第116話 不死身
前回のポイント・ライトを討ち取った!
「そんな、馬鹿な――」
俺とシモンの言葉は重なる。
黒幕の死。
むろん、予想外の事態。
俺にとっても、敵にとっても。
「倒せなかった……」
「守れなかった……」
俺とシモンは悔しがる。
俺からすると、黒幕を討ち取れなかった。
敵からすると、主を守り切れなかった。
ともに、悔いの残る結末。
ただ、当事者であるクーデリアからすると、理不尽な要求だろう。
黒幕の死に伴い、自分の身を守れるし、祖父を救えるのだから。
「タロウ、シモンたちに先導させて、聖都に向かいましょう!」
「ライトは、本当に死んだのか?」
「死んでいるでしょう。何なら、確かめてみたら?」
クーデリアの言葉に従い、俺は首と胴体の切り離された、ライトに近づく。
当のライトは――
瞳は光を失っているし、手足は痙攣さえしていない。
死んだふりと思ったものの、間違いなく死んでいる。
「ライト、お前は何者なんだ?」
俺は自分の言葉に引っ掛かったものの、死体から目を背けるように振り返る。
「ご主人、後ろ!」
「兄貴、ライト!」
「後ろに、ライト……?」
スラゾウとゴレタの警告に従い、俺は振り向く。
同時――
目の前を閃光が走る。
俺はとっさに、体をのけぞらせる。
直後――
閃光により、後方の木々が押し潰される!
「警告を受けたとはいえ、不意の一撃を避けるとは驚いたよ」
数メートルの距離を隔てて、相対したのは――
「ライト……どうして!」
俺は驚愕する。
いや、驚愕しているのは、俺だけじゃない。
ライト以外の全員が、驚愕している。
首を切り飛ばされても、生きていることに!
「光の御子!」
「シモン、君の主は生きているよ?」
「ライト!」
「クーデリア、君の敵は生きているよ?」
味方に限らず敵にも、ライトは微笑む。
「ライト、どうして生きてる!」
「聞いたら、何でも答えてくれると思ってるの?」
「答えるつもりがないのなら、今度こそ殺すまで!」
「その調子、期待しているよ、キラタロウ!」
「ほざけ!」
俺は距離を詰める。
「遅いよ?」
目の前に迫ったライトは、拳を振りかぶる。
「そっちこそ、遅い!」
「遅い……ああ、そういうことか」
背後から忍び寄ったファイアゴレタは、炎をまとった拳を振り抜く。
ライトの拳が俺に届くよりも早く、ゴレタの拳がライトに届く!
ドスン!
直撃したライトは、炎に包まれる。
それは瞬く間に、全身を覆う。
あっという間に、人型の黒い塊が出来上がる。
「今度こそ、倒したっすよね?」
「おそらく」
人型の黒い塊は、ピクリとも動かない。
「確かに倒したね」
すっかり聞き慣れた、ライトの声がする。
声のしたほうを向くと――
そこには、無傷のライトがたたずんでいる。
「お前……」
俺たちは呆然とする。
「ヒント、欲しい?」
「ヒント、だと?」
「そのままだと、何度やっても無駄だよ?」
「無駄かどうかは、俺が決める!」
俺は一気に距離を詰める。
「スラゾウ、大型のハンマーに〈変化〉してくれ!」
「大型のハンマーですね、了解!」
俺はスラゾウビッグハンマーを構えると、ライトに振り下ろす。
ライトは避けることなく、むしろ受けるように待っている。
ズシン!
耳をふさぎたくなるような、重低音。
地面に、押し潰されたライトが横たわる。
「無駄だと、言っただろう?」
声のしたほうを向くと――
「ライト!」
俺とシモン以外の驚いた声が重なる。
「呆然としているシモンはともかく、タロウは驚いていないんだね?」
「予想通りだからな」
「予想通り?」
ライトは引っ掛かる。
「クーデリアも、ゴレタも、俺も、お前を間違いなく倒してる」
「でも?」
「間違いなく殺してない」
「当たり!」
ライトは楽しそうに笑う。
「タロウ、どういうこと?」
「理由は不明だけれど、ライトは三度の致命的な攻撃でも、死んでいないんだ!」
「それなら、動けない程度に留めたら?」
クーデリアは指摘する。
「それは、無理だ」
「残酷だから、やりたくないの?」
「そうじゃない、すでに試した。ハンマーの一撃は、死なない程度のものだ」
「それでも、復活した?」
「そう、復活した!」
俺は、ライトを睨む。
「ライト、お前は何なんだよ?」
「そういうキラタロウこそ、何なのさ?」
「俺?」
「あっという間に、僕の特性を見抜いたじゃないか?」
ライトの声からは、警戒心が読み取れる。
「偶然だろ」
「偶然は何度も続かない、だから必然さ」
「その場合?」
「君は、興味と同時に警戒に値する」
ライトの態度が切り替わる。
対象の観察から、敵の排除へと。
「生かすべきか、殺すべきか、それが問題だ」
ゾワリ!
悪寒が、背筋を這い登る。
「キラタロウ、君はすごいやつなんだよ?」
「どうすごいんだよ?」
「僕は、迷わない。その僕が、迷ったんだ。君の処遇を」
「褒め言葉として、受け取っておくよ?」
「むろん、褒め言葉だよ? ただし、敵への褒め言葉だ。僕は、君を敵とみなす」
ライトは、俺を睨む。
同時――
俺は、後ろに跳ぶ。
そのまま、じりじりと下がる。
少しでも距離を取らないと、殺されるとわかって。
「ますます、殺すのに惜しい存在だ。でも、殺さないとまずい存在だ」
「どうまずいんだ?」
「殺せないと、殺されるんだよ。――この僕が!」
ライトは拳を握る。
『エクストラスキルの兆候を確認しました』
不穏な言葉が浮かぶ。
「我の敵よ、消えろ。――〈煉獄〉!」
ライトの体が、膨れ上がる。
まるで、光の巨人みたいに。
直後――
グニャリ!
世界は、歪む。
「まずい――」
俺の言葉は、途切れる。
神さえ滅ぼす、滅亡の光に包まれて!
「ご主人!」
「兄貴!」
「がるるるぅ!」
「タロウ!」
「キラタロウ!」
俺を呼ぶ声。
それは徐々に、しかし着実に遠くなる。
「さようなら、キラタロウ」
ライトの慈悲に溢れた言葉を最後に――
俺の意識は、闇に沈んだ。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
引き続き、打ち切り展開ではありません。
それに、欝展開に突入でもありません。
調子はあまりよくありませんが、続けるつもりです。