第19話 囚われのゴーレム
前回のポイント・鉱山に潜入した!
「巨人?」
それは、一見すると鉱石。
ただ、よく見ると生物。
なぜなら、感じられるんだ――
金属の鎖により全身を縛られていても、屈しない強い意志が!
「ご主人、声の主は、部屋の外まで来てます」
「部屋の外に?」
「観察してる場合じゃないですよ」
「とりあえず、隠れるぞ」
「どこに?」
俺は部屋を見る。
一瞥した限りでは、隠れる場所はない。
強いて言うなら――
「こいつの後ろだ」
「後ろに回るだけですか?」
「必要なら、隠れ蓑を使って逃れる」
「それが、無理なら?」
「その時は、実力行使だ」
巨人の後ろに回る。
もしもに備えて、姿勢を保つ。
それから、様子を見る。
乱暴に扉を開ける音とともに――
「餌をやりに来たぞ」
二人の男が、部屋に入ってくる。
どちらも見覚えはないものの、盗賊だとわかる。
ゴメス以外の盗賊に共通する、粗野な雰囲気があるから。
「こいつ、ほんとに生きてるのか?」
「もちろん、生きてるぜ。――ほらよ」
証明するように、男は巨人を叩く。
叩く音に、声が混じる。
それは――
思わず後ずさってしまうような、恐ろしいうなり声。
だが、聞き慣れているらしく、二人の男は動じない。
むしろ――
「服従しないくせに、不満だけは一人前だな」
不満が溜まっているらしく、二人の男は巨人を殴ったり蹴ったりしている。
ボコ、とか、ベコ、とか、音がする。
ウッ、とか、クッ、とか、声がする。
耳障りな音の連鎖――
俺は、深呼吸する。
こうしないと、姿を見せて、馬鹿どもを叩きのめしてしまう。
「さすがに餌をやらないと、死ぬぞ?」
「死んでもいいだろ、うるさい頭は消えたんだぜ」
「こいつは、頭のものじゃない。お前、あいつに殺されるぞ?」
「……そうだったな、しょうがない、餌をやるか」
二人の男は、巨人に水をかける。
「これで、十分だろ!」
「必要なら、他のやつがやるだろ!」
水浸しになった巨人を見て、二人の男は笑っている。
「あいつら―ー」
「ご主人、行っては駄目です」
馬鹿どもを叩きのめそうとしたら、引き止められる。
「契約を受け入れれば、俺たちに仕返しできるかもしれないぞ。――げははっ」
下卑た笑い声を残して、二人の男は部屋を去る。
ほどなく、俺たちは巨人の前に回る。
「ご主人、短期は損気ですよ?」
「お前、よくそんな言葉知ってるな」
「もちろん、ご主人の問題です。それよりも、自制してくださいね?」
スラゾウは念を押す。
「努力する」
「言葉だけでも、了承してください。オイラたちの目的は、人質の救出でしょ?」
「こいつも、人質だろ」
「ご主人、重荷を背負うことになりますよ?」
当の巨人は――
何も言わず、それでいて何かを求めるように、こちらを見つめている。
「こいつは?」
「ゴーレムですね」
「ゴーレム?」
「簡単に言うと、意思のある人形です」
「ロボットみたいなもの?」
「ゴーレムは、個体により意思の度合いが異なるそうです」
意思のある人形。
人よりも、機械に近いのかもしれない。
そのくせ、目の前の巨人は人にしか思えない。
人を始めとした生物にある、心が読み取れるから。
「こいつの意思の強さは、わかるか?」
「人間並みに、強い意志があります」
「俺たちのことを黙ってたのに?」
「ご主人、ゴーレムも魔物です。魔物は、基本的にしゃべれませんよ?」
「それでも、意思は伝えられる。俺たちの存在を示すのは、簡単だ」
「反抗期ですかね?」
それ以前の問題かもしれない。
「〈異世界博士〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界博士〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
ネーム・不明
クラス・マッドゴーレム(―)
ランク・G(―)
スキル・剛力G(―) 鋼体G(―) 抵抗G(―)
【パラメーター】
攻撃力・不明
防御力・不明
敏捷性・不明
「野良のゴーレムだ」
「盗賊の手中にあるのに?」
「契約を拒んでるのかもしれない」
「そうだとしたら、どうします?」
「もちろん、助ける」
「はぁ、言うと思いました」
「壁役を得られるかもしれないのに、残念そうだな?」
俺は首をひねる。
「面倒ごとに巻き込まれるからです」
「その根拠は?」
「盗賊側のテイマーに、敵対認定されますよ?」
スラゾウは警告する。
「散々邪魔されたし、散々邪魔したし、とっくに敵対済みだ」
「苦労しますよ?」
「こいつを助けられるなら、その程度の苦労は喜んで受け入れる」
巻き込まれるスラゾウには悪いけど、俺にとっては譲れない一線だ。
「スラゾウ、我慢してくれ。無理なら、他の魔物と契約次第、見送るよ」
「ご主人、オイラはそんなこと望んでませんよ」
「……悪い、負担を強いる」
「お詫びに、食事をたらふく奢ってくださいね?」
「わかった、約束する」
俺は相棒に感謝する。
「問題は、どうやってこいつの拘束を解くのか?」
ゴーレムの体を縛っている鎖は、簡単に外せそう。
問題は、鎖を止めている錠前。
その鍵を開けない限り、助けられない。
「スラゾウ、鍵に変化してくれ」
「体の一部でも構いませんか?」
「構わない。その錠前に対応できるなら、こいつを助けられる」
スラゾウはゴーレムを束縛している、錠前に近寄る。
それから、手に当たる部分を錠前に合わせる。
一致する形が見つかったらしく、手は鍵に変わる。
スラゾウの手が、ぐるりと回ると――
ガチャリ!
音を立てて、錠前は外れる。
「スラゾウ、よくやった!」
「褒められるのは嬉しいですけど、どうして鍵に変化できると思ったんです?」
「〈変化〉のランクが、上がったからだ」
「具体的に、お願いします」
「Gランクだと見た目のみだけど、Fランクだと中身も伴うと思ったんだ」
「本当に変化するようになったんですね?」
俺は頷く。
「よし、これでお前は、自由だぞ」
錠前に続いて、鎖を外す。
ゴーレムは戸惑っているらしく、硬直している。
「今更だけど、こいつは部屋の外に出られるのか?」
「オイラたちが、心配することじゃないですね」
「冷たくないか?」
「人質の救出は、一刻を争うんでしょ?」
「そうだけど?」
「これ以上ゴーレムに関わってると、捕まってる人たちを助けられなくなります」
スラゾウは指摘する。
「それは、そうなんなんだけど――」
「オイラも魔物だから、魔物を労わってくれるのは嬉しいです。ただ――」
「ただ?」
「宿の親子のことを考えると、父親の救出を第一にするべきです」
「……わかった、後はこいつに任せる」
俺は頷く。
「俺ができるのは、ここまでだ。後は、お前自身が何とかしてくれ」
「冷たいのは、わかってます。でも、こっちも優先するものがあるんです」
俺たちは部屋を後にする。
その際、思う。
あのゴーレムと、また会えるといいな、と。
囚われのゴーレムの救出です。
錠前の強度に関しては、目をつぶってください。
ゴーレムでは壊せなかった、と。