第29話 ハウンドの王
前回のポイント・湖畔地帯の村に到着した!
俺たちは、入り組んだ道を進んでいる。
もちろん、ハウンドの巣を目指して。
行ったり来たりしながら進んでいると、目的地に着く。
予想とは違い、見張りがいる。
それは――
「人にしては、背は小さい上に肌の色は緑だから、魔物?」
「ご主人、亜人です」
「デミちゃん?」
「デミじゃなく、あじんです」
「正体は、〈異世界博士〉を使えばいいだろう」
俺は頷く。
「〈異世界博士〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界博士〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
クラス・ゴブリン
ランク・G
スキル・風評被害G
【パラメーター】
攻撃力・G(プラス補正)
防御力・G(プラス補正)
敏捷性・G(プラス補正)
「Gランクのゴブリン。ただし、野良じゃなく、契約済みの」
「ご主人、湖の屋敷に住んでる男の配下ですよ?」
「兄貴、見張ってるみたいだから、どう対応するんすか?」
ハウンドの巣の前には、複数のゴブリンがいる。
主人の命令により、ハウンドの巣を警備しているに違いない。
「無駄に戦う必要はない。隠れ蓑を使って、やり過ごそう」
「無駄というよりも、無茶ですね。勝てるとは限りません」
「スラゾウの意見は、戦闘回避ね。――ゴレタの意見は?」
俺は、ゴレタに話を振る。
「先輩の意見に、同意っす」
「その理由は?」
「オレの〈形成〉の有効性が、不明っすよね? 役立たずだと、最悪詰みます」
俺は、ゴレタの意見に首を振る。
「宣言通り、隠れ蓑によって潜入する」
隠れ蓑に変化したスラゾウをかぶると、俺はハウンドの巣に近づく。
このまま潜入できると思った時――
「ゴブ?」
ゴブリンは、獲物を見つけたみたいに声を上げる。
それに前後して、ゴブリンは迫って来る。
予想外の事態に、俺たちは後手に回る。
複数のゴブリンに、真正面に迫られたんだ。
「まずい――」
俺の言葉は、消える。
ゴブリンの跳躍によって。
「ゴブ!」
ゴブリンの爪を受けて、ゴレタが地面に転がる。
「ゴレタ!」
「大丈夫っす! でも、すぐには立ち上がれないから、兄貴と先輩で対応を!」
「わかった!」
俺は一安心する。
「スラゾウ、槍になってくれ!」
「槍ですね? 了解!」
スラゾウスピアを構えると、前方をなぎ払う。
「ゴブ!」
素人の大振りに対して、ゴブリンたちは楽々と避ける。
「ご主人?」
「狙い通りだ!」
狙いは、距離を取らせること。
俺はスラゾウスピアを振り回して、ゴブリンの隊列を崩す。
「ご主人、そろそろ元に戻ります!」
「わかった。――ゴレタ、〈形成〉により土の体を作り、ゴブリンを威嚇しろ!」
「了解!」
直後――
周囲の地面はへこみ、前方のみ膨らむ。
それは、見る見るうちに膨れ上がる。
巨大な土の塊に、ゴブリンたちは動揺を隠せない。
マッドゴレタは両腕を振り回しながら、距離を詰める。
「ゴブ――」
マッドゴレタの突進に、ゴブリンたちは吹っ飛ぶ。
起き上がったものの、痛打を浴びている。
ゴブリンたちは、ハウンドの巣とは逆の方向に逃げる。
戦闘により力を使ったらしく、ゴレタの土の体は崩れていく。
それが崩れ去る前に、ゴレタは木に跳びつく。
土の体がなくなると、そこには木の体に戻ったゴレタがいる。
「スラゾウ、ゴレタ、大丈夫か?」
「大丈夫です」
「大丈夫っす」
どうやら、邪魔者を追い払えたようだ。
問題は――
隠れ蓑が、通じなかったこと。
人に対しては有効でも、魔物に対しては有効じゃなさそう。
「休憩は、手ごろな場所を見つけてからにしよう」
俺たちは、ハウンドの巣の中に入る。
「ハウンドの巣――」
予想していたものとは違う。
動物の巣というよりも、人の集落。
