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第3話 バルス

 前回のポイント・本物の盗賊に襲われた!

 数十人の盗賊に挑む、数人の兵士――


 たとえ個々の力は上回っていても、全体の力が上回っているとは思えない。

 町にたどり着き、増援とともに引き返しても、死体と化しているだろう。


 それでも、俺は逃げるのか?


「ご主人!」


「あぁ……」


「呆けてる暇があるなら、逃げましょ!」


「俺とお前が加われば、何とかなるんじゃないか?」


「何、馬鹿なことを言ってるんですか!」


「馬鹿?」


「兵士がオイラたちを逃がしたのは、戦力にならないと判断したからです!」


 スラゾウは、現実を突きつける。


「だから、見捨てろ?」


「だから、見捨てる水準に達してないんですよ!」


「そうとは限らない――」


「異世界を舐めてると、本当に死にますよ!」


 それが、スラゾウの言葉とは思えなかった。

 それぐらいに、その口調は厳しかったんだ。


「死ぬ……?」


「ご主人の配下に、武装した盗賊の集団を追い払える、魔物はいますか?」


「それは……いない」


 スラゾウの指摘により、俺は冷静さを取り戻す。


 俺の言葉と、スラゾウの言葉。

 どっちが正しいのかは、考えるまでもない。


 そのくせ、俺の中の未練は――

 理性じゃ抑えられないぐらいに、強い。 


「武装した盗賊の集団を、追い払える魔物?」


 論外。

 何しろ、仲間は〈擬態〉さえままならない、スライム一体――


 閃く。


「いないとしても、できるとしたらどうする?」


「兵士たちを助けて、恩に着せますね」


「それなら、協力しろ。お前の協力があれば、盗賊を追い払える」


「本当ですか?」


「本当だ」


「具体的には、どうすればいいんです?」


「いいか、よく聞け――」


 半信半疑のスラゾウに、俺は作戦の中身を伝える。


「やりたくないけど、やりますよ。このままだと、巻き添えを食らいますし」


「やる以上は、成功させる」


 俺たちは頷き合うと、兵士と盗賊の争いの場に、取って返す。


 盗賊の集団は、兵士を取り囲んでいる。

 ただ、兵士は傷こそ負っているものの、亡くなっている者はいなかった。


「どうして、戻ってきた!」


 俺の姿を見たケインは、喜びとも怒りともつかない、声を上げる。


「もちろん、あんたたちを助けるためだ。それに、お前たちを叩きのめすためだ」

 

 前半は兵士に、後半は盗賊に、それぞれ向けた言葉。


「こいつらを助ける? 俺たちを叩きのめす?」


「もちろん」


「はははっ」


「何が、おかしい?」


「小僧のくせに、面白いことを言いやがる!」


 盗賊の長に似つかわしくない、度量の大きい男は笑う。


 親分の笑い声に、子分の笑い声が重なる。


 ゲラゲラ、ゲラゲラ、ゲラゲラ――


 親分とは違い、子分に節度はないみたい。


「小僧だと見下すのか?」


「当たり前だろ」


「そりゃ、そうか。あんたは、俺と違って、テイマーじゃないんだから」


 うるさいほどだった笑い声は、ピタリと止まる。


「テイマーだと?」


「俺は、テイマーだ。その証拠に、この大地に眠る伝説の魔物を呼び起こせる」


「大地に眠る伝説の魔物?」


「太古の昔、この大地に魔物が封印されたんだ」


「そんな話、聞いたことないぞ」


「その忌まわしさゆえに、テイマー以外には秘匿された存在だ」


 俺は、相手の疑いを打ち消す。


 話の意味を理解できなくても、話の結末を理解できるらしい。

 子分たちに、不安が広がり始まる。


「そんな凶悪な魔物を、テイマーとはいえ、小僧が扱えるのか?」


「魔物を封印した英雄が残した、この剣を用いれば扱える!」


 俺は剣を掲げる。


「この剣が最大限にまで膨れ上がった時、お前たちに破滅は訪れる!」


 息苦しいほどの沈黙――


 それが一分を越えたころ、親分は舌打ちする。


「何も起きないぞ! 舐めやがって、小僧、大人の怖さを思い知らせてやる――」


 親分の声は、途切れる。


 突如、響いた声によって。


『我を目覚めさせるのは、誰だ?』


「俺は、お前を封印した者の子孫だ」


『我を封印した、英雄の子孫?』


「今から、お前を目覚めさせてやる。その代わりに、あの馬鹿どもを叩きのめせ」


『数千年ぶりの目覚めだ。腹が空いてる、全員食わせろ』


 そのやり取りに、盗賊はもちろん、兵士も震え上がる。


「さぁ、目覚めよ、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ――バルス!」


 剣は、見る見るうちに膨れ上がる。


 それに伴い、盗賊と兵士の顔から、血の気が引く。


「うわあああっ!」


 一人が悲鳴を上げると、回れ右をして、逃げ始める。


 それが引き金となり、次々と逃げ出す。


 その流れに、親分も乗る。


「お前たち、逃げるんじゃない!」


 言葉とは裏腹に、親分は率先して逃げる。


「危なかった……」


「助かった……」


 敵の姿が見えなくなると、俺はその場にへたり込む。


 それに合わせて、剣に変化していたスラゾウは、元に戻る。


「どういうことだ!」


「簡単に言うと、ハッタリです」


「ハッタリ?」


「スラゾウを剣に変化させて、伝説の魔物を演じてもらったんです」


「詐欺師みたいだな」


「詐欺も、たまには役立つでしょ?」


「何はともあれ、君たちは命の恩人だ。――ありがとう」


 ケインを始めとした兵士は、感謝するように頭を下げる。

 今回のポイントは、タロウの機転とスラゾウの変化です。

 一方では役に立たず、両方とも揃って、初めて役立ちます。

 「バルス」を用いたのは、「天空の城ラピュタ」つながりです。

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覚醒テイマーの成り上がり
設定を変えた別バージョンは、全部書き直してます。
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