に関しては、俺も引っ掛かってる」
「表と裏、性格が変わるんすかね」
俺は考える。
ドーソンの別荘を拠点にしているのは、ハウンドの巣を見張るためだろう。
そのくせ、村への配慮を怠っている。
問題の人物は、異なる二つの側面を持っている?
「着いたぞ」
判断を下す前に、目的地に着く。
正確には、目的地である屋敷を見張れる場所に。
「このまま屋敷に向かいますか?」
「それとも、アリスを待つんすか?」
「押し切れるなら、前者だ。押し切れないなら、後者だ。――どっちだ?」
検討している間に、状況は変わる。
ボードレスの町のほうから、一台の馬車が到着したんだ。
降り立ったのは、アリスと占い師。
他の乗員は臨時の護衛らしく、馬車と一緒に逆戻りする。
「出てくるぞ」
馬車の到着に合わせて、屋敷の扉が開く。
姿を見せたのは、中年の男。
「あいつが、盗賊の用心棒っす!」
「間違いないのか?」
「間違いないっす」
ゴレタは頷く。
「個人的なつながりみたいだな」
「護衛を町に帰らせたからでしょ?」
「公に付き合いがあるなら、護衛も留まるはずだ」
スラゾウは頷く。
「よし、アリスと接触しよう」
俺たちは、屋敷に向かって歩き出す。
もちろん、草木に身を隠しながら。
アリスに接触する前に、やるべきことがある。
もちろん、笑みを浮かべている男が、ルイスなのかどうか調べるんだ。
「〈異世界博士〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界博士〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
クラス・テイマー
ランク・不明
スキル・不明
【パラメーター】
攻撃力・G-
防御力・G-
敏捷性・G-
「本当にギルドを追放された、Sランクのコンダクターなのか?」
なぜなら――
【パラメーター】は、貧相そのもの。
もっとも、〈隷属〉に特化した、専門家の可能性は否定できない。
情報を確認している間に、ルイスと占い師は、屋敷の中に消えている。
一人残ったアリスは、辺りを見ている。
「ちょっと遊んでくるから、一人にして」
そう言い残して、アリスは屋敷を離れる。
合図だと受け取った俺は、その後を追いかける。
「変態ですね?」
「変態っすね?」
「他意はないぞ!」
屋敷の陰に来ると、アリスは草の上に座る。
景色を眺めているアリスに、俺は近づく。
草を踏む音が聞こえたらしく、アリスは振り返る。
「やっぱり、お兄さんだ」
「やっぱり?」
「お兄さんと他の人と、足音が違うの」
「耳は、いいんだね?」
「そうじゃないと、ママの仕事を手伝えないでしょ?」
俺は頷く。
「ルイスと面会したいんだけど、どうすればいい?」
「普通に面会するの? それとも、強引に面会するの?」
「一対一がいいから、後者だね」
アリスは頷く。
「屋敷に入るためのルートは、三つ。表、裏、外」
「順番に、意味はあるの?」
「だんだん距離は遠くなるけれど、だんだん達成は楽になる」
「クエストみたいだね。具体的に教えて欲しい」
「じゃあ、話すよ?」
アリスの話を要約すると、次の通り――
表は、そのまま。
見張りを倒して、中に入る。
ただ、その間に逃げられる可能性は高い。
裏は、林を通る。
時間はかかるものの、危険は減る。
ただ、林に魔物が潜んでいたら、逃げられる可能性は高い。
外は、地下を通る。
これなら、逃げられる可能性はない。
ただ、怪物の目撃情報があるから、危険度は一番高い。
「三つともリスクがあるね」
「じゃあ、あたしを通して、面会する?」
「それは、まずい」
「どうして?」
「俺はできないけど、テイマーは同類を認識できるらしいんだ」
「ふうん、お兄さんはできないんだ」
「その場合、ルイスは俺の正体に気づく。それは、罠に飛び込むようなものだ」
俺は指摘する。
「どれにする?」
「表は、論外ですね。裏か、外か、二択です」
「どっちにしても危険だけど、種類が異なるっすね」
俺たちのやり取りを、アリスは楽しそうに見守っている。
大人びたアリスからすると、ここは娯楽に乏しいんだろう。
「確実性を重視して、外を選ぶよ」
「いい判断」
「どうして?」
「下手に前の二つを選ばれると、あたしたちに被害が及ぶでしょ?」
「なるほど。配慮するつもりだけど、もしもの場合は逃げて欲しい」
それから、俺たちは歩き出す。
もちろん、この中じゃアリスのみ知っている、第三のルートに行くため。
今度は、アリスを含めて草木に身を隠しながら、慎重に進む。
そうしてたどり着いたのは――
湖のそばにある、横穴。
アリスによると、緊急時の非常口らしい。
「ここから、中に入れるわ」
「着くのは、敷地じゃなく、屋敷の中?」
「屋敷の中。台所に出るわ」
俺は頷く。
「お兄さん、あたしもついていく?」
「駄目だ、君を危険に巻き込むわけにはいかない」
「お兄さん、思ったよりも格好いいね」
「褒め言葉として、受け取っておくよ」
「もちろん、褒め言葉。じゃあ、がんばって!」
アリスの声援を背に、俺たちは屋敷に通じる横穴に入る。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
今回のポイントは、アリスの示したルートです。
いずれのルートも、ルイスにつながっています。
ただ、その難易度と内容は大きく異なります。




