第124話 絶望と希望
前回のポイント・グレゴールとスカーレットを退けた!
大聖堂に突入した俺たちは、呆然とする。
「これは――」
大聖堂の至るところに、死体が転がっている。
いずれも殺されたらしく、表情は引きつっている。
不幸中の幸いにも、その中にクーデリアとガルコの姿はない。
「奥に行こう」
俺たちは、死体を避けながら奥を目指す。
しばらく進むと、転がっている死体はなくなる。
それが余計、俺の中の不安を煽る。
歩く速度を上げて、奥に進み続ける。
「ご主人、クーが――」
「兄貴、ガルコが――」
スラゾウとゴレタは言葉を呑む。
大聖堂の最深部。
光の御子の間。
そこには、クーデリアとガルコが折り重なるように、倒れている。
そのそばには――
「ヨハン!」
ヨハンは、手にナイフを持っている。
そのナイフは、赤く染まっている。
おそらく、クーデリアとガルコの血によって。
「ヨハン、どうして……」
「どうして、殺した?」
「お前、どういうつもりだよ!」
「それは、私が真の暗殺者だからです」
ヨハンは微笑む。
「クーデリアはともかく、ガルコはどうして殺した!」
「光の御子に、逆らったからです」
「ライトに反逆したら、仲間でも殺すのか!」
「元仲間でしょう」
ヨハンは間違いを指摘する。
「キラタロウ、人の心配をしている場合じゃないですよ?」
「人の心配をしている場合じゃない?」
「あなたも、もちろん敵なんです」
「要するに?」
「今から、あなたを殺します」
ヨハンは告げるなり、距離を詰めてくる。
直後――
刃が、頭上を通る。
警戒していなかったら、喉を切り裂かれていただろう。
「ヨハン、本気なのかよ!」
「本気に決まっているでしょう?」
「本当に俺を殺すつもりなのかよ!」
「クーデリアも、ガルーダも、殺したんですよ?」
「ヨハン、お前――」
俺の言葉は、途切れる。
ヒュン!
喉に迫るナイフによって。
「ご主人、避けて!」
「兄貴、戦って!」
スラゾウとゴレタは忠告する。
「何なんだよ、いったい何なんだよ!」
俺はやり場のない怒りを覚える。
「ヨハン!」
「キラタロウ!」
俺とヨハンはぶつかり合う。
戦いは、互角。
互角なのは、最強無敵モードを解除しているため。
正確には、時間の経過とともに、最強無敵モードが解除されたため。
ヒュン!
ヨハンは、ナイフを振るう。
ブン!
俺は、拳を振るう。
俺も、ヨハンも、効果的な攻撃を繰り出せない。
そのまま、ずるずると時間が経過する。
「キラタロウ、素でも強いのですね!」
「ヨハン、お前、楽しんでるのか!」
「楽しんでいますよ?」
「人が死んでるんだぞ!」
「人は死ぬものですよ?」
俺とヨハンは、言葉でもぶつかり合う。
互角の戦いが続く中――
パチ、パチ、パチ。
拍手が聞こえる。
「キラタロウ、がんばっているね!」
姿を見せたのは――
「ライト!」
ライト以外には、シモンと見覚えのない老人がいる。
「キラタロウ、君は負けたんだよ?」
「負けた?」
「クーデリアは死んだ、ガルーダも死んだ。これから、宗主も死ぬ」
「その老人が、宗主?」
俺は引っ掛かる。
「光の巨人である僕は殺せないけれど、ヨハンとシモンなら可能だ」
「お前、光の巨人なのか!」
「宗主が死ねば、光の巨人じゃなくなる」
「そして、光の御子になる?」
「正確には、光の御子に成り代わる!」
ヨハンは悠然と微笑む。
「させるかよ!」
「言っただろう、君は負けた、と。無駄は、やめようよ?」
「無駄じゃない!」
俺は言い返す。
「シモン、彼に無駄だと、わからせてよ?」
「……わかりました、覚悟を」
シモンは、大振りの剣を振りかぶる。
「シモン、やめろ――」
シモンは、剣を振り下ろす。
ザシュ!
ライトに向かって。
「……僕を討ち取るための罠、か。でも、これぐらいでは、僕は死なないよ――」
「わかっている。だから、キラタロウに、後を託すのだ!」
再度、振り下ろしたシモンの剣は、ライトの言葉を遮る。
「どういうこと……?」
俺たちは顔を見合わせる。
「詳しく説明している時間はない。この場から、逃げてくれ!」
「逃げる?」
「ライトは、しばらくしたら復活する。それまでに、逃げるのだ!」
シモンは逃走を促す。
「クーデリアとガルコは?」
「もちろん、生きてますよ? ライトを騙すために、麻痺させたのです」
「ヨハン、お前……」
ヨハンは真実を明かす。
「へえぇ、騙されたのは、僕のほうか!」
少し離れた場所から、ライトの声が聞こえる。
「キラタロウ、時間を稼ぎますから、逃げてください!」
「キラタロウ、クーデリアたちを頼む!」
ヨハンとシモンは懇願する。
「ご主人!」
「兄貴!」
「わかった、逃げよう!」
俺たちは手分けして、三名を担ぐ。
俺は、クーデリア。
ゴレタは、宗主。
スラゾウは、ガルコ。
「ヨハン、シモン、頼んだ!」
俺の言葉に、ヨハンとシモンは微笑む。
俺たちは、その場を離れる。
「キラタロウ、逃がさないよ!」
「あなたの相手は、私だ!」
「お前の相手は、私だ!」
追いすがるライトの前に、ヨハンとシモンは立ちはだかる。
「君たち、邪魔だよ!」
ライトの声は、悪魔のように禍々しく聞こえた。
欝展開になると困るため、1話の中に絶望と希望を入れました。
次回は、ライトとの決戦です。
ただ、本題は決戦後かもしれません。