その証拠に、家屋らしきものも、祭壇らしきものもある。
「ご主人、ここを陥落させたんだから、ルイスは凄腕ですよ」
襲撃に対して、ハウンド側も抵抗したはずだ。
実際、激戦の痕跡は、至るところに見られる。
「兄貴、ハウンドの勢力を真っ向から破ったとしたら、ルイスは強敵っすね」
今は自重しろ、契約の破棄を目指して。
フェルとエリザの提案は、もっともだ。
「そう言えば、季節外れの嵐は、何を意味してるんだ?」
「無理にでも関連付けると、魔物の仕業ですね」
「天候を操る魔物がいるのか?」
「古竜クラスのドラゴンは、天候に影響を与えられるそうですよ」
「そんなやつに勝てるのか?」
「無理に、と言ったでしょ。たぶん、無関係ですよ」
ハウンドの巣の跡地は、日常を突然壊されたような、断絶を感じさせる。
ゴレタも、安寧の日々を壊された側。
その横顔は、心なしか曇っている。
「ゴレタ、大丈夫か?」
「正直、気分はよくないっす。ただ、現状に満足してるから、問題ないっす」
広々としたハウンドの巣を一回りした後、俺たちは休憩を取る。
その場所は、木の枝が重なり合った、祭壇と思しき場所。
そこは、なぜか無傷だ。
「巣の中でも、ここだけ無傷なのはなぜだ?」
「たぶん、ハウンドたちが守り通したんですよ」
「そうだとしたら、何かあるかもしれないっすね」
体を休めつつ、祭壇を調べる。
重なり合った木の枝の下に、割れた卵が見える。
複数ある卵のうち、一つだけ大きさも色合いも異なるものがある。
「これこそ、今回の問題の中心だろう。とりあえず、調べてみるぞ」
俺は卵を調べてみる。
「〈異世界博士〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界博士〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【データベース】
該当例は、一件。
フェンリルの卵。
「これは、フェンリルの卵だ」
「伝説の魔物ですね。一説には、ハウンド種族の王とも言われてます」
「強いのか?」
「物語の中では、フェンリルの活動により、人間は試練の時を迎えたそうです」
「物語?」
「伝説上の存在なんです。もし本当にフェンリルの卵なら、高く売れますよ」
「売るのかよ!」
スラゾウの提案に、俺はのけぞる。
「おおよその状況を把握した」
「それは?」
「それは――」
二ヶ月ほど前のある日。
ハウンド種族の王、フェンリルが誕生する。
季節外れの嵐は、フェンリルの誕生に伴うものだ。
そのことを察知したルイスは、巣を襲撃する。
激闘の末、幼いフェンリルは、囚われの身になる。
ルイスはフェンリルを『人質』にして、ハウンドたちと無理やり契約する。
「引っ掛かったのは、フェンリルと契約しない理由です」
「しないんじゃなく、できないんじゃないか」
「フェンリルが拒んでるせいですか?」
「それもあるけど、そもそもフェンリルと契約できるのか? 伝説の魔物だぞ」
俺は指摘する。
「少なくとも、無理やり契約するのは無理ですね」
「ただ、最終的には飼いならすつもりかもしれない」
「どうやって?」
「仲間のハウンドを人質にして」
「今度は、脅す対象にするんですね」
スラゾウは頷く。
「問題は、そのフェンリルがどこにいるのか」
「見つけるのは難しいし、助けるのはもっと難しいだろう」
「でも、オレたちにとっては、大いなる一歩っすよ」
ゴレタは頷く。
「フェンリルを発見し、救出する。そうすれば、契約を破棄できるはずだ」
俺は結論付ける。
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ゴレタに関する、補足説明です。
形成した場合、ゴレタの名前の前に変化名がつきます。
今回なら、マッドゴレタ、です。




