第2話 小悪魔系スライム
前回のポイント・スライムを仲間にした!
俺の立場は、罪人じゃなく迷子。
実際――
俺の体を縛った縄は緩んでいて、引っ張られても痛くない。
そのため、連行されているというよりも、保護されているように感じる。
「異世界のはずなのに、さまにならないな」
「異世界?」
「お前には、関係ない話だよ」
「無関係? オイラたちは、一心同体です!」
「俺は、自称スライムと一心同体になった覚えはない!」
俺たちは、睨み合う。
「その自称スライム、やめてくれません?」
「どうして?」
「オイラには、マザーに与えられた名前があるんです」
「どんな名前?」
「リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ」
「お前は、シータかよ!」
俺は突っ込む。
「今は、何と呼ばれてるんだ?」
「スラゾウ」
「どうして、そうなった!」
「いろいろあったんですよぉ」
「まぁ、いいや」
俺は突っ込まない。
「君、異人なのに、よくぺらぺらとしゃべれるな?」
年長の山賊じゃなく、兵士長のケインは感心している。
「異人?」
「違うのか? その服、見かけないものだぞ」
ケインは振り向くと、俺の服を指し示す。
「和装だろう?」
「和装……?」
「どうしたんだね?」
「記憶が、曖昧なんです」
俺はごまかす。
「異人の上に記憶喪失、そのくせ流暢に言葉を操る……テイマーらしいよ」
「テイマー?」
「魔物と契約して、使役できる存在だ」
「俺は、テイマーなのか?」
「スライムは、魔物だ。その魔物と契約できたのだから、君はテイマーだ」
「あーそーゆーことね、完全に理解した」
俺は話を打ち切る。
「ご主人、理解してませんよね?」
「理解できるわけないだろ」
「それなら、名前は? 名前ぐらいは、わかりますよね?」
「キラ・タロウだ。そういうお前は?」
「スラゾウですけど?」
「名前じゃなく、立場だ」
「ノーブルスライムです」
スラゾウは胸を張る。
「どんなスライムだ?」
「戦闘には向いてませんし、交渉にも向いてません」
「何に向いてるんだ?」
「さっきのように人に成りすまして、食い逃げすることです」
「どこの世界に、食い逃げに向いたスライムがいるんだよ!」
「ここに、いますよぉ!」
スラゾウは勝ち誇る。
「でも、その成りすましも、今は厳しそうだな?」
「ご主人のせいですよ。契約によって、変化したんです」
「俺のせいにするなよ」
「それなら、オイラのステータスを見てください」
「ステータス……どう見るんだ?」
「願えば、見れます」
スラゾウの言葉に従い、俺はスラゾウのステータスを見たいと願う。
瞬間――
文字が浮かぶ。
【ステータス】
ネーム・スラゾウ
クラス・イレギュラースライム
ランク・G
スキル・変化G 言語能力G
【パラメーター】
攻撃力・G-(マイナス補正)
防御力・G-(マイナス補正)
俊敏性・G-(マイナス補正)
「すべての項目が、マイナス補正だぞ!」
「それは、ご主人と契約した結果です」
「要するに?」
「ご主人は、無能。――ファイナルアンサー?」
俺はスラゾウの頭を、ぺしっ、とはたく。
「それより、俺のことを『ご主人』と呼ぶのをやめろ」
「どうしてです、ご主人?」
「お前は、俺の嫁じゃない!」
「もしかして、契約を破棄しようなどとは、思ってませんよね?」
スラゾウは絡んでくる。
「そうだとしたら?」
「適応力を失いますよ」
「そうなったら?」
「言葉はしゃべれませんし、文字も読めません」
「……脅しだろ?」
「目を覚ました時、兵士の言葉はわかりました?」
その時のことを思い出す。
「わからなかった、それに調子も悪かった」
「それ、瀕死状態ですよね?」
「……俺たちの契約は、一方的には破れないんだよな?」
俺の声は震える。
「もちろん」
「よろしく、相棒!」
「ご主人、態度、変わり過ぎ……」
スラゾウは呆れる。
「君たち、仲がいいな、本当に初対面なのか?」
ケインは疑う。
「「知り合ったばかりです!」」
俺たちの言葉は重なり、ケインは苦笑する。
「信じられませんか?」
「慎重なのは、テイマーが関わっているからだ」
「どういう意味です?」
「この国では、テイマーは選ばれた者なんだ」
「それなら、この扱いは?」
「町に着くまでは、我慢してくれ」
それから、無言のまま歩く。
しばらくして、スラゾウが止まる。
「どうした?」
「もう少し進んだ先に、たくさんの人がいます」
「町が近いんじゃないか」
「それにしては、物騒です」
「物騒?」
俺は聞き返す。
「全員、武装してるみたいなんですよ」
「それなら、お迎えじゃないか」
「待ち構えてるのに?」
「それは……」
俺は言葉に詰まる。
たくさんいることも、武装していることも、問題ない。
問題は、待ち構えていること。
「まずいな」
ケインを始めとした、兵士の表情は険しい。
「まずい?」
「詳しく説明している時間はない」
「どうして?」
「なぜなら、集団で武装して待ち構える仲間に、私は心当たりはないからだ」
「つまり?」
「敵だ」
俺は息を呑む。
「我々が時間を稼いでいる間に、君たちは町に向かってくれ」
「俺たちはともかく、あなたたちは?」
「大丈夫、私たちは本職だぞ」
「ケインさん……」
俺は言葉を失う。
ケインは、俺とスラゾウを縛った縄を解く。
「君たちは、逃げるんだ」
そう言い残して、ケインたちは敵に向かう。
俺は、呼び止められない。
なぜなら――
武装した荒くれ者の集団が、目に入ったから。
高揚感を見せる盗賊と、悲壮感を漂わせる兵士。
その見事なまでの対比に、俺は呆然と立ち尽くす。
今回の話は、情報、伏線、ネタと満載です。
当初、スラゾウの名前は、「画家の、ゴッホ」をモチーフにしていました。
現在は、「天空の城ラピュタの、シータ」をモチーフにしています。