第14話 受付嬢エリザ
前回のポイント・宿の親子は、悩んでいるようだ!
『それなら、夫をたす――』
『お母さん!』
意味深なやり取りを残して、親子はテーブルを離れる。
用事があるらしく、引き止められなかった。
スラゾウの食事が終わるのを待って、宿を後にする。
その際、見送りはなかったから、親子の俺に対する関心は薄いのだろう。
「妻は、夫を助けたい。でも、娘は父を助けたくない。――興味深いだろ?」
「助けたくても、助けられないんじゃないですか」
「方針は食い違ってるけれど、目的は食い違ってない?」
「そう考えると、納得できませんか?」
俺は納得する。
「いずれにしても、オイラたちには無関係です」
「冷たくないか?」
「善意の押し売りほど、厄介なものはないですよ」
「いや、結局は善意よりも、悪意のほうが厄介だ。適当な機会に当たってみるよ」
「お人好しのご主人らしいですね」
お人好し?
スラゾウの指摘は、俺にとっては不快なものじゃなかった。
「騙されたいとは思わないけど、騙したいとも思わない」
「ご主人、盗賊は騙してますよね?」
「敵対した相手は、いいんだよ」
「たとえそれが、あの親子でも?」
「それは……」
答えられなかったんじゃない、答えたくなかったんだ。
沈黙している間に、テイマーギルドに到着していた。
昨日と同じく、周辺は混んでいるのに、周囲は空いている。
テイマーは、選ばれた者。
そのため、敬愛されるとともに、畏怖されているのかもしれない。
中は、どうだろう?
今日も、中は静か。
まるで、昨日に戻ったみたい。
異なるのは、受付に二人いること。
「エリザ!」
「驚いた?」
俺とエリザは言葉を交わす。
「私は報告書の作成が残ってるから、タロウちゃんの相手は任せるわ」
「わかりました」
「他の人が来たら、呼んでねん」
マリーは、奥の部屋に引っ込む。
「昨日、見送らなかったでしょ? それ、マリーさんの提案なのよ」
「マリーさんの提案?」
「劇的に再会すると、好感度が上がるとか、上がらないとか言っていたわ」
「恋愛ゲームかよ!」
俺は突っ込む。
「マリーさん、恋物語が大好物らしいから」
「そういう君は、どうしてここに?」
「もちろん、受付嬢になったからよ」
「受付嬢になった?」
「本来は、受付する側じゃなく、受付される側なんだけど」
「君にも、テイマーの資質があるのか?」
「王都の学校に通っていたのは、そのためよ」
エリザは裏話を明かす。
「タロウが見習いのように、私も見習いね。ただし、こっちは一時的だけど」
「一時的?」
「マリーさんの推薦らしいけど、好感度上げの一環かしら?」
「人手不足だからじゃないか」
実際は、俺の指摘に絡んだものだろう。
受付嬢にすることにより、人手と安全を同時に確保したのだ。
フェルではないけど、マリーは優秀だ。
「ご主人、エリザがテイマーなのかどうか、わからないんですか?」
「わからないけど?」
「あの兵士の話だと、わかるはずですよ」
ケネスは言っていた。
テイマーは、テイマーを認識できる、と。
事実、テイマーであるフェルは、俺のことをそうだと認識した。
だが、俺はフェルのことも、エリザのことも、そうだと認識できなかった。
「初対面の際、エリザは俺のことを、テイマーだとわかったのか?」
「もちろん、わかったわ。だから、言ったの。信じられない、と」
「あれは、そういう意味だったのか」
俺は頷く。
「タロウ、異人よね?」
「それが?」
「だから、本来備わっているものが、備わっていないんじゃないかしら?」
「その代わりなのか、〈異世界博士〉のスキルがあるね」
「それ、私に使ってみなさい」
エリザの指示に、俺は従う。
「〈異世界博士〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界博士〉の指定効果、発動』
言葉が響き、文字が浮かぶ。
【ステータス】
ネーム・エリザ
クラス・テイマー
スキル・不明
これによると、エリザはテイマーだ。
ただ、言われたから、書き込まれた可能性もある。
「正直、不明だね」
「それ、対象の秘匿情報を、特定できるわけじゃないんでしょ?」
「もちろん、できない」
「それなら、無作為に使ってみたら?」
エリザは提案に、俺は頷く。
「ギルドへの正式加入について、説明を始めてもいい?」
「もちろん、始めてくれ」
エリザに勧められた椅子に、俺とスラゾウは座る。
「ギルドに加入すると、規則を守る必要が出てくるわ」
「規則?」
「うちの場合、二点ね」
「二点?」
「一、ギルドからの指示を守ること。二、ギルドからの依頼を受けること」
俺は頷く。
「もっとも、これは原則ね」
「原則?」
「ギルドへの貢献度。具体的には、ランクによって、扱いは変わる」
「ランク、ね」
「ランクは、Gに始まり、SSSに終わる」
「SSS! やっぱり、すごいの?」
俺は興奮する。
「すごいというよりも、やばいの」
「やばい?」
「SSSは、治外法権と化してる。だから、極力関わらないで」
「言われてなくも、一切関わらないよ」
「まぁ、それは無理なんだけど」
エリザは言葉を濁す。
「注意事項とランク制度は、以上ね」
「契約した魔物の立場は?」
「主人のランクによるわ。だから、タロウはランク上げに励むべきね」
俺は頷く。
「ちなみに、魔物は亡くなると光の灰と化して、世界に還元されるわ」
「光の灰?」
「文字通り、光っている灰よ」
「それ、砂山のように崩れるのか?」
「その通りよ」
エリザは頷く。
「一方、野良の魔物は、死体として残る。その死体は、有効活用されるわ」
「有効活用?」
「資源として利用するの」
「資源?」
「加工品としても、それに食料品としても、重宝されているわ」
俺はスラゾウを見る。
「オイラは、煮ても焼いても食べられませんよ?」
「蒸したら?」
「外道!」
「揚げたら?」
「鬼畜!」
俺の冗談に、スラゾウは乗る。
「ふふっ、あなたたち、本当に仲がいいわね。知っておくべき情報は、以上よ」
エリザは微笑む。
「最後に、これは父からの助言」
「おやっさんからの?」
「最初のうちは、自分の手に負える依頼をこなして、経験を積むこと」
「経験値を稼ぐ、ね」
「同時に、戦力を増やすこと。タロウの場合、戦闘に向いた魔物ね」
「戦闘に向いた魔物?」
「手ごろなところだと、ハウンドね」
「ハウンド、か」
「マリーさんの用意した試練には、戦力増強の意味もあったらしいわ」
試練を受ける際、マリーが捕縛にこだわったのは、そのためだったんだ。
「ご主人、浮気ですか?」
「スラゾウは、ヘルハウンドを倒せるのか?」
「浮気は、文化ですね!」
「方針、変わり過ぎ……」
「早速、チーム・タロウの壁役を、探しに行きましょ?」
馬鹿丸出しの俺たちを――
「がんばって!」
エリザは、無邪気に応援している。
説明回です。
そのため、短縮と簡略を目指しました。
ただ、ヒロインとのやり取りですから、問題があるかもしれません。